ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情 ＠国立西洋美術館

　Ｔａｋさんに誘われて内覧会に行ってきた。写真撮影は許可をえたので自由に撮らせていただいた。　ハンマースホイはデンマークの室内画家であり、2年前に訪れたストックホルムのティールスカ・ギャレリーや国立美術館で見たことがあり、最近東美で開かれたオルセー美術館展でも遭遇したので、気になっていた画家である。

　ところが、この画家は、最近再発見されたという形で世界中で回顧展が開かれているとのこと。本邦では、もちろん今回が最初である。

　全体を通してみると、ハンマースホイの画風はほとんど変わっていない。すこしぼやけたタッチで描き、薄暗いともいえる全体像のなかに強い光を当てている。画面内の物体は最小限にまでそぎ落とされ、まるで舞台の上を見るようである。

　佐藤直樹学芸員↓の明快な解説があり、全体を十分に把握できた。　その後、Ｔａｋさん、mizdesignさん、さちえさんと一緒にジックリ時間をかけて鑑賞した。ちょうど中川大臣も来ておられ、熱心に観ておられたので、感心した。全体は6章に分かれているので、それに従って、撮ってきた写真をアップする。フラッシュなしのコンパクトカメラなので画像が良くないが、大体の雰囲気を伝えるのが目的なので、ご寛容をお願いする。

　Ⅰ．ある芸術家の誕生：　《画家の妹アナ・ハンマースホイ》↓は画家21歳の作品であるが、すでに完成の域に達している。ところがこの作品がアカデミーに落選したため、画学生の間で激しい論争が起ったとのことである。　Ⅱ．建築と風景：　旅行好きの画家だったが、外国で描いた画はごくわずかで、ほとんどがデンマーク内で描かれたものである。
　これに対して、↓の左は大英博物館でのスケッチ、右はルーヴルでみたレリーフである。　ハンマースホイの風景画のなかでのお気に入りは、↓の《ゲントフテ湖、天気雨》である。これは幹線道路だそうだが、人間の活動はまったく見られない。東山魁夷はデンマークに留学しているが、彼もこのような景色を見たのだろう。ちょっと雰囲気の似た画もある。　Ⅲ．肖像：　彼は自分の知人しか描かなかったそうである。コレクターであった歯科医の《アルフレズ・ブラムスン》の肖像は、もちろんきっちりと描いている。奥さんの《イーダ・ハンマースホイの肖像》↓は暗緑色で、病的な感じがする。、　これにくらべ、ウフィッツィのヴァザーリ廻廊に掛けられている《自画像》は健康そのものである。　《画家とその妻の二重肖像画》を見ると、奥さんイーダの顔色もそれほどひどくなく、チョット安心する。　《3人の若い女性》↓や《休息》を見ると、まともな肖像画である。後者はオルセー美術館蔵で「うなじの肖像」と呼ばれているとのこと。　Ⅳ．人のいる室内：　これは今回の展覧会のメインのセクション。イーダの背中を向いた姿が、沢山出てくる。室内の細部に変更はあるものの、本質的には同じような作品が並んでいる。ストランゲーゼ30番地の屋内で描かれたものが多く、これらはヴァーチャルリアリティや地図で、屋内のどこで描かれたかが分かるように説明されていた。　Ⅴ．誰もいない室内：　確かに人は描かれていないが、先ほどまで人がいたような気がする作品ばかりである。中では《ソファ》↓がお気に入り。窓の光の動きを追っているらしい。　《パンチボウルのある室内》↓のパンチボウルはロイヤル・コペンハーゲンの時代物ということで、会場にレプリカが出ていた。　Ⅵ．同時代のデンマーク美術：　義理の兄のビーダ・イステルス↓やカール・ホルスーウ↓↓の作品が出ていたが、いずれもハンマースホイよりも明るく、生活観も存在していた。この二人は国内で有名であったが、ハンマースホイは国外で有名になったというから皮肉なものである。　外へ出たらかなり暗くなっていて、雨が降っていた。このような天候にハンマースホイは似合っている。　日本人の美意識の表現として、「四十八茶、百ネズミ」という言葉がある。その意味で、ハンマースホイの鼠色はまさに日本人向きである。ホワイトキューブの美術館よりも、落ち着いた茶色の美術館のほうが向いていたかもしれないが、お勧めの展覧会であることには間違いない。

美術散歩　管理人　とら