会場の手前のホールには、オバケを描いた映画ポスターが10枚並べられているほか、子供たちに興味を持たせる工夫や仕掛けが随所にみられた。妖怪たちと一緒に記念写真を撮ることも出来るようになっている。
構成順にこの展覧会の内容を紹介する。
Ⅰ.描かれた妖怪(57点): 歌川貞秀の《怪物尽》、河鍋暁斎の《暁斎百鬼画談》、月岡芳年の《地獄太夫》↓などが面白かった。芳年の地獄太夫の前世は鏡の中に映っている。これを二匹の鬼が覗きこんでいる。
しかしながら、何といっても壮観なのは、月岡芳年の《新形三十六怪撰》が目録を含め37枚並んでいることである。発色が良く、双眼鏡ではエンボスもしっかり見られる。これについては、フラッシュなしの写真撮影の許可を頂いたので、画像の質は悪いが、最後にまとめてアップすることにする。ここでは、《新形三十六怪撰》のうちの「四谷怪談」だけ↓を引用するが、これは「浮世絵の歴史」(美術出版社)からとったものである。
Ⅱ.おもちゃになったオバケたち(28点):おもちゃとしては、天狗、入道、牛鬼、妖怪が沢山出ており、面白いものとしては、神戸人形がいくつかあった。これらはからくりのオバケである。
Ⅲ.身近な水辺の妖怪・河童(15点): 歌川国芳の《河童図》↓、北雅の《胡瓜河童図》、河童のお面や模型が沢山出ていた。
Ⅳ.その他の関連資料(2点): 《鬼の歯》が真面目に作られていて笑ってしまった。
学芸員の
神宮喜彦さんに伺うと、今回の展示品はすべて館蔵のものであるとのことである。ちょうどメディアのインタビューを受けておられたので、便乗して写真を撮らせていただいた。このような素晴らしい展覧会を企画されたことに、敬意を表する次第です。
8月31日(日)までであるが、美術ファンには見逃せない展覧会である。
月岡芳年の《新形三十六怪撰》↓・・・手振れ写真、ガラスに自分が写ったダブルイメージ、ご容赦願います。題名をクリックするときれいな画像が見られます。
目録↓の枠は虫食い状になり、色の異なる楓の葉とともに、張り巡らされた蜘蛛の糸が怪奇の世界を表している。
1.貞信公夜営宮中に怪を懼しむの図: 藤原忠平が、刀の鞘から出てきた化物を睨むと、怪物のほうが怯える。
2.さぎむすめ: 白鷺の精が娘の姿となって現れている。
3.
武田勝千代月夜に老狸を撃の図: 武田信玄が、木馬を切ると、それは狸だった。
4.大森彦七道に怪異に逢ふ図: 月夜に川を渡れずにいる娘を負ぶっていくが、この娘は楠正成の怨霊である鬼女だった。
5.清玄の霊桜姫を慕ふの図: 殺された僧「清玄」が、桜姫を慕って、襖のススキの中に浮き出てきている。
6.老婆鬼腕を持去る図: 渡辺綱が取った鬼の片腕を伯母の姿をした鬼女が取り返しに来た。
7.鬼若丸池中に鯉魚を窺う図: 弁慶が、池の中の巨大な鯉と闘う前の姿。
8.小町桜の精: 桜吹雪の中に立つ遊女は、芝居「積恋雪開扉」に登場する小町桜の精霊。
9.為朝の武威痘鬼神を退く図: 伊豆大島に流された鎮西八郎為朝が、疱瘡の鬼を退ける姿。赤い幣束と疱鬼の手形が描き込まれている。
10.内裏に猪早太鵺を刺図: 頼政が射落とした鵺を猪早太が抑えて刺し殺すところ。
11.清姫日高川に蛇躰と成る図: 安珍を追って日高川に身を投げ、蛇となる清姫。衣裳が蛇の鱗模様となっている。
12.蒲生貞秀臣土岐元貞甲州猪鼻山魔王投倒ノ図: 土岐大四郎が、魔王堂において仁王の妖怪と仏陀に相撲を挑まれたが、投げ倒した。あたりに蝶が舞っている。
13.鍾馗夢中捉鬼之図: 玄宗皇帝の夢の中に出てきた小鬼を捕まえようとする鍾馗。小鬼は怯えている。
14.地獄太夫悟道の図: 堺の遊女で、後悔のため、地獄で苦しみを受ける光景を描いた地獄変相図を身につけていた。
15.藤原実方の執心雀となるの図: 陸奥に左遷された藤原実方の望郷の念が、雀となって都に帰る。
16.平茂惟戸隠山[に悪鬼を退治す図: 平惟茂は、勅命を受けて、戸隠山麓の荒倉山に棲む鬼女紅葉を退治した。構図は、「林間に酒を暖めて、紅葉を焼く」という白楽天の詩に基づく。
17.皿やしきお菊の霊: 主人秘蔵の皿を割ったため、井戸に投げ込まれたお菊の霊が現れて、悲しそうに皿の数を数えている。
18.藤原秀郷龍宮城蜈蚣を射るの図: 俵藤太が、龍神の敵である近江三上山の百足を退治するところ。矢を射る秀郷の傍には、怯える竜宮の姫。
19.布引滝悪源太義平霊討難波太郎: 難波経房に斬首された悪源太は、布引滝の見物一行の前に、雷神となって現れた。
20.葛の葉きつね童子にわかるるの図: 裾にすがりつく幼い童子、安倍清明と別れる母親。障子の陰のその顔は白狐に成り変っている。
21.仁田忠常洞中に奇異を見る図: 冨士の洞穴の中で、仁田忠常が見た怪異なものは、大蛇であったと伝えられる。
22.清盛福原に数百の人頭を見る図: 福原に都を遷した平清盛のもとに現れた大きなドクロ。その眼は襖の引手となっている。
23.奈須野原殺生石之図: 化けの皮をはがされて、殺された九尾のキツネが、百年後に奈須野ヶ原の老僧の家に美女の亡霊となって現れた。
24.秋風のふくにつけてもあなめあなめをとはいはじすすき生けり 業平: 在原業平は、ドクロの眼から生えたすすきが秋風になびき、小野小町の歌を詠む声を聞いたという。
25.三井寺頼豪阿闍梨悪念鼠と変ずる図: 違約を怒った三井寺の頼豪は、死後、大ネズミとなって比叡山の仏像・経典を食い破ったという。
26.蘭丸蘇鉄之怪ヲ見ル図: 夜な夜な異様な音をたて、葉をざわめかせる巨木だが、蘭丸が灯りをかざすと、静かになった。
27.ほたむとうろう: 美女の亡霊が、老女の持つボタン灯籠の明かりに従って、恋人のところへ。
28.大物浦ニ霊平知盛海上に出現之図: 瀬戸内海に沈んだ平知盛が、大物浦の海上に現れる。
29.小早川隆景彦山ノ天狗問答之図: こちら側の天狗と問答する小早川隆景の姿は斜めの隙間から見てとれる。
30.二十四孝狐火之図: 上杉の八重垣姫は、敵方の武田勝頼を救うため、キツネ火に守られながら、兜を持って、湖を渡る。
31.やとるへき水も氷にとちられて 今宵の月は血にこそあり 宗祇: 古寺で、うつむいて向うを向いている男の作った上の句に、下の句をつける連歌師の宗祇。
32.源頼光土蜘蛛ヲ切ル図: 国芳の戯画にも取り上げられている有名な場面。土蜘蛛の目が、漫画チックである。
33.節婦の霊滝を掛る図: 夫、飯沼勝五郎の仇をとらんとする初花の亡霊。
34.茂林寺の文福茶釜: おなじみの和尚さん「守鶴」は、実はタヌキ。
35.四ツ谷怪談: 憤死したお岩が、蛇のようになった腰紐の姿で降りてくる。
36.おもいつゝら: 欲張り婆さんが、舌切り雀からもらった大きなツヅラを開けると、中から妖怪がゾロゾロ出てきた。
美術散歩 管理人 とら