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ウィーン美術史美術館は世界有数の美術館である。昨年3月に訪れる機会↓があったが、その前にも東京で何回かその展覧会(①、②、③)を見ているので、おなじみの美術館のような気がする。
誘われて開催前日に観ることができた。プレスプレビューの最初は企画者の挨拶。国立新美術館の本橋弥生氏の展覧会の概要説明では、75点の静物画を展示した目的は、①静物画がどのように成立したか、②静物画にどのような秘密がこめられているかを検証することの2点であるとのことであった。画の中に静物を描くことはローマ時代からあったが、これが静物画という独立のジャンルとなったのは17世紀のオランダ・フランドル以降である。その後、章立てとその展示数、巡回先、イベントなどについて長い話があった。 次いで、ウィーン美術史美術館館長のザイベル氏から挨拶があったが、ウィーンの美術館を訪れる外国人としては日本人がアメリカ人に次いで第2位であり、全体の14%を占めるということである。日本人にもっと来てもらいたいというプロモーションの挨拶だった。何回も日本でウィーン美術史美術館展を開いているが、今回はspecific for still lifeであるという言い訳もあった。 副館長のシュッツ氏は今回の展覧会の監修者らしく細部にわたる説明があった。まずは「静物画の定義」から。「動かないもの、生命を持っていないものを配置して描いた画」である。17世紀にオランダに始まり、ドイツ、イギリスに移っていった。オランダ・ドイツ・イギリスでは、Stilllebenあるいは still lifeと呼ぶ。このうちstillは動かぬものという単純な意味であるが、Lebenないしlifeの意味はもう少し複雑である。これはclose to nature すなわち realityを意味しているのである。 一方、フランスやスペインでは、natura morta と呼んでいる。この場合のmortaは死という意味ではなく、not moving あるいは frozenという意味である。このように北方と南方で言葉の順序が逆になっているが、意味はまったく同じである。 「静物画の特徴」としては、第一に「リアリティー」があげられる。写実を追及するため、だまし画のようなものや表面を描き分けたものも登場している。静物画の第二の特徴は、意味がこめられているということである。vanity や transiencyという概念を含んでいるということである。この点、宗教的でもあり、風俗画の中にもそういったstill lifeが入ってきている。 とても良い内容の話だったが、立ったままでメモするのは大変だった。プレスプレビューの参加者は少ないのであるから、講堂などを用意すべきであったと思う。その点、日本側監修者の木島俊介教授は、立たせたままの話で申し訳ないとおっしゃりつつ、この展覧会は8年間の交渉の結果開催されたものであることと、わが国には静物画の文献が少ないので、今回の図録はその意味で貢献するだろうとの2点だけを紹介された。木島氏の話をもう少し聞きたかったというのが正直な感想である。 その後、シュッツ副館長のギャラリー・トークがあった。画の選定やその内容も面白かったので、個別に紹介したい。 ○アントニオ・デ・ベレダ《静物:虚栄(ヴァニタス)》 一緒に回っておられた木島教授に「あの本はなんですか?」と伺ってみたが、「図録に学芸員が書いていると思います」という答えだったので、シュッツ副館長に直接に聞いてみた。「おそらく聖書でしょう。テーブルの板にNIL OMNE(すべては空)と書いてあることと関係があるのでしょう」との答えだった。帰宅してから、図録を開いてみたが、この本のことには触れられていなかった。 ○ヤン・ブリューゲル(父)《青い花瓶の花束》 ○ルーベンス《チモーネとイフェジェミア》 ○ディエゴ・ベラスケス≪薔薇色の衣裳のマルガリータ王女≫ このギャラリー・トークで時間がなくなってしまったので、その後の一般の特別内覧会に混じってゆっくりと見た。お気に入りの一部は下記。 ○バスケニス《静物:楽器、地球儀、天球儀》 これはウィーンで観た際に埃っぽい楽器についた指跡まで表現されていることに気付いていたので、そのことを木島教授に申し上げたところすぐに同意された。このことが図録に触れられていないのは残念である。 ○デ・ヘーム《静物:朝食卓》 ○ヤンステーン《農民の婚礼(欺かれた花婿)》 これは毎回のように見る画だが、ナカナカ面白い。見どころは、花婿が裏切られていること。部屋の中の若い男が、「二本」の指で天井を指している。そこには「二股」の鹿の角(コキュ)がぶら下がっている。二股をかけた新婦。そのお相手は天井を指差す男の他に、それに向かって一本の指を口に当てて制している男がいる。そうするとこの新郎は三人目。新婦の妊娠の責任者は一番目の男なのだろう。そのくせ新婦は貞節らしい仕草や涙ぐんでいる。散らかった花は純潔が失われてしまっていることの暗喩。画家の顔をしたステーンが馬鹿げた音を出すという楽器を持って、新婦のお腹を押している。 ○ダウ《医師》 レンブランドの弟子であり、ライデンの「緻密画家」と呼ばれたダウの作品。フラスコに入った尿を調べる医師だが、偽医師らしいとのこと。後の女性が持ち込んだ尿で妊娠の有無を調べているらしい。皿・瓶・医学書は医師を暗示している。 ○ダウ《花に水をやる窓辺の老婦人》 これも「ダウ」。皺の描き方が巧い。しかし、この老女は何を見つめているのだろうか。空の鳥籠は老化を暗示しているのだろうか。花に不必要な量の水が入る大きな水瓶は何のためなのだろうか。この画の解釈はなかなか難しいという。専門家にも分からぬということを知ってちょっと安心するへそ曲がり。 まとめ とても地味だが、味わい深い展覧会である。当時の情景を再現すべく、室内を暗くしていることもこの展覧会を渋いものにしている。ゆっくり時間をとって、細部にわたるまで観察すれば、思わぬ発見がある。「秘密展」という名称通りに画の秘密を探る楽しみである。 今回の75点のうち日本に来たものが16点もあり、現地の「ウィーン美術史博物館ガイド」に搭載されている画が3点に過ぎないということを理解していけば、裏切られることはないだろう。 美術散歩 管理人 とら HP
by cardiacsurgery
| 2008-07-05 15:18
| バロック
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