福沢一郎の戦争画 ＠東京国立近代美術館

　平成19年度第1回所蔵作品展前期に展示されていた戦争画3点のうちの一つ。他の2点は、太田喜二郎の《陸軍記念日に》と硲伊之助(三彩亭）《臨安攻略》。

　福沢一郎は1924－31年にフランスに滞在し、わが国へシュールレアリスムを紹介した画家である。

　この《船舶兵基地出発》は、暗い海中に舟と兵士が描かれている。劇的でロマン主義的な作品であるが、戦争賛美の絵画であるとはとてもいえない。これは1945年、敗色濃厚となっていた頃の作品である。この兵士は無事帰還できるのであろうか。船を取り巻く暗さがその運命を暗示しているのかもしれない。　この画のちょうど反対側に同じ画家の有名な《牛》が展示されていた。こちらは迫力のある巨大な牡牛二頭の向こうに争っている人間たちの姿が描かれている。これは1936年の作品。2.26事件の起きた年である。悲劇の人間が後景に退き、不条理なエネルギーが牛の形をとって描かれているのだろう。しかしこのときの空や大地はまだ明るく、戦争に突入する暗い未来をはっきりと予知していたわけではない。

美術散歩　管理人　とら

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