アナザーストーリーズ ナチス略奪の名画。世紀の発見スクープ
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5年前(2013年)、ドイツ・ミュンヘンのマンションの一室で、総額数億円ドルとされる大量の絵画が発見された。
その価値は、推定300億円以上。
これらはナチスが没収した絵画だった。
これらの数々の名画は、失われていたはずものだった。
ドイツの週刊誌「フォークス」は、これを「ナチスの宝、70年後の大発見」と報道した。
このフォークス誌の報道は、ナチス略奪絵画についての執念のスクープであり、その舞台裏が注目された。
このフォークス誌の報道は、2013年11月月4日になされた。
視点1 2人の記者。トーマス&マルクス。ドイツ、ミュンヘン。
元フォークス誌記者トーマス・レル。
トーマス・レル⇒膨大な数の絵画が押収された?
トーマス・レル⇒ナチスに略奪された絵画?
トーマス・レル⇒ナチスの画商ヒルデブラント・グルリットの息子らしい。
ナチスの画商ヒルデブラント・グルリット
1956年、ヒルデブラント・グルリット 交通事故により死去。
グルリット家の手紙に、ヒルデブラントの息子の名前「コルネリウス」が書かれていた。
二人目の記者:フォークス誌副編集長 マルクス・クリシャ 登場。
ヒルデブラント・グルリットの妻の名前がヘレネ・グルリットであることを発見。
グルリットの表札がまだ残っていた。6階の角部屋である。
どのように捜査が始まったかが記された捜査資料が残っていた。
家宅捜査時の写真。
大戦下にナチスに押収された美術品。
2010年9月22日、列車:ミュンヘン⇒チューリッヒ。
行きの列車に乗り合わせた税関官吏の老人客に関するレポート。
上記のレポートを読んでいた帰りの列車の税関官吏の同じ老人客に関する感想:多額の現金(9000ユーロ、約120万円)が見つかり、明らかに興奮し、うろたえていた。
老人客の言い訳:父親が画商で、昔売買した絵画の金がスイスの銀行にあり、それを下しただけだ。
税関官吏の判断:「絵画の闇取引」があったのではないか。
なぜ当局はこのことを公にしなかったのだろうか。
ドイツ民法では、絵画の所有権は元の持ち主から、絵画を30年以上保有していたグルリットに移ることになっていた。
捜索に同行した美術史家ファネッサ・フォークト:捜査員たちは絵を見つけると、「これは何だ」と私に聞いてきた。
なぜ捜査情報がフォークスの記者たちにリークされたのか?
捜査員たちは「ナチスの略奪絵画を、あの住民に返却するのだけは避けたい」と考えたのである。
ナチスの略奪絵画として雑誌フォークスに載せられたフランツ・マルク《風景の中の馬》。
「フォークス」は「発見された絵画が、再び謎の男のもとに返されるようならば、この衝撃的発見は悲劇に終わる」と結んでいた。
ネーミッツ上席検察官は「あの絵画は先祖のものだ」という意見や、「他にどんな略奪絵画があるのか」などの問合せが殺到していることを明らかにした。
フォークスの執念のスクープ記事を読んで世界中から集まったメディアの一人が、買い物に出た「コルネリウス・グルリット」を隠し撮り見した。
視点2 美術史家 マイケ・ホフマン視点2:美術史家、絵画に刻まれた衝撃の真実ナチスが奪った絵画。
記者会見に臨む首席検察官と政府から調査依頼を受けた女性美術史家マイケ・ホフマン
マイケ・ホフマン曰く:発見された絵画は、美術的にとても価値が高く、非常に保存状態が良いものだった。
ピエール=オーギュスト・ルノワールの作品。
エドヴァルド・ムンクの作品。
オットー・ミュラー《マシュか・ミュラーの肖像》
ヴァルラフ・リヒヤルツ美術館 所蔵絵画(Gemaelde-Inventar)
ヴァルラフ・リヒヤルツ美術館所蔵絵画(↑)の背面に刻まれた番号は「14771」。
これはヴァルラフ・リヒヤルツ美術館所蔵のオットー・ミュラー《婦人像》で、その没収番号は「14771」だった。
このように「没収番号14771」とオットー・ミュラー《婦人像》の没収番号とが一致していた。
これがナチスに没収されたことを示す何よりの証拠である。
ナチス没収作品・アンリ・マティス《女性像》。
このアンリ・マティスの《婦人像》は、額から外し資料に挟んで隠されていた。
約400点が美術館や市民からナチスが奪い取った絵画である。
ヒルデブラント・グルリットはその手記に「8万点の絵画がナチスに燃やされた」と書いていた。
他方、ヒルデブラント・グルリット(↓)は「名画を守った人物」として世間の尊敬を受けていた。
カール・シュピッツヴェ―ク《ピアノ演奏》
カール・シュピッツヴェ―ク《ピアノ演奏》の所有者であったユダヤ人コレクターの家族は、この画を買い戻そうとヒルデブラント・グルリットに連絡した。
これに対し、ヒルデブラント・グルリットは「あの絵は空襲で焼けてしまった」という手紙をユダヤ人コレクターの家族に送った。
戦争がヒルデブラント・グルリットの人間性や考え方をを大きく変えてしまったのだと思われる。
父親ヒルデブラント・グルリットと息子コルネリウス・グルリット。
1956年に父親ヒルデブラント・グルリットは死去したが、戦後もナチスの重圧はまるで家訓のようにのしかかり、家族に対しても同じように事実の隠蔽を要求したのだと思われる。
息子のコルネリウスも「歴史の被害者」だったように思われる。2014年5月、コルネリウス・グルリット死去。
視点3 ユダヤ人遺族 デヴィッド・トーレンマックス・リーバーマン《浜辺の乗馬》
《浜辺の乗馬》を2時間も眺めていた当時13歳のデヴィッド・トーレン少年。
アメリカに亡命するデヴィッド・トーレン少年を見送る両親。両親は、その後アウシュビッツに送られ、殺害された。
老デヴィッド・トーレンの思い出:父親の2人のナチス党員による逮捕。
アメリカに亡命したデヴィッド・トーレンは、ニューヨークで弁護士として成功した。
デヴィッド・トーレンとその息子ピーター・トーレンは、アメリカ国内の裁判所でドイツ政府を訴えるこことした。
この訴訟はフランクフルト総合新聞(2014年3月10日付)で報道された。
このようにして《浜辺の乗馬》はドイツの悪夢となって走り始めたのである。
この訴訟は、美術品を奪ったナチスの責任をドイツ政府に問うものだった。
デヴィッド・トーレンたちは「アメリカにあるユダヤ人の財産を差し押さえる権限を頂きたい」とドイツ政府に連絡した。
これに対しドイツ政府は「訴えを取り下げれば《浜辺の乗馬》を返還できるよう最善を尽くす」と返答してきた。
(↓)は、《浜辺の乗馬》返還時の写真である。画の傍らに写っている人物はデヴィッド・トーレンの息子ピーター・トーレン。
コルネリウス・グルリットの全財産
コルネリウス・グルリットは「私の全財産をスイスの美術館に寄贈したい」と遺言した。
スイスの美術館としては「ベルン美術館」が選ばれた。
「
ベルン美術館グルリット作品館 」(
WERKSTATT GURLITT) 館長ニーナ・ツィマー
コルネリウス・グルリットが持っていたナチス没収絵画を保管中。4点は正しい所有者に返還済み。
「
ドイツ連邦共和国美術展示館」(
ドイツ連邦共和国美術展示館)
ドイツ国内にある所有者不詳のナチス没収絵画はここに保管されている。
【註1】スイスのベルン美術館は、故コーネリウス・グルリット氏が所蔵していた絵画の遺贈を受け入れると発表した。同氏の父はアドルフ・ヒトラー専任の美術商で、遺贈品の中にはナチス略奪美術品が含まれているとされる。ドイツは今後、遺贈される絵画やデッサン、スケッチなど計1200点の出所を調べていく方針である。また、ナチスドイツから逃れたユダヤ人家族の遺族が絵画の返却を求めてベルン美術館を訴えた場合に生じる法定費用は、ドイツが負担するという。「これは簡単な決断ではなかった」と、ベルン美術館基金委員会のクリストフ・ショイブリン氏は記者会見で語った。また、遺贈品が背負う歴史の重さを鑑みれば、同館には寄贈を受けたことで「得した」という感情はないとのことである。
【註2】ナチスに略奪され、行方が分からなくなっていた絵画1400点以上を所有していたドイツ人美術品収集家コーネリウス・グルリット氏が死去し、ピカソ、セザンヌ、シャガールなどの作品を含むコレクションはすべて、スイスのベルン美術館に遺贈されるという唐突の知らせに、同館は驚きを隠せないでいる。 グルリット氏の所蔵品を巡っては、現在、同氏の親類が所有権を主張しているが、ベルン美術館の受け入れ決定に影響はないという。同館は、ナチスに略奪されたものと判明した絵画はスイスには持ち込まないと強調している。また、グルリット氏との間で交わされたやりとりの多くを、今後公開する予定にしている。数百億円の価値があると言われている遺贈品は現在、ベルリンで保管されている。これまでに元の所有者が判明したのは、その3分の1だ。モニカ・グリュッタース独文化大臣によると、遺贈品のうち240点の出所が不明だという。
【註3】2014年5月に、コーネリウス・グルリット氏が死去した際、所蔵品をベルン美術館に遺贈するという遺言が残されていたことが判明して世間を騒がせた。しかし、ベルン美術館が遺贈を受けるという噂は前々から上がっていたため、その発表にあまり驚きはない。今回の決定が、遺言が発表されてから数カ月後となった理由についてベルン美術館は、遺贈を受けることによる法的問題やモラル問題を明らかにしなければ、ナチスの犠牲者の遺族から絵画の返却を求める訴えが何百件も起こされる可能性があったためだとしている。
【註4】グルリット氏がメディアで注目されるようになったのは2010年のこと。ドイツで年金生活を送っていた同氏は、スイスからドイツへ向かう電車の中で税関から無作為に選ばれ検査を受けた際、日本円で数百万円にあたる数千ユーロの現金を所持していたことが発覚した。その後、独当局が脱税容疑でグルリット氏の自宅を捜査した際、ピカソ、ルノワール、マティスなど、推定数百億円の価値がある芸術作品が自宅から大量に見つかった。この事件は2013年に公になり、そのニュースは世界中を駆け巡った。特に、グルリット氏の死後、所蔵品のすべてがベルン美術館に遺贈されるという話は世界から注目を浴びた。
美術散歩 管理人 とら