遺された青春の大作～戦没画学生・久保克彦の挑戦 ＠日曜美術館

これは今週（2018/8/26）の【日曜美術館」で放映された「遺された青春の大作～戦没画学生・久保克彦の挑戦」のメモである。【概略】
昭和17年23歳の画学生が大作を描いて卒業し、2年後に戦死した。
東京美術学校図案科の「久保克彦」（↓）である。彼が遺した7メートル超の「図案対象」（↓）は、今何を語りかけてくるのか。この作品は、戦時下とは思えない現代絵画を先取りした前衛芸術的な表現に満ちている。
久保は戦死する命運を担いながら美の探究の総括としてこの作品を描いた。
久保の大作は今何を語りかけてくるのか。
戦争を実感できない、若い世代も参加して読み解いていく。

【出演】　
東京芸術大学教授・佐藤道信
アーティスト・会田誠
文筆家・黒田和子：　久保克彦の姪。1931年東京生れ。慶応義塾大学文学部史学科通信教育課程卒業。久保克彦関係のエッセイ・論文には、「昭和十七年、叔父が残した卒業制作」、「図案対象に就いて」、「輓馬の歌」、「図案対象を読む」などがある。
【司会】
小野正嗣
高橋美鈴
【メモ】

東京藝術大学デザイン科・押元一敏准教授デザイン科押元一敏准教授は、出席している学生にむかって、「まずは《図案対象》を向って右から第一画面・第二画面・第三画面・第画四面・第五画面と整理し、それぞれの内容を検証していこう」と発言。

1）一番右の第一画面は、ねじれて回転する曲線や円など、平面的な図柄で構成されている。　2）第二画面は立体的な楕円や球体が浮遊し蝶や花々が乱舞する不思議な構図である。3）中央の第三画面は、墜落する戦闘機と大きな船のまわりに鳥や昆虫、魚などが一見無秩序に描かれたダイナミックな具象画になっている。4）第四画面は、岩石など様々な立体物を平面に置き換えて表した幾何学的な構図。5）一番左の第五画面は、同じ形を無限に繰り返すフラクタルの法則など数学的な原理を視覚化している。・デザイン科押元一敏准教授は。「次に”対比”に注目していこう」と学生を指導。学生たちは五つの画面の中にさまざまな「対比の構図」があることに気付いた。・デザイン科4年生中村ゆりかさん：「抽象と具象」の対比、「線と曲線」の対比。・デザイン科4年生芹沢大輔さん：「幾何学的なもの」と「有機物的なもの」との対比。・デザイン科押元一敏准教授の指導：　次に、「黄金比」に注目してみよう。・黄金比の説明⇒「こちら」・黄金長方形　１：1.618。・黄金長方形分割　1/2。・黄金長方形分割　1/5。文筆家・黒田和子　　久保克彦の姪で、久保の表現の秘密を解き明かそうと研究してきた。10歳の時に《図案対象》の制作にも立ち会っている。

一見無秩序に見える第三画面（↓）には、すべてのものが計算された法則の上に配置されている。「分割線と対角線のところに蝉がいる。トンボがいる。トビウオがいる。みなそれぞれのところに何かが置かれている」黄金比で分割された四角のカドの船やクレーンなどの線を延長していくとその交点にあらゆるものが配置されている。トンボや飛行機。グライダーや蝉、鳥などほぼすべてのものが計算され配置されていることがわかる。さらに、さまざまな線は他の画面にもつながっていて、画面と画面との複雑な関係性が見えてくる。
・さらに黒田は、五画面を通して「時間の経過」が描かれているという。「すべてのものに影ができている。その影と実物とをつなぐと太陽の位置がわかる。朝日、夕方となっていて時間の経過を表している」とのことである。

・第一画面＝午前6時。
太陽の位置を計算すると、第一画面は木の陰により午前六時となる。・第二画面＝午前9時。
第二画面は一番下にあるロープの影を見ると午前九時である。・第三画面＝正午。
中央第三画面は墜落する戦闘機の赤い影によって正午となる 。久保克彦の人生①
・故郷・佐合島。・学童期の克彦。・久保家の家族写真。克彦と父・周一（白船）が写っている。・父・久保白船筆《風景・佐合島》。・克彦（小学校6年生）の日記。・昭和十三年「東京美術学校受験票」。・久保克彦の甥・木村亨。・久保克彦と木村亨が写っている写真。・克彦は、初恋の相手に着せたいと思ったデザインの[スタイル画」を描いたとのこと。・久保克彦の自画像。・久保克彦筆　ポスター《ベートーベン第七交響曲》。東京藝術大学美術学部教授・佐藤道信・絵に残されている作図の痕跡。・手跡が絵に残されている。現代美術家・会田誠・久保は、戦後のデザイン感覚を先取りしている。・久保の作品は、自分のマンダラ世界観である。・久保は、日本人として絵を描くというより、20世紀の人間として普遍的なものを描きたかったのだろう。数学者・ピーター・フランクル。。・永遠に続くものが描かれているようだ。・戦争が終わっても、それでも結局物質は変わらない。・例え人間がいなくなっとしても、いろんな結晶が同じように残る。・終りがあるわけではなく、永遠に続くものがある。・基本にある学問や自然がなくなっても、その後また発展が続く。画家・野見山暁二　久保の後輩

・戦争では機械文明に生きているものすべてがやられてしまうと思う。・久保さんは、卒業の日をもって絵を描くのは終わりと決めたのだろう。・久保さんにとっては、その日が確実にやってくること気付いた時からがね、非常に恐怖だったんだな。・久保さんは、絵を描く時間というか、生きてる時間がここまでなんだと追いつめられる。・久保さんの絵はね、非常に反戦的だというのでびっくりしたね。・僕は反戦的というよりもね、今に機械文明に生きているものすべてがやられてしまうんだと思う。・だから私は、正直言ってあの人の絵が何かズーンときたんですよ。・ああ人類は終るんじゃないかというような。
久保克彦の人生②

・自画像：当時久保が軍部からの課題で描いたポスター。スパイを監視せよというテーマだが、軍の圧力に抵抗するかのような挑戦的な表現になっている。・当時の美大生は半年早く卒業させられた。

・久保の入営時の写真・久保克彦遺影　昭和19年（1944）7月18日

湖北省の山稜に、１発の銃声が響いた。狙撃の弾は、最後尾を歩いていた若い見習士官・久保克彦の側頭部をうちぬいた。彼が大陸に転属となってわずか3ヵ月、3度目の交戦のときだった。このように久保は中国大陸において被弾して戦死。美大の同期で戦死した者は久保だけだった。・「輓馬の歌」久保克彦作。
それは風でもない、雨でもないえぢぷと煙草のように匂ふ悒鬱な月蝕の大気の下を永遠の時の彼方へあてもなく行く・・・。荒蕪な海岸要塞区のこんくりいとの送兵道路に離脱できない蒼ざめた影をひき怠惰な戦争の続いてゐる黄土の大陸の方へと進んでいく・・・。・久保が絵に込めたメッセージー戦争と人間ー：　真ん中の絵は、文明の発達、崩壊が一緒に描かれている。久保克彦の引用・コラージュ作品・久保克彦（1918‐1944、享年25）の墓。その魂は静かな海に抱かれた故郷・佐和島に帰っている。・久保克彦筆《図案対象》は《藝大コレクション展2018(10/2~11/11)》で見られる。美術散歩　管理人　とら