惡―まつろわぬ者たち ＠国学館大学博物館

本日、6月22日は、梅雨の中休みの好天なので、午前中に美術散歩をすることとなった。この日は、国学院大学博物館で、多分野連携特集展示「惡―まつろわぬ者たち 」を見ることとした、
【多分野連携展示】

今年は、さまざまな「悪」をテーマにした展覧会が、都内各施設で一斉に開催されている。・太田記念美術館：江戸の悪 PARTⅡ 6.2~7.29・東洋文庫ミュージアム：悪人かヒーローか 6.6~9.5・ヴァニラ画廊：HN(悪・魔的)コレクション～evil devil~ 5.30~7.1・国学館大学博物館：悪ーまつろわぬ者たちー 6.1~8.5・国立劇場伝統芸能情報館：悪を演るー歌舞伎の創造力 6.2~9.24・国立演芸場演芸資料展示室：悪を演るー落語と講談 5.30~7.1
・銀座 蔦屋書店：古今東西、悪づくし 6.4~7.15
【註】江戸の悪 PARTⅠ＠太田記念美術館⇒ブログ

【惡―まつろわぬ者たち 　＠国学館大学博物館】

会期は、平成30（2018）年6月1日（金）～8月5日（日）。

博物館の一角で行う小規模展示だった。

【展示のまとめ】

「悪」とは何か。しかし、「悪」の意味するところは、時代や地域によって常に揺れ動いている。従って、本当に「悪」を知ろうとするためには、これまでに何が「悪」という言葉で語られてきたのか振り返っておかねばなるまい。

そこで、当展覧会においては、古代中国で生まれた「惡」という文字に着目し、その本来的な字義を見直していく。さらに、この文字を日本人がどのように受容して、新しい意味を与えてきたのか点検していくこととすると。そこには、単に禍々しい人間の姿だけではなく、意外にもポジティヴな側面や、権力によって作り出された虚構のイメージなどを見出すことができる。

「悪」を知ることは、現代の「悪」がどこにあるのか察知するための訓練でもある。

【展示の構成】

第1章　「悪」という文字ー古代中国の死の世界

「悪」という文字に関しては、次のような4つの説がある。

その１：　殷代の墓壙を上から見た「亜」字に、「心」字を組み合わせたもの。
その２：　死者の世界に対する畏れや、忌まわしい気持ちを表現した。
その３：「悪」の字義を「過」とする。
その４：「凶」・「忌」・「畏」・「憎」を「悪」と呼ぶ。

・説文解字註：　悪は過也　憎は悪也・康煕字典：　亜心・欝也　「悪」古文「亜」・「画像摶」Tile with image of beast 後漢1‐3世紀　遼寧省熊岳城出土第2章　日本神話の中の「悪」ーあらぶる神々の叫び

イザナギとアマテラスに逆らったスサノオや、天津神に服従しない国津神らは、悪神（あしきかみ）などと呼ばれた。　

高天原から葦原中国に追われて根国（ねのくに）を去ったスサノオや、国譲りによって天日隅宮（あめのひすみのみや）に隠れることとなったオホク二ヌシは、死の世界と結びついていて、平定すべき存在として描かれたが、天津神たちも凄ましい威力を持っ存在だった。　

・古事記：須佐之男命・日本書紀：

ウケモチを殺して夜の世界へ追放されるツクヨミ
姉の逆らって暴虐も限りつくすスサノオ
天津神に国を譲ったオオクニヌシ（オホナムシ）
天津神による国譲りに従わなかった星神・スクナヒコナ
スクナヒコナが討伐の対象となった際、カカセオを祀ったイハヒノウシ

・大社縁結図：　旧暦10月の神無月は、全国の神々が出雲へ集まってくる「神有月」。

杵築の大社に集まった神々：

俵を抱えた大国主命
八岐大蛇を切り伏せようとする素戔嗚尊
「縁結人名帳」を高く掲げた市杵嶋姫命　
イザナミノミコトの吐しゃ物から生まれた金山彦命
第3章　「悪」のちからー従わざるもの

「悪」の文字は否定的なイメージを持っている。

日本書記は、苛烈な性格だった雄略天皇を「大悪天皇」と評した。　
　
その剛腕さから「悪左府」と呼ばれた藤原頼長　や　武名を轟かせて「鎌倉悪源太」の異名をとった源義平のようにパワフルな者として「悪」の名を冠された。　
　
後醍醐天皇を支えた楠正成も、幕府や荘園領主と対立した「悪党」だった。　
　
・日本書紀：大悪天皇（雄略天皇）、獲加多支鹵大王（雄略天皇）
・平家物語：鎌倉悪源太義平（源義平）、悪右衛門督（藤原信頼）
・神皇正統記：悪党楠兵衛尉（楠正成）　

第4章　つくられた「悪」ー変転する歴史感

「悪」は、人間あるいは時代が作り上げるものである。善悪は、特定の「立場」から見た「都合」によって左右されてきた。

ある時代を懸命に生きた人物が反逆者とされたり、時の権力によって不都合な歴史が抹殺されていくこともある。

「悪」の歴史を紐解いていくことは時代が何を「悪」としてきたか顧み、現代の「悪」を炙り出していくための技術なのである。

・尋常小学校国史：楠正成＝忠臣・師範国史：足利尊氏＝逆臣

・日本二千六百年史：足利尊氏＝善人

【美術散歩　続】

ちょっと物足りない展示だったので、山種美術館に足を伸ばして「琳派ー俵屋宗達から田中一光へー」展をみることにした。こちらはとても良い展覧会だった（詳細は別記の予定）。（↑）は、伝・俵屋宗達《槇楓図》山種美術館蔵で、許可により会場内で撮影した写真である。

渋谷に戻って、二種類の「鯖寿司」を買い込んで、自宅に戻り、昼食とした。美術散歩　管理人　とら