最後のダ・ヴィンチ作品「サルバトール・ムンディ」＠BS朝日

【放送日時】
　BS朝日　2018年3月29日（木）9：00～10：54
　
【番組概要】
2017年11月15日、ニューヨークで行われたオークションでレオナルド・ダ・ヴィンチが描いたキリストの肖像『サルバトール・ムンディ（世界の救世主）』が、美術作品として史上最高価格となる4億5030万ドル、およそ508億円で落札された。
　
その直後、アラブ首長国連邦・アブダビに開館したばかりの美術館、ルーブル・アブダビが『この絵画の公開を予定している』とインスタグラムに投稿。在米サウジアラビア大使館も同様の声明を出した。
　
100年ぶりに美術市場に出てきたレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画作品は、手に入れることのできる最後の、という意味を込めて“ラスト・ダ・ヴィンチ”と呼ばれ大きな話題となり、世界中の新聞やテレビがこの落札のニュースを報じた。世界に十数枚しか現存しないとされる天才レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画作品。死後500年が経とうとしている中で再発見された「世界の救世主」は、なぜ、これほど長い間人々の目に触れられることがなかったのか？
　
この500年前の、署名さえ無い絵画が本物のダ・ヴィンチ作品なのだとすれば、新たに何がわかり、何の根拠でダ・ヴィンチの真筆とされたのか？
　
そしてまた、今後もダ・ヴィンチ作品が発見される可能性はあるのか？驚愕の事実と最新研究の常識が放映される。
　【放送内容】

ルーブル・アブダビへ日本初となる本格的な取材を敢行。市川紗椰がダ・ヴィンチ作品「ラ・ベル・フェロニエール」はじめ、世界中から名品が集められたこの美術館の魅力に迫る。
　
また、池上英洋教授は「サルバトール・ムンディ」の謎を追いアメリカへ飛ぶ。ワシントンではアメリカ唯一のダ・ヴィンチ作品「ジネベラ・デ・ベンチの肖像」をワシントンナショナルギャラリーで取材、続くニューヨークでは2005年に「サルバトール・ムンディ」を発見した画商ロバート・サイモン氏を直撃。
　
さらにこの絵を修復した世界的修復家ダイアン・モデスティーニ氏へも直接取材に成功する。修復の過程で撮影された遠赤外線写真やX線写真に驚愕の映像が！我々は「サルバトール・ムンディ」に関する、世界初のスクープを掴むことになる！！
　
スタジオでは世界中に散らばるダ・ヴィンチ作品について様々な角度から紹介します。これらを『サルバトール・ムンディ（世界の救世主）』と比較し、美術史上の謎を解き明かす知的ミステリー。
　
4K撮影でお送りするスリリングな2時間スペシャルです。
　
【出演】
・市川紗椰
・東京造形大学：池上英洋教授
　
【池上英洋教授の略歴】
・広島生まれ。　
・広島学院高等学校卒。
・1991年東京藝術大学美術学部芸術学科卒業、93年同大学院修士課程修了、同大学助手（-95年）。ボローニャ大学などに留学。
・2005年恵泉女学園大学人文学部特任助教授、07年准教授、10年國學院大學文学部准教授、13年東京造形大学造形学部准教授、16年東京造形大学造形学部教授。　

【ブログ "Art & Bell by Tora"、ホームぺージ「美術散歩」の記事】

・１　ダ・ヴィンチの遺言・池上先生「レオナルド・ダ・ヴィンチ」出版記念パーティ　2007-2-6

・２　池上英洋先生のギャラリートーク @国立西洋美術館常設展　2007-12-23

・３　池上英洋先生「ジョットとその遺産」を語る＠損保ジャパン東郷青児美術館　2008-10-11

・４　ラロックの聖母　2008-11-26

・５　池上英洋先生「レオナルド・ダ・ヴィンチの謎と驚き」を語る＠ブリヂストン美術館 　2009-3-23

・６　微笑と輪廻と錬金術ーまだまだあるレオナルド・ダ・ヴィンチの謎と驚き
　2009‐3‐21

・７　夢の美術館　圧巻！黄金のイタリア芸術 @NHK-HV　2011-1-5

・８　史上最大の美術館！エルミタージュの暗号・２枚のダヴィンチ＠日本テレビ：世紀の発見スペシャル　2012-5-22

・９　池上英洋の第弐研究室　2012-9-1

・10　レオナルド・ダ・ヴィンチ よみがえる幻の名画＠BS朝日： BBC地球伝説　2013-12-3（ 追記2017-11-16）


番組そのⅠ．サルバトール・ムンディについて

2012年11月15日に、ニューヨークのクリスティーズで、レオナルド・ダ・ヴィンチの最期の作品「サルバトール・ムンディ」の入札が行われた。その落札価格は、美術史上最高の508億円だった。クリスティーズのカタログでは、世界的な学者13人のうち12人がこれはダ・ヴィンチの作品であるとしている。しかし、今に伝わるサルバトール・ムンディのバリエーションの数はおよそ20点もある。その一つは、ヴェンツェル・ホラーによる版画（1650年頃）である。1913年のクック・コレクションのものは（↓）である。以上の3点、すなわち2017年、1913年、1950年の画像を並べて見ると（↓）、お互いの差異は明瞭である。番組そのⅡ．池上英洋教授のロバート・サイモン氏インタビュー

ニューヨーク・アッパーサイド5番街ミュージアムマイルを行く池上英洋教授ロバート・サイモン・ギャラリーを訪れた池上英洋教授「サルバトール・ムンディ」発見者であるアートディーラー　ロバート・サイモン氏と握手する池上英洋教授インタビューを受ける「サルバトール・ムンディ」発見者のロバート・サイモン氏ロバート・サイモン氏インタビュー：　まずは「2005年の発見時の状況」について伺います。ロバート・サイモン氏インタビュー：現物を見ずネット入札し、2005年に100万円で購入した。ロバート・サイモン氏インタビュー：　しかし、レオナルドはグレートヒーロであるため、事は慎重を要した。ロバート・サイモン氏インタビュー：　2005年に100万円で購入した時の状態は（↓）のようで、16世紀に描かれたものとされていた。ロバート・サイモン氏インタビュー：　これは（↓右）、イギリスのクック・コレクションの1913年の写真（↓左）とはかなり異なっている。ロバート・サイモン氏インタビュー：　そこで美術史家ケネス・クラーククラークの意見を求めた。ロバート・サイモン氏インタビュー：　彼が調べると、絵の裏の番号とクック・コレクションのカタログナンバーが一致していることが分かった。ロバート・サイモン氏インタビュー：　この画は、1958年のオークションでは、たった4万6千円で売却されていたものである。ロバート・サイモン氏インタビュー：　この状態の絵が修復可能であるか否かについて、現代最高の修復家であるダイアン・モディティの意見を求めた。ロバート・サイモン氏インタビュー：　彼女の意見が修復可能ということだったので、2006年に、彼女の手で修復が開始された。ロバート・サイモン氏インタビュー：　作者特定の手がかり①　ペインティメント（描き直し）ロバート・サイモン氏インタビュー：　創作の過程で発生する「描き直し」は、それが原作であることを示唆しているのである。ロバート・サイモン氏インタビュー：　二重の親指の「ペンティメント（描き直し）」がなされている。ロバート・サイモン氏インタビュー：　この結果、我々はレオナルドを扱っている」ということが分かったのである。ロバート・サイモン氏インタビュー：　ワシントン・ナショナル・ギャラリー学芸員ニコラス・ペニーに鑑定を依頼した。ロバート・サイモン氏インタビュー：　2007年12月に出たワシントン・ナショナル・ギャラリー学芸員ニコラス・ペニーの鑑定結果は「レオナルド」だった。ロンドン・ナショナル・ギャラリーロバート・サイモン氏インタビュー：　2008年5月、「岩窟の聖母」の前で世界的研究者7名により、「サルバトール・ムンディ」の比較鑑定が行われた。ロバート・サイモン氏インタビュー：　鑑定結果は、ダ・ヴィンチ作で全員一致した。ロバート・サイモン氏インタビュー：　2011年、ロンドン・ナショナル・ギャラリーの「ダ・ヴィンチ展」で初の一般公開。ロバート・サイモン氏インタビュー：　2013年、ロシアの石油王に155億円で売却。ロバート・サイモン氏インタビュー：　2017年11月15日のクリスティーズ・オークションで、「サルバトール・ムンディ」は美術史上最高価格508億円で売却された。ロバート・サイモン氏インタビュー：508億円とは途方もない金額と思わない？
ロバート・サイモン氏インタビュー：　508億円で落札したのは、アラブ首長国連合の「ルーブル・アブダビ」だった。
番組そのⅢ.　レオナルド・ダ・ヴィンチの画の特徴

レオナルドが制作したとされる画「サルバトール・ムンディ（世界の救世主）」には、右手の掌紋が見えている。このことから、この画の制作には、左利きであるレオナルド以外の右利きの弟子が協力していたことが分かる。「サルバトール・ムンディ」では、水晶を描く際に、コンパスが使われている。レオナルドは、このように下絵がら本絵に移す際にコンパスを使っていたという。
作者特定の手がかりとしては、特有の図像や技法の一致も有用である。良く知られているようにレオナルドの指の描き方は特有のものである。レオナルドの作品であることの証明：（↑）右あるいは（↓）はダ・ヴィンチの「洗礼者ヨハネ」の右指であるが、（↑）左の「サルバトール・ムンディ」の右指とぞっくりである。 レオナルド特有の指であることの示す池上教授と市川紗椰（参照↑↑）。原作であることの証明：創作の過程で発生するペンティメント（描き直し）に注目する。制作の過程で発生する描き直しは、それが原作であることを示唆する。単なるコピーでは描き直しは起こらない。ペンティメントのため親指が三重になっている：レオナルド原作であることの証明画家特有の様式に注目する。例えばレオナルドの巻き毛の様式。ダ・ヴィンチ様式の巻き毛（↑）、（↓）。作者特定の手がかりとしては、作者特有の図像や技法（例えばレオナルドのスフマート）に留意することも必要である。　作者特定の手がかりとなる「スフマート」とは、レオナルドが完成させた表現技法で、輪郭を線で描かず、明暗をぼかして描く方法である。作者特定の手がかりとしては、現存する3800枚のレオナルドのデッサンやノートを参照するのも良い。レオナルドの画とデッサンとの比較例（↓、↓↓、↓↓↓）。
池上教授曰く：水晶なら掌はこれほど見えない。　
池上教授曰く：「サルバトール・ムンディ」では「水晶ではなくガラス球を用いたのではないか。？　池上教授曰く：したがって水晶部分は弟子がガラス球を用いて描いたのかもしれない。この際、右利きの人物がハイライト部分に加筆していることも参考になる（↓）。番組そのⅣ．サルバトール・ムンディの注文者

市川紗椰の質問：「サルバトール・ムンディ（世界の救世主）」の注文主は誰なのか？池上教授答えて曰く：注文主としては、フランス王のルイ12世、マントヴァ候妃のイザベラ・デステが考えられる。フランス王ルイ12世はミラノを占領し、レオナルドの画を求めた。マントヴァ候妃のイザベラ・デステ（1474‐1539年）はレオナルドのパトロンで、ルドヴィコ・スフォルツァの義姉。2万通以上現存しているイザベラの手紙や契約書などの文書も参考になる。1501年4月3日に、フラ・ピエトロ・ダ・ノヴェッラーラが、イザベッラ・デステに送った報告書（↓、↓↓）では、「レオナルド・ダ・ヴィンチの弟子が肖像画に手を凍てているが、レオナルド・ダ・ヴィンチ本人は何もしていない」とされている。
二人の弟子が手がけている肖像画に時おり手を入れるほか、彼は何もしていません（↓）。
番組そのⅤ　サレオナルド・ダ・ヴィンチの作品から知る独特の描き方

池上教授曰く：レオナルド・ダ・ヴィンチの作品を見て、彼独特の描き方や人生を知る必要がある。レオナルド・ダ・ヴィンチの名画は下記の16点である。見るべきレオナルド・ダ・ヴィンチの名画は下記の16点である。

1．受胎告知　1472～75頃　19－23歳　ウフィツィ美術館
2．カーネーションの聖母　1475頃　23歳　ワシントン、ナショナル・ギャラリー
3．ブノワの聖母子　1478～80頃　26-28歳　エルミタージュ美術館
4．聖ヒエロニムス　1480～82頃　28－30歳　ヴァチカン絵画館
5．東方三博士の礼拝　1481～82頃　28－30歳　ウフィツィ美術館　
6．岩窟の聖母　1483～86　30－34歳　ルーブル美術館
7．岩窟の聖母　1508には完成か　56歳　ロンドン、ナショナル・ギャラリー
8．若い音楽家の肖像　1490頃　38歳　ミラノ、アンブロジアーナ絵画館
9．白貂を抱く貴婦人　1490頃　38歳　クラクフ（ポーランド）、チャルトルスキー美術館
10．ラ・ベル・フロニエール　1490年頃　38歳　ルーブル美術館（アブダビ）
11．最後の晩餐　1495～98　43‐46歳　ミラノ、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院
12．聖アンナと聖母子、洗礼者ヨハネ　1510　58歳　ロンドン、ナショナル・ギャラリー
13．糸車の聖母　1501 ～07頃　49‐55歳　スコットランド国立美術館
14．ラ・ジョコンダ（モナ・リザ）1503～05　51‐53歳　ルーヴル美術館
15．洗礼者ヨハネ　1513～16　61‐64歳　ルーヴル美術館
16．サルバトール・ムンディ（世界の救世主）1500頃　48歳　ルーブル美術館（アブダビ）

番組そのⅥ．「ジュネブラ・ベンチ」と池上英洋教授　

ワシントンのナショナル・アート・ギャラリーで「ジュネブラ・ベンチ」を見る池上英洋東京造形大学教授ワシントン, DC.ワシントンのナショナル・アート・ギャラリー「ジュネヴラ・デ・ベンチ」は、アメリカ唯一のレオナルド・ダ・ヴィンチの名画である。「ジネヴラ・ベンチの肖像」1478－80年頃　28歳 196年「ジュネブラ・デ・ベンチ」を180億円でナショナル・ギャラリーが購入 番組そのⅦ．サルバトール・ムンディ作者特定の鍵

１．スフマート：レオナルド・ダ・ヴィンチが完成させた表現技法２．スポルベロ：輪郭線に沿って空けた小さな穴から木炭粉末の入って布袋をたたいて、画面に下絵を転写する方法３．ペンティメント（描き直し）：創作の過程で発生する描き直しは、それが原作であるということを示唆する。4．レオナルドの指紋5．右利きが描いた画像：左利きのレオナルド・ダ・ヴィンチ以外の弟子などの協力者の関与の証拠となる。表面はレオナルド・ダ・ヴィンチ、裏面は工房の弟子が描いたのだろう。6.レオナルデスキ：レオナルドの弟子（ボルトラッフィオ↓など）・レオナルド派の画家・レオナルドの協力者　番組そのⅧ．修復家ダイアン・モデスティー二の取材ダイアン・モデスティー二遠赤外線写真分析 サルバトール・ムンディの修復開始サルバトール・ムンディの遠赤外線写真分析番組そのⅨ．池上教授の結論池上教授の結論サルバトール・ムンディは、レオナルド・ダヴィンチと工房の弟子の共作である。美術散歩　管理人　とら