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プラド美術館訪問(マドリッド)2005年【参照ホームページ 】
プラド美術館展(東京都美術館)2006年【参照ブログ】
プラド美術館所蔵ゴヤ展(国立西洋美術館)2012年1.芸術 ・ホセ・ガルシア・イダルゴ《無原罪の聖母を描く父なる神》ca.1690
この作品では、「無原罪の聖母」は「父なる神」が創りだした(描き出した)ことになっている。「無原罪の御宿り」とは、聖母マリアが、神の恵みの特別な計らいによって、原罪の汚れを一切受けることなく懐妊したとするカトリック教会の教義である。したがってこの「無原罪の御宿り」は「マリアがイエスを宿した時」のみならず、「マリアが母アンナの胎内に宿った時」も含まれる。
・フランシス・デ・スルバラン《磔刑のキリストと画家》ca.1650
暗い背景に、光に照らされた磔刑のキリストが浮かび上がり、その前でパレットを手にした画家がキリストを見上げている。
2.知識・ディエゴ・ベラスケス《メニッポス》ca.1638
メニッポスは古代ギリシャの哲学者で、現世の価値や富に懐疑的な立場をとった。ベラスケスは古代の哲学者を理想化せず、当時のスペインの市井の貧しい武骨な人物として描いた。狩猟休憩塔のための装飾として《イソップ像》(↓)の対作として制作された。
・ペーテル・パウル・ルーベンスおよび工房《泣く哲学者へラクレイトス》1636‐38
対作のルーベンス作品《笑う哲学者デモクリトス》プラド美術館 180.5 x 66 cm も、狩猟休憩塔の装飾として1636 - 38年に制作された。
・アントニオ・デ・ぺレーダ《聖ヒエロニムス》1643
最後の審判のラッパの音を聴く聖ヒエロニムスが描かれているが、その前に開かれた本の挿絵も最後の審判を描いたものである。画面には、改悛を象徴する頭蓋骨と石、著作活動を示唆する本と墨壺も描き込まれている。
3.神話・ディエゴ・ベラスケス《マルス》ca.1638
狩猟休憩塔のために制作された。狩猟は戦争の疑似的イメージであるため、軍神マルスは場に相応しい主題だった。鎧を脱ぎ、武具を投げ出したマルスの姿は戦後の平和ないし休息をの象徴のようだ。君主フェリペ4世の力量と美徳をほのめかしているという説もある。ヴィーナスとの逢引きが神々にばれた後の放心状態のマルスを描いたルーベンスの歴史画とは異なり、ベラスケスは同時代人の一人を描いたという説が信じやすい。
・ティツィアーノ・ヴェッチェリオ《音楽にくつろぐヴィーナス》ca.1650
女性の右手薬指の指輪、忠誠を象徴する犬、豊穣を象徴する孔雀などから結婚を記念して描かれた画と解される。
・グレゴリオ・マルチネス《鎖につながれたティテュオス》1590‐96
ティテュオスはゼウスとその愛人エラレとの間に出来た息子。ある日、ティテュオスは美貌のレトに対して欲情を催した。しかしレトにはティテュオスの愛を受け入れる意志はなく、わが子のアルテミスとアポロンに助けを求めた。母の危機を知った二人は得意の矢でティテュオスを射殺した。死んで冥界へと送られたティテュオスは、身体を鎖で繋がれ、毎日やって来るハゲタカに肝臓を啄まれるという処罰を受けることとなった。これはプロメテウスがコーカサス山頂で大鷲に肝臓を食われるのと似ている。
4.宮廷・ディエゴ・ベラスケス《狩猟服姿のフェリペ4世》1632‐34
狩猟休憩塔にために描かれた画。この作品はフェリペ4世のお気に入りとなり、ベラスケスは宮廷画家の仲間入りをした。
・アロンソ・サンチェス・コエーリョ《王女イサベル・クララ・エウへニアとマグダレーナ・ルイス》1585‐88
王女が右手に掲げるカメオに刻まれているのは、父フェリペ2世の横顔。傍らの矮人もカメオを首から下げ、物真似の象徴である猿を抱いている。サンチェス・コエーリョはフェリペ2世の宮廷画家で肖像画家として手腕を発揮した。
・ファン・バン・アメン《矮人の肖像》ca.1626
当時のヨーロッパで宮廷に仕え王侯貴族に余興を披露した道化師を描いたものである。画家は、本作のモデルに優雅な衣服を着せて威厳を持たせ、右手には権力を象徴する指揮棒を持たせることで自信に満ちた表情と高貴な容貌とを強調している。
・ディエゴ・ベラスケス《バリェーカスの少年》1635‐45
「狩猟休憩塔」のために描かれた作品の一つ。フェリペ4世の宮廷に仕えた矮人の肖像である。手にしているのはトランプで、虚しさ・愚かさの象徴。この少年はクレチン病を患っていた。
5.風景・ディエゴ・ベラスケス《王太子バルサタール・カルロス騎馬像》1632‐34
バルサタール・カルロスはフェリペ4世と王妃イサベルの子。馬の胴体が膨らんで見えるのは、この画が両親(フェリペ4世とイサベル・デ・ボルボン)の騎馬像の中間に位置する扉の上に掛けられた本作を、低い位置から鑑賞者が見上げることを考慮したためとされている。背景に描かれたグアダラマ山系が美しい。バルサタール・カルロスは16歳で没し、王位を継ぐことはなかった。
・クロード・ロラン《聖セラビアの埋葬のある風景》ca.1639
「プエン・レティ―ロ宮」を飾るために制作された風景画連作4作のうちの1点。画面右下にローマでキリスト教徒迫害の犠牲になった聖セラビアの埋葬の場面が描かれ、それを聖サビナが眺めている。聖サビナは元老ワレリウスの妻で、彼女に信仰を与えたのは殉教した女中、聖セラビアだった。聖サビナは、後に聖セラビアと同じ運命を辿るが、この時点ではそれを知る由もない。この物語は古代ローマ遺跡の中に表現され、遠景にはコロッセオやテヴェレ川が描き込まれている。
6.静物・フェリペ・ラミーレス《食用アザミ、シャコ、ブドウ、アヤメのある静物》1628
本作は有名なサンチェス・コターンのボデコン(静物画)《狩猟の獲物、野菜、果物のある静物》1602の影響を受けた作品。
・ファン・デ・エスピノーサ《ブドウのある八角形の静物》1646
1646年の年記を持つこの作品は、華やかな装飾性と緻密に計算された構図、そして精緻さを極める描写から、世紀中葉のスペイン静物画の傑作のひとつに数えられる。ぶら下げられたブドウの房はとりわけスペインで好まれたモチーフで、古代ギリシアの大画家ゼウクシスが描いたという伝承を強く想起させる。作者のエスピノーサについては、その歴史上の重要性に反して生没年など詳しいことは謎に包まれたまま。
・トマス・イエペス《卓上の二つの果物皿》1642
左右対称のボデコンで、無地の背景を使って豪華な陶器と果物を浮き彫りにしている。俯瞰的な視点と手前への対象の配置によって、立体感をだしている。アップに耐える花・葉・果物、陶器の模様、布地の折り目、テーブルクロスなどは見事である。
7.宗教・ディエゴ・ベラスケス《東方三博士の礼拝》1619
東宝から3人の博士たちが贈物を携え、誕生したばかりのイエスを訪れるという新約聖書の一場面、ベラスケスが20歳の時にセビーリヤで描いた初期の野心作で、手前に跪く若い博士は画家自身、聖母は妻のソフィア、イエスは生まれたばかりの娘で、老年の博士は岳父パチェーコをモデルとした。
・ジュゼペ・デ・リベーラ《聖ペテロの解放》1639
布教の途中、ローマの兵士に囚われて鎖につながれていた使徒ペテロが、天使によって解放されたという新約聖書の物語に取材した作品。天使の突然の来訪に驚いたペテロの相貌は皺の一本一本まで厳しく写実的に描かれている。牢獄に際込む光によって二人の出会いは劇的に表現されている。
・マッシモ・スタンツィオーネ《洗礼者聖ヨハネの斬首》ca.1635
中央で合掌しているのがヨハネ。向かって左の首切り役人は、今まさに刀を振り下ろそうとしている。向って右に立ってこれを眺めているのが、サロメとヘロデ・アンティパス王。
紀元前1世紀頃のユダヤ地区はヘロデ大王によって統治されていた。そのヘロデ大王が亡くなった後、領土は息子たちによって4分割され、ガリラヤ地方の統治権を受け継いだのがヘロデ・アンティパス。ヘロデ・アンティパスは、ヘロディアという女性を妻とした。へロディアはかつてヘロデ・アンティパスの弟の妻であり、その間に娘サロメが生まれていた。ヘロデ・アンティパスはサロメの義理の父ということになる。洗礼者ヨハネは、このヘロデ・アンティパスとへロディアとの結婚を姦淫の罪に該当すると非難した。
自分の結婚のあり方を不道徳だと糾弾されたヘロデ・アンティパスは、ヨハネを逮捕し獄に繋いだ。ある日、王の誕生日を祝う宴会が催され、義理の娘サロメが舞を披露した。サロメの舞の妖艶さは、人々から絶賛された。大喜びしたヘロデ・アンティパス王は、如何なる褒美でも与えると言い出した。サロメは母である王妃へロディアに相談すると、耳の痛いことを言い続けるヨハネを恨んでいた王妃は「洗礼者ヨハネの首を刎ねることを求めなさい」とアドバイスした。母の命令に従ったサロメは、王にヨハネの処刑を求め、後に引けなくなった王は、ヨハネの処刑を決定した。
・アロンソ・カーノ《天使に支えられる死せるキリスト》ca.1630
白く生気を失ったキリストの身体美はミケランジェロの作品を彷彿とさせる。キリストを支える天使の悲しみの表情も見事。右側には街の風景、左側には釘や茨の冠といった受難を象徴する品々、左下には海綿が入った洗面器が描かれている。
・ペーテル・パウル・ルーベンス《聖アンナのいる聖家族》ca.1630
イエスとマリアを包み込むように両手を広げているのはマリアの母・聖アンナ、マリアの背後にいるのは夫の聖ヨセフ。ヨセフは中世以来の老人の姿ではなく、壮年の姿で描かれている。これはタイ港宗教改革期にカトリック教会が推進してきたヨセフの再評価を反映している。
・バルトロメ・エステバン・ムリーリョ《小鳥のいる聖家族》ca.1650
当時のセビリアで一般的だった生活用品を配した質素な家庭の中に聖家族を描いている。手に小鳥(ひわ)を持つ幼子イエスと右足を上げた犬とに光のスポットが当たり、聖母は糸を手繰りながら、聖ヨセフに支えられる幼子を優しく見守っている。聖母の手芸籠や聖ヨセフの大工道具箱の表現は見事で、仕事に対する愛情も垣間見ることができる。
※芸術理論・ビセンテ・カルドゥーチョ《絵画問答》1633
イタリア生まれの宮廷画家が執筆した芸術理論書で、芸術家による本格的芸術理論書としてはスペイン初の著作。「タブラ・ラサ(白紙状態)」が表された版画は、限られた平面内にあらゆる事物を表すことのできる絵画の無限の可能性を示唆している。
・ホセ・ガルシア・イダルゴ《いとも高貴にして土侯のものたる絵画芸術を学ぶための諸規則》1693
これは絵画を勉強するための実践的な手本帳。図は裸体モデルから直接人体を模写して学ぶことの重要性を示している。
・フランシスコ・デ・ロス・サントス《エル・エスコリアル王立サン・ロレンソ修道院の簡潔なる記述》1657
本書は、1654年にエル・エスコリアル修道院宮殿内に完成した「王のパンテオン」へのスペイン歴代皇帝たちの遺骸の移葬の記録を伝える書物。図は完成を見届けたフェリペ4世の肖像とその下に宮殿の外観が付されている。
【参考】
ぶらぶら美術館・博物館 2018/3/9【参考】
日曜美術館 静かな絵画革命~宮廷画家ベラスケスの実験 2018/8/19美術散歩 管理人 とら