ブリューゲル展 ＠東京都美術館

この日は暖かい美術散歩日和だったので、東京国立博物館で「仁和寺と御室派のみほとけ」展の後期（ブログ記事）を見た後、東京都美術館に足を延ばし、「ブリューゲル展」を見ることにした。この展覧会には「画家一族150年の系譜」、「受け継がれたブリューゲル一族の魂」という二つのサブタイトルが付いている。

そこで、まず「画家一族150年の系譜」について調べてみると、下記の9人の画家がこの系譜に属することとなる。

父の代
　・ピーテル・ブリューゲル1世[1525/30-1569]

子の代
　・ピーテル・ブリューゲル２世[1564-1637/38]
　・ヤン・ブリューゲル1世[1568-1625]

孫の代
　・ヤン・ブリューゲル2世[1601-1678]　
　・アンブロシウス・ブリューゲル[1617-1678]
　・ダーフィット・テニールス2世（孫婿）[1610-1690]

曾孫の代　
　・ヤン・ピーテル・ブリューゲル[1628-1664]
　・アブラハム・ブリューゲル[1631-1697]
　・ヤン・ファン・ケッセル1世[1626-1679]

LBF（撮影不可）

１．宗教と道徳　

・ピーテル・ブリューゲル1世《最後の審判》1558年
いかにもボス風の作品。中央上空にキリストがいて、左に救われる者、右にぱっくりと口を開けた地獄へ落ちる者を表していまる。手前には典型的なボス風の魔物もいて、人を飲み込んだりもしている。こうした主題は、15世紀から16世紀のネーデルラントの絵画や素描で人気を集めた。

・マールテン・ファン・ファルケンボルフ/ヘンドリック・ファン・クレーフェ《バベルの塔》1580年頃　個人蔵 Franceピーテル1世とほぼ同時代のマールテン・ファン・ファルケンボルフとヘンドリク・ファン・クレーフェによる《バベルの塔》も興味深い。実際に2人の画家も、ピーテル1世の存命中に、作品を目にしたと言われている。パノラマ的視点や青い空の後景と生き生きとした人物表現の前景にも目を引かれる。

２．自然へのまなざし　

・ヤン・ブリューゲル1世（?）、ルカス・ファン・ファルケンボルフ《アーチ状の橋のある海沿いの町》1590〜1595年頃
前景には、写実的な人や家畜、霞がかかった後景には、非現実的な雰囲気の海が描かれている。ヤン1世が人物や牛を、ファルケンボルフが橋と港と海を描いたとされている。

３．冬の風景と城砦

・ピーテル・ブリューゲル1世《鳥罠》1601年 1F
これはピーテル1世が描いた同主題の作品のコピー。ピーテル2世は父の作品の模倣作を描き続けた画家だが、なかでも《鳥罠》は彼が最も多く模倣した作品である。描かれているのは冬の農村の情景で、凍った川の上で人々がスケートを楽しんでいる。しかし、よく見ると氷には水汲み用の穴があけられている。それは、罠が仕掛けられているのに気づかずに餌をついばむ画面右下の鳥たちと同様、人間たちも危険と隣り合わせにいることを示している。

1F（撮影不可）

４．旅の風景と物語
　
・ピーテル・ブリューゲル1世《イカロスの墜落の情景を伴う3本マストの武装帆船》1561‐62年頃
ピーテル1世が下絵を描いた《イカロスの墜落の情景を伴う3本マストの武装帆船》は、船の描写が緻密で、今日、当時の船の細部を知るための資料となっているほど。ピーテル1世は実際に船の製造現場などを観察したと考えられている。

５．寓意と神話 ヤン・ブリューゲル1世《ノアの箱舟への乗船》1615年頃
会場のキャプションには「箱舟は画面中央に描かれたノアの左に小さく描かれている」と書かれているが分かりにくい。調べてみると、木に登っている猿の頭頂の背後に箱舟があり、そこへキリンやサイなどが乗船している様子が描かれている。

《聴覚の寓意　1645‐50年頃》寓意画に見られる擬人化は、愛や平和といった抽象的な概念を視覚的に理解する手段として、古くからヨーロッパで行われてきた。ヤン2世の《嗅覚の寓意》や《聴覚の寓意》は、父ヤン1世がルーベンスと共同で描いた絵を模した作品で、連綿と受け継がれる擬人化の歴史を物語っている。

2F（撮影可） ６．静物画の隆盛

・ヤン・ブリューゲル1世・ヤンブリューゲル2世《机上の花瓶に入ったチューリップと薔薇》1615‐20年頃これはヤン1世とその子のヤン2世との共作で、まだヤン2世が父の工房で徒弟として修業していた時代のもの。ヤン1世は花の静物画という分野を開拓した画家で「花のブリューゲル」の異名をとっている。その長男であるヤン2世も花の絵を得意としたが、父の影響が明らかで、特に初期の作品に倣って描いたものが多い。縞模様のチューリップは、モザイク病という病気による症状だが、当時は知られておらず、珍しい柄として珍重されていた。

・ヤン・ブリューゲル2世《ガラスの花瓶に入った花束》1637－40年頃・ヤン・ブリューゲル2世《籠と陶器の花瓶に入った花束》1640－45年頃 ・アブラハム・ブリューゲル《果物の静物がある風景》1970年
アブラハムの《果物の静物がある風景》では、ブリューゲル一族の伝統的な「静物画に屋外に静物を配置する」という当時流行した画面構成を組み合わせている。一族の伝統的な画題に流行を取り入れることで、ブリューゲル一族は何世代にもわたって不動の地位を築いていった。

・ ヤン・ファン・ケッセル1世《蝶，カブトムシ，コウモリの習作》1659年 ヤン・ファン・ケッセル1世は、ヤン1世の娘と画家ヒエロニムス・ファン・ケッセルの息子で、ピーテル1世から見るとひ孫に当たる。描いているのは、虫やコウモリで、それを標本のように均等に配している。ただし、彼の描く生き物は標本とは異なり、まだ死んでおらず、不意に動き出しそうな気配である。17世紀のフランドルでは板やカンヴァス、銅板などに描かれた作品が多いが、この作品は大理石という非常に珍しい支持体に描かれた貴重な作例である。

７．農民たちの踊り　

・ピーテル・ブリューゲル1世《春》1570年・ピーテル・ブリューゲル2世《聖霊降臨祭の花嫁》1616年以降
・ピーテル・ブリューゲル2世《七つの慈悲の行い》1616年「七つの慈悲の行い」とは、食物の施与・飲物の施与・旅人の歓待・衣服の施与・病気の治癒・囚人の慰問・死者の埋葬だが、（↑）左上に描かれた（拡大図↓）は飲物の施与に当たるのだろう。・ピーテル・ブリューゲル2世《野外での婚礼の踊り》1610年頃婚礼の宴での農民たちの踊りという陽気な画題は、ピーテル･ブリューゲル1世が描いたのをきっかけに、フランドル地方で非常に好まれ、繰り返し描かれた。ピーテル2世だけでなく、弟のヤン1世もこの場面を描いている。画面中央奥で髪を下ろして座っているのが主役の花嫁である。当時の農村の女性は頭巾で髪を隠すのが普通で、結婚のときだけ髪を下ろすことが許されていた。前景で踊りに興じる女性たちの頭巾は、巻き方が微妙に異なっており、髪形でおしゃれができないため、頭巾の巻き方で個性を出しているのが窺える。

撮影コーナー美術散歩　管理人　とら