山口蓬春 絵に年をとらせるな ＠日曜美術館

放送内容　参考

「蓬春モダニズム」と呼ばれる洗練された日本画で戦後画壇のスターとなった山口蓬春。近年人と作品の調査が進み、常に新しい表現を模索し続けた生き方が注目されている。

昭和を代表する日本画家・山口蓬春。近年、葉山にある記念館で日記や手紙などの整理が進み、人と作品に新しい光が当たろうとしている。

注目されるのは「絵に年をとらせるな」という言葉。蓬春は常に新しい表現を模索し続けた。

大和絵で華やかなデビューを飾るが、戦争中藤田嗣治とともに新しい表現を模索する。

戦後、「蓬春モダニズム」と呼ばれる絵で画壇のスターとなるが、それにも飽き足らず事物の本質を描こうと変わっていく。

【出演】山口蓬春記念館学芸員・岡田修子、画家・千住博
【司会】井浦新、高橋美鈴

山口蓬春総論　

日本画家・山口蓬春は、常に新しい表現を模索し続けた。神奈川県葉山町　山口蓬春記念館絵に年をとらせるな　＠美術雑誌「真珠」１．大和絵２．戦争画３．蓬春モダニズム４．写実山口蓬春各論

《三熊野の那智の御山》1926年　逢春が画壇にデビューした1926年は、ヨーロッパから印象派などの新しい絵画が次々と入ってきた時代。33歳の若き逢春が描いた《三熊野の那智の御山》が帝展に出品されるや、特選と同時に帝国美術院賞を受賞し、逢春は画壇に鮮烈なデビューを飾った。

これは滝をご神体とする熊野那智大社を中心に熊野の霊場を描いており、中央の那智大社は繊細な線で丁寧に描かれている。これは大和絵の伝統的な技法。

その一方、背景には深い奥行きが感じられる。これは洋画の遠近法を巧みに取り入れたもので、この作品は画壇に衝撃を与えた。

神奈川県立近代美術館館長・水沢勉さん曰く

「本物を見ると驚くのは、画面の下のところの飛沫の白のの明るさです。これは普通の日本画にはない。むしろヨーロッパの絵画などが持っている白が放つ光みたいなものと似ている。逢春は、自分の代表的な絵を描く時に、それに負けないような光の効果を作り出したいという野心を持っていた」

逢春は、1898年、北海道松前町に山口家の三男として生まれた。父・慶治は日本銀行の行員。幼い頃から絵が好きだった逢春は、21歳で（1915年）念願の東京美術学校西洋画科に入学。《ニコライ堂》1910年　これは逢春が学生時代に描いた油絵。色使い、筆の荒々しいタッチなど、ゴーギャンなどの後期印象派に強く傾倒していたことがわかる。蓬春は、日本画家・松岡映丘と出会い、大きく人生が変わった。1918年、3年生の蓬春は日本画科に転科して松岡映丘に学んだ。卒業後も松岡映丘が顧問を務める新興大和絵会に参加、画壇にデビューした。《緑庭》1927年　これは《三熊野の那智の御山》で華やかなデビューを飾った翌年の作品、すなわち二年連続での帝展特選受賞作。季節は初夏で、木々の緑が鮮やか。（↑）は、平安時代の貴族が使った「網代車」。

雅な色彩が印象的。逢春はこの作品でも西洋画の技法を取り入れ、木々に差し込む自然の光を巧みに描き、池の水面にも光が降り注いでいる。逢春は金泥を用いてその輝きを表現してみせた。

大和絵に近代的な感覚を取り入れることは「新興大和絵会」が目指すものの一つであり、逢春は三十代の若さで会の中心的な存在となっていった。

1931年　満州事変勃発　時代の中、逢春の人生は大きく変わることになった。帝展改組
文部大臣・松田源治が、帝国美術院展（帝展）改組を発表したのである。これは美術界を揺るがせた大きな事件だった。

当時、美術界の中心にあったのは国が組織する帝国美術院で、逢春の師・松岡映丘も帝展の審査員だった。

一方、在野では横山大観率いる日本美術院や、川端龍子が率いる青龍社などが独自の活動をしていた。

横山大観（日本美術院）　川端龍子（青龍社）　松岡映丘（帝国美術院）松田文部大臣は帝国美術院の力を強め、すべての組織を一つにまとめようとしたのである。

昭和10年、帝国美術院の会員定数を30人から50人に増員し、在野美術団体の代表を組み込み美術家全員一致の「新帝展」体制を実現しようとした。

この「新帝展」の制度は美術家の間に不満を呼び、昭和11年、平生文相は再改組を試みたが、さらに紛糾は続いた。

そうした中で、政府は、美術だけでなく文芸・音楽その他の分野の芸術についてもその発達に寄与する機関を設けることの必要を痛感し、昭和12年6月、芸術に関する重要な事項を審議し、その発達に必要な事業を行ない、文部大臣に建議することのできる機関として、「帝国芸術院」を設立することとなった。

「帝展改組」について研究する泉屋博古館分館館長・野地耕一郎さん曰く「政治による挙国一致体制を作ろうとした」この時、新興大和絵会の看板画家だった山口蓬春は、帝国美術院展の参与という要職に就くことを要請された。ところがこの改組には賛否の声が巻き起こり、画壇は大きく揺らいだ。帝国美術院創設には青龍社の川端龍子が賛成せず松岡映丘も反発し、帝国美術院と分かれ、新たに「国画院」という在野の団体を作った。松岡映丘はさまざまな団体が入ることで純粋性がなくなると感じていた。そこで大和絵の新興をさらに進めていくために新たに「国画院」という在野団体を作ったのである。逢春は、帝展に参加するのかそれとも師の松岡に従うのか大いに悩んだ。この時下した決断は「帝展の参与を辞退すると同時に、松岡の国画院からも脱退する」というもので、大きな反響を呼んだ。逢春はどのような団体にも属さず、一人で絵を描いていくことを決断したのである。

新聞に突如声明発表「山口画伯、参与辞退　第一部会とも訣別」
逢春はどのような気持ちでこの決断を下したのか。山口蓬春記念館では日記の整理が進んでいる。そこに決断を下した日の記述があった。

12月28日小雪。参与を辞し、国画院等の浮世の義理を捨て申し候
温かき夜にて眠り難くおぼえ申し候現実の風景画

《南嶋薄暮》1940年師と決別した逢春の絵は変わり始めた。帝展参与を辞退してから5年後。1940年の作品である。絵の舞台は当時植民地だった台湾。中国服に身を包んだ女性。生まれてくる子どものために、編み物をしている。日本画の伝統的な画題を離れ、現実の風景を描くようになっていた。

このころの逢春の言葉です。

（王朝時代の）大和絵はその時代の感覚なり趣味なりを通じての写実であったし、ある思潮の中心に触れていたと思う。　
しかし（今の大和絵で王朝時代）そのままの形式を、今日の感情なり思想なりと一致させることは困難だと思う。1941年　太平洋戦争　開戦戦争画

《香港島最後の総攻撃図》1942年　

第1回大東亜戦争美術展（1942）出展
⇒ 東京国立近代美術館所蔵（無期限貸与）戦争画美術展一覧藤田嗣治とともに

戦争中、蓬春は藤田嗣治とともに新しい表現を模索した。

山口蓬春宛　藤田嗣治　絵葉書

山口蓬春宛　藤田嗣治　写真山口蓬春宛　藤田嗣治　手紙戦争展の道場は一番怖いものじゃ大家なんて祭られちゃもう駄目だ一つその内お手並み拝見戦争記録画 の 西洋 vs 東洋

フランス国立東洋言語文化大学　ミカエル・リュケン教授
1) 西欧的戦争記録画 by ドラクロア & 藤田嗣治

ドラクロア《ドン・ジュアンの難船》vs 藤田嗣治《ソロモン海域における米兵の末路》2) 日本的戦争記録画 by 常磐光長 vs 山口蓬春

《伴大納言絵巻》 vs 《香港島最後の総攻撃図》　画家・千住　博さん　と　山口蓬春記念館副館長・岡田修子さんホドラーの影響

《山湖》1947年1941年9月1日の日記には「ホドラー」の名前だ出てくる。蓬春所蔵のホドラー（Ferdinand Hodler）画集 ホドラー《山》ホドラー《湖》ホドラー《山並み》かねてから明朗で潤然とひらけた、そしてまた相対的に近代的な色調を持つ自然界の一部を表現したいと考えていた　ホドラーの画を参考にして自分の《山湖》を描いた蓬春モダニスム

画家・千住博さん曰く「モダニズスムとは古いものを壊すこと」

《望郷》1953年　南極のペンギンが北極の白熊と同じ画面に描かれている。新しい写生

《夏の印象》1950年下図に描かれた輪郭線は、本画ではなくなっている。
《枇杷》1956年《夏》1905年最初は「見たままの写生」次いで「感じたままの写生」が　それからさらに進んで「知ったままの写生」に至る。心の中の未開拓の部分にくわを入れていかねばならぬ。安藤一子さん曰く「先生は　とにかく物事を良く見つめ　突き進んで　物事の真髄が見えてくる方でした。皇室にある山口蓬春の作品

《杉戸画》1968年《楓》【山口蓬春に関するこれまでの HP / Blog 記事】

・山口蓬春《春、夏、秋、冬（枯山水）2013 ⇒こちら @新生MOMAT・山口蓬春《留園駘春》 2007 ⇒ こちら @水野美術館・山口蓬春記念館 2006 ⇒ こちら ・山口蓬春展 ＠小田急グランドギャラリー 1992 ⇒ こちら美術散歩　管理人　とら