2017年11月19日の日曜美術館で取り上げられた「孤高の画家」の名は「木島櫻谷（このしまおうこく）」であり、「この絵」は《寒月》である。
この画家のことは、2013年に東京藝術大学大学美術館で開かれた「夏目漱石の美術世界展」（
再訪ブログ）と2014年に泉屋博古館分館で開催された 「木島櫻谷ー京都日本画の俊英」展（
ブログ）で知っていた。
今回の「日曜美術館」にまず登場したのは《かりくら》明治43年（1910）である。
この画を櫻谷の曾孫・門田理さんが櫻谷邸で発見した時には、ボロボロの状態で出てきた。そのため、大変な修復作業が必要だった。この《かりくら》の修復披露がおこなわれたのは「2017年9月22日」、わずか二ヶ月前のことである。
この画では二頭の馬の描写が卓越している。
このように木島櫻谷は「動物画」を得意としていた。↓は《野猪図》明治33年（1900）
《獅子虎図屏風》明治37年（1904）
櫻谷は「京都市立紀念動物園」に通って、動物の写生に打ち込んでいた。
写生帖には美事なスケッチが多数残っている。
櫻谷の馬の写生図（↓）から、《奔馬図》明治後期（↓↓）が生まれたのである。
この際、櫻谷は「付立法」という手法を駆使している（↓）。
さて、展覧会場の「泉屋博古館」には、日曜美術館の司会者たちが登場。
日本画家・竹内浩一さんと泉屋博古館学芸員・実方葉子さんの出迎えを受けた。
櫻谷の《若葉の山》明治44年（1911）は、第5回文展で入賞した。
翌年の第6回文展も上野で開かれた。
当時、朝日新聞に記事を書いていた夏目漱石も会場に足を運んでいる。
そして櫻谷の《寒月》大正元年（1912）を見たのである。
漱石の木島櫻谷に対する感想「文展と藝術（八）」は厳しかった。
（↑）に「気持ちの悪くなる鹿」と書かれた画は（↓）である。
漱石の「文展と藝術（八）」は、木島櫻谷氏に対する批判を継続。
漱石記す「今年の《寒月》も、不愉快な点においては 決してあの《鹿》に劣るまい」
漱石記す「屏風には月と竹とそこから狐だか何だか動物が一匹いる」
漱石記す「その月は寒いでしょうと言っている」
漱石記す「竹は夜でしょうと言っている」
さて、木島櫻谷の遺品調査が始まっている。
遺品の中には、通常の画家では一生使いきれない量の「群青」があった。
調べてみると、《寒月》に使われた群青には「青い粒子」と「黒い粒子」が混ざって存在していた。
実際には、櫻谷は「群青」を電熱器で加熱することによって「黒」を作成していた。
（↓）の加熱では、「青」が「黒」くなりだしていることが分かる。
４分間の加熱によって「青色」が「黒色」へと変わるのである。
木島櫻谷旧邸には、櫻谷が大正時代以降に描いた沢山の作品が残っている。
《竹林楼狸》大正時代
《月下老狸》大正７年（1818）
《角とぐ鹿》昭和7年（1932）
木島櫻谷旧邸で木島櫻谷の大正時代の《笹に狸》の軸を拝見する日曜美術館の司会者たち。
大正元年に、漱石に《寒月》を酷評された後、櫻谷は文展などへの応募は止めたが、画は描き続けていた。
《画三昧》昭和6年（1931）
《画三昧》を描いた櫻谷の心境についてコメントする泉屋博古館学芸員・実方葉子さんとそれを聞く日本画家・竹内浩一さんと日曜美術館の司会者たち。
櫻谷曰く「絵を描く時は のっぴきならぬ やむにやまれぬ 心からの要求で 思うだけ 腹のふくれるだけ 描けば それでよい」
さらに曰く「人が誉めても 笑っても どうでもよい 世間の毀誉褒貶を 心外に置くことこそ 作画の本意であろう・・・」
木島櫻谷は漱石が《寒月》を酷評した際には、まったく反論しなかったが、ここでは一言「
漱石先生、それでもこの絵がお嫌いでしょうか」。
展覧会の予定
美術散歩 管理人 とら
【参照】
日美旅 京都へ 木島櫻谷を巡る旅【参照】
Wikipedia 木島櫻谷
