没後150年記念特別展 菊川英山 第4報 ＠太田記念美術館

これは「第4章　花咲く英山美人ー青楼の女たち」のブログ記事

菊川英山が描いた女性たちのなかで、ひときわ豪華に描かれたのは遊女たちであった。

喜多川歌麿の美人画が大きな影響を受けたのは、寛政2年の改革による御触書や寛政5年の松平定信失脚後の出版統制（寛政5年・8年・12年）であり、菊川英山が美人画の制作を始めた文化3年（1800年）は最後のお触書の寛政12年（1806年）から6年しか経っていない。

・《青楼十二時　夜子ノ刻　丸ゑびや内　やしほ》文化8－11年頃　大判錦絵　吉原遊郭の一日を十二時に分け、時間を追って描写したシリーズの一つ（11図現存）。これは歌麿の「青楼十二図」（12図現存）を倣ったもので、和時計を模したコマ絵も歌麿作品に準じたものである。
歌麿作品と異なって、妓楼・遊女・禿の名前が記されている。本図は丸梅茶屋の八汐。子の刻は午前零時頃。通常は床入りの時間だが、本図の場合三味線が登場しており、酒席がまだ続いていることを示している。火鉢で夜食が温められている。

・《青楼十二時　昼午刻　つたや内　道蔦》文化8－11年頃　大判錦絵午の刻とは正午ごろ。昼み見世に向けて身支度をする時間である。

・《青楼十二時　夜戌ノ刻　大もんじや内　行舎》文化8－11年頃　大判錦絵
戌の刻は午後八時ごろで宴もたけなわの時間である。大文字屋の遊女・行合が盃をもってその場を離れようとしている芸者を引き留めている。

・《扇屋と玉屋の遊女》文化末頃　大判錦絵六枚続のうち五枚
右から扇屋の花染・田みの、玉屋の花岡・千秋・吾妻の5名の遊女。本来はこれに扇屋の花入が加わる六枚続。

・《せい桜むたま川のうち　むさし　大文字屋内　ひともと》文化後期頃　大判錦絵
六玉川と高位の遊女を取り合わせたシリーズで、この展覧会では前期3点、後期3点が見られる。遊女の背後に衣桁に掛けられた仕掛を大きく描くのは歌麿「游君五節句」に想を得ている。色紙型には玉川を詠んだ古歌。紫色の花勝見模様の仕掛と朱色の中着の対比が鮮やか。これに衣桁に掛けられた仕掛の紫色・玉川の流れ・砧打ちの道具が趣きを添えている。

・《青楼行事八景　居続の暮雪》文化13－14年頃　大判錦絵　遊女の日常的な様子をとらえた揃物の一図。「居続け」とは朝になっても帰らない客のこと。この場合は大雪で帰れないのかもしれない。遊女は房楊枝を手に朝の歯磨き。

美術散歩　管理人　とら