長谷川等伯 ＠永青文庫 その１（前期）

永青文庫で「南禅寺天授庵と細川幽斎～重要文化財・長谷川等伯障壁画展」（前期）を見てきた。展覧会の構成は以下の通りである。

第1章　天授庵と細川幽斎（4階）前期・後期　
第2章　戦国武将・細川幽斎/文化人・細川幽斎（3階）
第3章　細川家に受け継がれた能の世界（2階）

本稿では、このうち第1章の長谷川等伯筆・天授庵襖絵「禅宗祖師図」について述べることとする。

南禅寺の塔頭・天授庵は、慶長7 年（1602）に細川幽斎（↓右）の援助をうけて再興された。天授庵の方丈には、長谷川等伯の晩年の作風を伝える障壁画「禅宗祖師図」「商山四皓図」「松鶴図」が残されている。

豊臣秀吉や千利休に重用された桃山期を代表する絵師・長谷川等伯は、細川家に関わる画事も行っていたのである。

本展では、天授庵方丈の障壁画を細川家ゆかりの永青文庫において、前期・後期に分けて全場面公開することになっている。

前期で見られたのは、室中の《禅宗祖師図》16面である。2010年に東博で開かれた長谷川等伯展では8面（船子夾山図4面・南泉斬猫図2面・懶瓚煨芋図2面）を見ている。・船子夾山図　4面唐時代の禅僧・船子徳誠は山水を好み、船頭をして過ごしていた。やがて弟子とした夾山善会が船子のもとで悟りを得ることができた。その際に、船子は夾山を何度も櫂で水中に叩き落したと伝えられている。その後、船子は夾山に教えを伝承するように託して送り出した。

夾山は船子のもとを去る際に何度も振り返って別れを惜しんだ。これに対して、船子は「私の子とは思うな」と言うなり、櫂を舟底に突き立てて転覆させ、入水した。ここにはその場面が描かれている。

・ 五祖・六祖図　4面五祖とは、中国禅宗の始祖である達磨から数えて五代目の弘忍のこと。四祖・道信が老齢の栽松道者の入門を断ったところ、栽松道者はある娘の胎児として宿り、生まれ変わって道信の弟子となり、五祖となったと伝えられている、この逸話から、五祖・弘忍が鋤を担って松を植えに行く姿が「五祖荷鋤図」に描かれる。

中国禅宗の六祖は慧能で、幼い時より貧苦の内に育ち、薪を採って母を養ったと伝えられている。弘忍に弟子入りした慧能は、弘忍から修行として米を搗くことを命じられ、それをひたすら8カ月行った。ここでは杵を背負った作務衣姿の慧能が描かれている。

・ 南泉斬猫図　2面・趙州頭載草履図　4面手に刃物を持ち、左手で一匹の猫を掴んでいるのは、唐時代の禅僧・南泉普願。猫に仏性があるか否かを論争している僧侶たちに対し、南泉は猫を捉え、「私を納得させる一言を言うことができなければ、猫を斬り殺す」と宣言した。これに対して誰一人として答えられなかったので、猫を殺してしまった。《南泉斬猫図》に描かれているのは、その場面である。　

《趙州頭載草履図》には、前述の《南泉斬猫図》に続く話が描かれている。南泉は先ほどの出来事を弟子の趙州に話し、「汝ならばどうするか」と訊いた。

すると趙州は、何も言わずに履いていた草履を脱いで頭に載せて出ていってしまった、趙州は猫を殺した南泉の行為を穏やかに揶揄したのである。

これに対して、南泉は「お前がいたなら猫を救えたのに」と言ったとのことである。　

・ 懶瓚煨芋図　2面 懶瓚とは、唐時代の僧・明瓚のあだ名。世間の煩わしさから離れて山奥に隠居し、残飯を食べて懶け者に暮らしていかこことからこのように呼ばれた。

懶瓚の噂を聞いた唐の皇帝が、参内を求めて勅使を遣わしたところ、懶瓚は牛の糞を燃やして芋を焼き、鼻水を垂らしながら食べている最中だった。

勅使が「まずその鼻水を拭いたらどうか」と言うと、「俗人のために拭く暇はない」と答え、皇帝の求めにも応じなかったという。

美術散歩　管理人　とら