シャガール 三次元の世界 ＠東京ステーションギャラリー

東京ステーションギャラリーで9月16日から開かれる「シャガール　三次元の世界」展の内覧会に参加した。

シャガールの彫刻を見るのは、これが初めてである。しかし会場には彫刻だけでなく、絵画・下絵・版画など多彩な作品が175点も並んでいた。

冨田　章・東京ステーションギャラリー館長の論説「20世紀彫刻の中のシャガール」からシャガール彫刻の特徴を要約すると下記のようになる。

・複数のモチーフを有する
・物語性を持つ
・石彫が多い
・ロマネスク彫刻やプリミティズム彫刻に近い
・ゴーギャン彫刻と類似している

１．絵画から彫刻へー《誕生日》をめぐって

・《誕生日》油彩：原作（MOMA蔵）の本人摸作。飛び上がって結婚を喜ぶシャガールと花束を受け取るベラが描かれている。・《誕生日》大理石：上記の油彩画を約40年後に彫刻とした。・《二つの頭部と手》大理石：これも約40年後の彫刻。・《二重肖像》油彩：画を描くシャガールと花束を持つベラが重なっている。２．空間への意識ーアヴァンギャルドの影響

・《櫛を持つ裸婦》インク・グアッシュ：キュビスム風。
３．穿たれた形ー陶器における探求

・《青いロバ》彩色陶器：器の表面には美しい風景などが描かれ、器の上部はロバとなり、把手はロバの前脚としている。４．平面と立体の境界ー聖なる主題

・《聖書の女》：アブラハムの妻サラ、イサクの妻リベカ、ヤコブの妻ラケルとレア。・《ダヴィデとパテシバ》大理石：パテシバが二人の子であるソロモンを王にしてくれとダヴィデに懇願する場面。かくして第3代のイスラエル王となったソロモンは、エルサレムに神殿を作った。背景には神殿の柱と集まった人々が見える。・《十字架降下》大理石：聖母マリアは幼子イエスを抱いている。異時同図法である。・《キリスト》ロニュの石：キリスト降架の場面。すがりつくのは聖母マリア。５．平面と立体の境界―素材とヴォリューム

・《地上の楽園》大理石：前景にロバ、中景に鳥と実のなった樹、後景にアダムとイヴ。エデンの園である。・《赤い背景の花》油彩：右側のベラが差し出した花束が成長して見事な花となり花瓶にさしてある。画面全体の赤はベラの至福の気持ちを表現しているのだろう。・《画家と妻》油彩：赤い画面には花束を持ったベラ、緑の画面には花が花瓶にさしてあり、ヴィテブスクの町並みも描かれている。画家はどこに行ったのだろうか。・《紫色の裸婦》油彩：中央に道化師、右に青い山羊とラッパを吹く人物、左に花束を持つ紫色の裸婦、下部にヴィテブスクの町並みが描かれている。6．立体への志向ー動物モチーフ

・《空想の動物》ブロンズ：腹部に抱き合う恋人たちが見える。
７．立体への志向ー肖像、二重肖像

・《たそがれ》油彩：二重肖像である。・《自画像》大理石・大理石・グアッシュ：中央はコインに英雄の横画を刻んだ古代ギリシャ・ローマの伝統を踏襲して自分の横顔を刻んでいる。８．立体への志向ー重なりあうかたち

・《雄鶏と女》多色の石：裸体の女性が雄鶏の体内に見え、女性と雄鶏が一体化している。・《鳥と恋人たち》大理石：鳥の中で抱き合う恋人たち。９．立体への志向ー垂直性

・《ヤコブの梯子》大理石：ヘブライ人の族長ヤコブは、旅の途中に立ち寄っや町で、石を枕に眠りについた時に、天に向かって伸びる梯子を天使が上り下りする夢を見た。すると神が現れて、ヤコブの子孫であるイスラエルの民にその土地を与えると告げた。眠りから覚めたヤコブは枕にしていた石を立てて柱とし、その場所を「ペテル（紙の家）」と名付けたという。・《花束を持つ恋人たち》ロニュの石：《誕生日》の絵画を想起させるシャガールにおなじみの恋人たちと花束が、石のブロックに彫り込まれている。素材の褐色の石はプロバンス地方で産出されたもので、前述の《キリスト》にもこの石が使われている。「悲しみの聖マリア vs キリスト」と「歓びのベラ vs シャガール」の構成が似ていることに驚く。美術散歩　管理人　とら