現在、太田記念美術館で開催中の「妖怪百物語」には、月岡芳年の《和漢百物語》と《新形三十六怪撰》の全点が展示されている。
そのうちの《和漢百物語》については、
こちらのブログに書いた。
一方《新形三十六怪撰》は、妖怪や幽霊の登場する故事や伝説を主題にした揃物で、全36点からなる。
明治22年4月から刊行が始まるが、明治24年に芳年が入院したため《二十四孝狐火之図》・《小早川隆景彦山ノ天狗間問答》・《宗祇》の三点は、芳年の没後に刊行された。
題名の「新形」には「神経」あるいは「真景」という言葉ががかかっているとのことである。
この《新形三十六怪撰》全36点は、群馬県立歴史博物館で開催中の「オバケが出たゾー描かれた妖怪たち」展で見て、
ブログにも書いているが、画像のピンボケやリンク切れがひどいので、前ブログの説明を参照しつつ、新たな記事を書くことにした。
1.貞信公夜営宮中に怪を懼しむの図:藤原忠平が、太刀の鞘を掴んだ化物に一喝し、刀を抜いて鬼の手を掴むと、鬼の方があわてて姿をけした。

「和漢百物語バージョン」は↓

2.さぎむすめ:白鷺の精が娘の姿となって現れている。

3.武田勝千代月夜に老狸を撃の図:武田信玄が、木馬を切ると、それは狸だった。

4.大森彦七道に怪異に逢ふ図:月夜に川を渡れずにいる娘を負ぶっていくが、この娘は楠正成の怨霊である鬼女だった。

5.清玄の霊桜姫を慕ふの図:殺された清水寺の僧「清玄」が、桜姫を慕って、襖のススキの中に浮き出てきている。

6.老婆鬼腕を持去る図:渡辺綱が取った鬼の片腕を伯母の姿をした鬼女が取り返しに来た。

7.鬼若丸池中に鯉魚を窺う図:弁慶が、池の中の巨大な鯉と闘う前の姿。

8.小町桜の精:桜吹雪の中に立つ遊女は、芝居「積恋雪開扉」に登場する小町桜の精霊。

9.為朝の武威痘鬼神を退く図:伊豆大島に流された鎮西八郎為朝が、疱瘡の鬼を退ける姿。赤い幣束と疱鬼の手形が描き込まれている。

10.内裏に猪早太鵺を刺図:頼政が射落とした鵺を猪早太が抑えて刺し殺すところ。

11.清姫日高川に蛇躰と成る図:安珍を追って日高川に身を投げ、蛇となる清姫。衣裳が蛇の鱗模様となっている。芳年は25年前《和漢百物語 清姫》で、この画題を全く同じ構図で描いている。

↓は「和漢百物語バージョン」と「新形三十六怪撰バージョン」を左右に並べた画像。

12.蒲生貞秀臣土岐元貞甲州猪鼻山魔王投倒ノ図:蒲生貞秀の家臣・土岐大四郎元貞は、甲州猪鼻山の魔王堂において仁王の妖怪と仏陀に相撲を挑まれ、これらを投げ倒した。あたりには阿弥陀如来の化物の腹から骸骨が次々と出現し、蝶となって元貞にまとわりついたという。

↓は「和漢百物語バージョン」と「新形三十六怪撰バージョン」を左右に並べた画像。

13.鍾馗夢中捉鬼之図:玄宗皇帝の夢の中に出てきた小鬼を捕まえようとする鍾馗。小鬼は怯えている。

14.地獄太夫悟道の図:堺の遊女で、後悔のため、地獄で苦しみを受ける光景を描いた地獄変相図を身につけていた。

15.藤原実方の執心雀となるの図:陸奥に左遷された藤原実方の望郷の念が、雀となって都に帰る。

16.平茂惟戸隠山[に悪鬼を退治す図:平惟茂は、勅命を受けて、戸隠山麓の荒倉山に棲む鬼女紅葉を退治した。構図は、「林間に酒を暖めて、紅葉を焼く」という白楽天の詩に基づく。

17.皿やしきお菊の霊:主人秘蔵の皿を割ったため、井戸に投げ込まれたお菊の霊が現れて、悲しそうに皿の数を数えている。

18.田原藤太秀郷:藤原秀郷は平安時代の武将であり、弓の名手。秀郷は後年になって「俵藤太」と呼ばれるようになった。俵藤太の物語の一つが、この芳年の描いた「大蜈蚣退治」である。因みに、蜈蚣はムカデ、百足のこと。
ある日、滋賀県の琵琶湖を望む瀬田の唐橋に、大蛇が寝そべっていた。弓の名手で怖いものなしの俵藤太は、大蛇を踏んづけて渡った。すると大蛇はみるみる美女に姿を変え、自分は竜宮城の龍の使いだが、「龍宮へ現れて暴れる大蜈蚣を退治してほしい」と頼む。
藤太は龍宮城へと案内され、時の経つのも忘れるほどに素敵な時間を過ごしているうちに、大蜈蚣がやってきたので、矢で射殺した。藤太は沢山の褒美を貰い、地上に戻った。

「和漢百物語」の画像は(↓)

19.布引滝悪源太義平霊討難波太郎:難波経房に斬首された悪源太は、布引滝の見物一行の前に、雷神となって現れた。

20.葛の葉きつね童子にわかるるの図:裾にすがりつく幼い童子、安倍清明と別れる母親。障子の陰のその顔は白狐に成り変っている。

21.仁田忠常洞中に奇異を見る図:冨士の洞穴の中で、仁田忠常が見た怪異なものは、大蛇であったと伝えられる。

22.清盛福原に数百の人頭を見る図:福原に都を遷した平清盛のもとに現れた大きなドクロ。その眼は襖の引手となっている。

23.奈須野原殺生石之図:化けの皮をはがされて、殺された九尾のキツネが、百年後に奈須野ヶ原の老僧の家に美女の亡霊となって現れた。

24.秋風のふくにつけてもあなめあなめをとはいはじすすき生けり 業平:在原業平は、ドクロの眼から生えたすすきが秋風になびき、小野小町の歌を詠む声を聞いたという。

25.三井寺頼豪阿闍梨悪念鼠と変ずる図:違約を怒った三井寺の頼豪は、死後、大ネズミとなって比叡山の仏像・経典を食い破ったという。

26.蘭丸蘇鉄之怪ヲ見ル図:夜な夜な異様な音をたて、葉をざわめかせる巨木だが、蘭丸が灯りをかざすと静かになった。

27.ほたむとうろう:旗本の娘である美女「お露」の亡霊が、老女「お米」の持つ牡「牡丹灯籠」の明かりに従って、恋人「萩原新三郎」のところへ。

28.大物浦ニ霊平知盛海上に出現之図:瀬戸内海に沈んだ平知盛が、大物浦の海上に現れる。

29.小早川隆景彦山ノ天狗問答之図:こちら側の山伏姿の天狗と問答する毛利元就の三男「小早川隆景」の姿は斜めの隙間から見てとれる。小早川隆景は、豊臣秀吉の命で、朝鮮出兵のための造船を目的として、英彦山で伐採していたところ、天狗に非難されたが、説得に成功した。

30.二十四孝狐火之図:上杉の八重垣姫は、敵方の武田勝頼を救うため、キツネ火に守られながら、兜を持って、湖を渡る。

31.やとるへき水も氷にとちられて 今宵の月は血にこそあり 宗祇:古寺で、うつむいて向うを向いている男の作った上の句に、下の句をつける連歌師の宗祇。

32.頼光土蜘蛛ヲ切ル図: 源頼光の土蜘蛛退治を題材にした一図で、「平家物語」「太平記」の「剣の巻」に伝わるエピソード。
源頼光が病に侵され、長い間床に伏せていたある夜、僧侶の姿をした土蜘蛛が現れ、半透明の巣網で頼光を絡め取ろうとした。土蜘蛛の目が、漫画チックである。
驚いた頼光は、とっさに枕元に置いてあった名刀「膝丸」を抜いて切りつけた。頼光の名刀「膝丸」は、その後「蜘蛛切」と呼ばれるようになった。

↓は「和漢百物語バージョン」。両者の髭がそっくり。

33.節婦の霊滝を掛る図:夫、飯沼勝五郎の仇をとらんとする初花の亡霊。

↓は「和漢百物語バージョン」。

34.茂林寺の文福茶釜:おなじみの和尚さん「守鶴」は、実はタヌキ。

35.四ツ谷怪談:憤死したお岩が、蛇のようになった腰紐の姿で降りてくる。

36.おもいつゝら:欲張り婆さんが、舌切り雀からもらった大きなツヅラを開けると、中から妖怪がゾロゾロ出てきた。

↓は「和漢百物語バージョン」。

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美術散歩 管理人 とら