太田記念美術館で、「浮世絵動物園 後期」を見てきた。
「浮世絵動物園 前期」の記事は
こちらで、「浮世絵動物園 前期 説明図」は
こちらです。
前期と後期で違ったことは、二つあった。
①入館チケットが北斎から広重に変った。②浮世絵美術館のポストカードブックが発行された。
展覧会の構成は下記のようである。
床.動物肉筆画
1.動物百変化
2.暮らしの中の動物
3.祈りと動物
4.江戸流アニマルファッション
以下、お気に入り作品を挙げていく。
・落合芳幾《猛虎之写真》1860:狂歌「異国の虎も尾を振る君が代や日の本の風になびきて」の意味を考えれば、豹の姿で描かれている「虎」や、虎が捕らえている「錦鶏鳥」、さらには駒絵の「西洋婦人」も、外国から日本へ舶来したという点が一致している。
・歌川広重《東都飛鳥山の図 王子道きつねのよめ入》1334-44頃:狐の新婦が駕籠に乗って桜満開の飛鳥山を行く。向かうのは王子稲荷神社なのだろう。「狐の嫁入り」なので、晴天に雨が降ってきた。
・歌川広景《青物魚軍勢大合戦之図》1859年10月(↓、クリックで拡大):
再見。
この《青物魚軍勢大合戦之図》は、擬人化された「青物(野菜)」と「魚」の合戦を描いたもので、安政6年(1859)に板行されている。安政5年には、致死率の高い疫病のコレラが長崎から侵入して日本中に伝染し、3年間にわたって流行し「安政コレラ」と呼ばれた。そこで、この絵の「青物」はコレラを予防する食物、「魚」はコレラを伝染する食物で、絵では両者の戦いをを示しているとされている。この絵解き図は(↓、クリックで拡大)に載せる(
詳細)。
実際には、これは「青物軍」と「魚軍」の戦に、「十二代将軍家慶の跡目争い」という将軍家の御家騒動、すなわち「南紀派=徳川慶福派=守旧派」と 「一ツ橋派=一橋慶喜派= 開明派」の争いを見立てた「風刺画」であった。結果としては、将軍継嗣は慶福に決定した。すなわち「青物軍(南紀派)」の勝利であった(
詳細)。
・歌川芳虎《家内安全ヲ守 十二支之図》1858:子=鼠の顔、丑:牛の角、寅=虎の背、卯=兎の耳、辰=龍の炎、巳=蛇の尾、午=馬の鬣、未=羊の後脚、申=猿の足、酉=鶏冠、戌=犬の前脚、亥=猪の毛並み。
書き込まれた狂歌は「うきたつや 虎にをき稲とり込ミて もううまいぬる ひつじさるころ」= 「
卯き
辰や
寅にをき
亥子酉込
巳て モウ(
牛)
午戌る
羊申ころ」。
・四代歌川国政《兎の草履打》1864~89:「草履打」は、浄瑠璃「加賀見山旧錦絵」の六段目の通称。局・岩藤が中老・尾上を草履で打って侮辱する場で、歌舞伎でも見せ場となっている。この兎絵でも立っている兎の手には草履が握られている。
・歌川貞秀《蛸踊り》1838:4匹の蛸が浜辺で踊っている。団扇絵。
・四代歌川国政《しん板猫のそばや》1873年10月:上段左:蕎麦打ち、上段右:蕎麦茹で、中段:店内客、下段:店外客や出前。玩具絵。
上段↓
中段(部分)↓
下段↓
・歌川国芳《五十三駅 岡崎》1847頃:再見(歌川国芳 府中市美術館 2010)。1847年に上演された「尾上梅寿一代噺」に題材を取った作品。簾を破って覗き込む巨大な猫に、手拭を被って踊る猫たちが描かれており、床の緑色や三毛猫の色などはカラフルである。
・服部雪斎《サンセイウオ》1872年3月:明治5年、湯島聖堂で開かれた博覧会での説明図。
・歌川国芳《蝦蟇手本ひょうくんぐら 三段目・四段目》
再見。国芳の面目躍如。「三段目」は刃傷場(喧嘩場)で、右から、ガマガエルの鷺坂伴内、高師直、塩谷判官、加古川元蔵たちが描かれている。「四段目」では、城館を明け渡して、なおも名残惜しそうに屋敷の方を眺めるガマガエルの大星由良助が手にしているのは無き主君が切腹に使ったかたなではなくナメクジである。着物の家紋はナメクジ。
・鈴木春信《風流五色墨 素丸》1765-70頃:猫を膝に転寝(↓↓)している女性の袖を紐で結びつけている悪戯女二人(↓)。上部の狂句は「素丸 年わすれ座頭ひとりの朝日山」。障子に写る影は年忘れ会に呼ばれた座頭なのだろうか。
・葛飾北斎《狆》1833:狆は奈良時代に新羅から輸入された犬で、現在は愛玩用として日本の特産になっている。赤いネッカチーフを巻いた狆の毛並が見事で、表情は穏やか。前足で毬を押えている。バックに描かれているのは黄色い蒲公英と赤い穂をつけた蓼。
・葛飾北斎《馬尽 駒下駄》摺物 1857年11月:再見(北斎展2005)。水引で結んだ駒下駄・三升(七駄代目団十郎のお兼~晒女)を染め出した手拭を被ったお多福の面・扇・暴れ馬を書いた凧・注連飾りを付けた擂粉木(男女和合の象徴で七草に使う縁起物)を描いている。近江の勇婦・お兼に関連した正月の景物を中心に構成している。これは二つの狂歌「狂月亭真晴 玉の春にあふみの和合楽ふんでとめたる馬のかきぞめ歌垣真顔」と「四方若菜つむ春にあふみのかねてはく雪間のあし駄踏みとめてけり」から分かる。
・歌川国貞《浄瑠璃つくし 傾城恋飛脚 梅川忠兵衛 新口村の段》1829頃:「梅川・忠兵衛」を題材とした浄瑠璃の最終段「新口村の段」は、逃げてきた忠兵衛と遊女・梅川の二人が忠兵衛の父に会い、そして捕まるフィナーレ。梅川の「蝙蝠模様」の衣装が今回のテーマの江戸ファッションなのだが、「蝙蝠」は「蝠」の字が「福」に通ずることから、「幸福」を招くとされているだけに、梅川の気持ちが痛ましい。
美術散歩 管理人 とら