阿修羅 1300年の新事実

この放送は、3月23日の20時～。その番宣は以下である。

世界遺産奈良興福寺で1300年守られてきた国宝阿修羅像に関する新事実が詳細に報告される。この春から、興福寺の阿修羅像は、他の国宝仏とともに、初めて天平時代の並びとして展示された。また九州国立博物館が８年かけて解析してきた阿修羅のCTスキャン画像が合掌ポーズと美少年のような顔についての驚きの新事実を導く。仏教に詳しい古舘伊知郎、美を愛する井浦新、奈良生まれの松下奈緒の3人が、アジア、ヨーロッパ、エジプトにもつながる日本一といわれる美仏の謎に挑む壮大な古代ミステリーである。

第一に、リアルな顔立ちはどのように作られたのか。また、阿修羅像は本来は手を合わせていなかったのか。このように多くの謎が、最新の科学調査と専門家の大胆な推理で解き明かされた。

【出演】古舘伊知郎，井浦新，松下奈緒，多川俊映，上野誠，今津節生，楠井隆志，佐伯俊源，矢野健一郎，兼古健悟，金子啓明，吉村作治，山岸公基，樋口教香，山崎隆之，【語り】伊東敏恵

【内容】参考動画

１．興福寺　案内は多川俊英貫主

工事中の中金堂は9割完成し、平成30年の落慶を予定している。阿修羅は今まで「国宝室」で他の仏像とともに横に並んで置かれていたが、この春からは「中金堂」の北側の「仮講堂」に安置されおり、作られた当初を彷彿とさせる並び方となっている。阿修羅は、元来戦いの神で、荒ぶる神であるが、興福寺の阿修羅はそのように見えない。

謎の1　顔～人間のような顔をしているのは？
謎の2　合掌～荒ぶる神が祈っているのは？
謎の3　仏像群～生まれた理由は？2.　九州国立博物館

2008年からＸ線CT検査で得られた阿修羅像画像15万枚を8年間かけて解析した。3次元画像を見ると、内部は木を組んだだけだが、外側には漆で固めた麻布の薄い層が見られる。完成時には、デッサンに相当する「塑像」自体は取り出され、「原形の痕跡」だけが残っている。1280年前に取り出された「塑像」が分かれば本来の阿修羅像の顔が分かるので、「原形の痕跡」を0.2ミリ間隔で測って、原形の阿修羅像の顔を作り上げた。それは衝撃的なもので、厳しい眼を持つ荒ぶる阿修羅の顔つきであった。阿修羅は最高神のイントラに戦いを仕掛けＴ悪神なのである。こうやって見ると、興福寺の阿修羅像は完成前に優しい顔に変えられていたことが分かる。残るは「誰が？」という疑問と「なぜ？」という二つの疑問である。

3.　平城京跡「大極殿」

古舘伊知郎と松下奈緒は、上野誠奈良大学教授（参照：大和三山の古代）の案内で、平城京跡の「大極殿」を訪ね、「高御座」に座っている聖武天皇の妃で、仏教文化を広め、社会福祉活動を行った「光明皇后」が、興福寺の優しい阿修羅像を作らせたということに気づいた。光明皇后の時代、干ばつや飢饉が頻発し、皇后の母や兄弟が死に、皇后自身も病に倒れるなど苦難を受けていた。

古舘伊知郎と松下奈緒は、光明皇后の邸宅跡に作られた「光華寺」を呉と訪ねて、樋口教香住職の案内で「浴室（からぶろ）」という蒸気風呂を見学した。これは一般庶民のために光明皇后が作った福祉施設であった。

4.　 三笠山

松下奈緒は、上野誠教授と一緒に三笠山に登った。万葉集の専門家である上野教授は、光明皇后の時代に新羅と緊張関係にあった日本が遣唐使を送って唐と良好な関係を保とうとした。当時の遣唐使船は非常に危険なものであり、自分の子供を遣唐使船に乗せる母親の気持ちを詠った歌が残っている。これは優しく、強い女性の歌である。

大船に　ま梶し貫き　この我子を　唐国へ遣る　斉（いわ）へ神たち

【註】ま梶＝櫂　し貫き＝沢山付けて

「合掌によって祈っている阿修羅」の姿は、この女性たちの祈りの姿に通じるものである。

5.　奈良国立博物館　訪問者は古舘伊知郎、説明者は佐伯宗源（僧侶、仏教学者）

光明皇后が最も重要視した経典《金光明最勝王経》のテーマは「護国」（仏教の功徳で国を護る）であった。瞑想していた釈迦の周りに、釈迦の弟子や仏教を護る神たちが集まってきた際に、釈迦が立ち上がって「懺悔」をすれば救われるという説話が金光明最勝王経に記されている。興福寺に「仏像群が生まれた理由」は、この説話に基づいている。この仏像群は経典に登場した仏や神たちを登場させたジオラマであり、仏教真理を具現化したテーマパークなのである。

6.　興福寺

興福寺には、国宝《十大弟子立像》と国宝《八部衆像》（↓）が並んでいる後者には、①頭に蛇を持つ沙羯羅②獅子の冠を被る乾闥婆③髭の畢婆迦羅④歯をむき出した鳩槃荼⑤鳥の頭を持つ迦楼羅、⑥頭に角、額に眼を持つ緊那羅⑦象の兜を持つ五部浄⑧祈る阿修羅が含まれる。

こういう八部衆像は、遠くエジプト（↓）、ギリシャ（↓↓）、インド（↓↓↓）、古代ペルシャ（↓↓↓↓）と繋がっている。7.　奈良大学　訪問者は井浦新、実演者は山崎隆之（仏師）

X線CTスキャンで、原形の阿修羅の頭部を作り、最終段階の工程を辿りながら、二つの阿修羅像の比較を行った、原形は「連眉（れんぴ）」となっていて怖い表情であり、興福寺像には「涙袋（なみだぶくろ）」があって、悲しみをこらえている表情となっている。光明皇后は、自分の意を戴した僧侶を仏師の許に送って、自分の考えを伝えていたのではなかろうかというのが山崎隆之仏師の意見である。

興福寺の阿修羅像が「こども顔」であることについては、金子啓明国宝館館長が八部衆像の中に子供の顔となっているものがあることに注目している。

すなわち、沙羯羅（↓）は5－6歳　五部淨（↓↓）と乾闥婆（↓↓↓）は10歳代、阿修羅（↓↓↓↓）は10代半ばだというのである。
光明皇后の息子・基（もとい）王は元来体が弱く、1歳にならないうちに死亡しており、亡き子が成長した時の容貌を、その後に作られた八部衆像に具現させたのではないだろうか。

8.　九州国立博物館　訪問者は井浦新、実演者は今津節生（阿修羅調査チーム）

明治時代の阿修羅の写真が、奈良市写真美術館蔵の「日本精華」に載っている。これでは右手の前腕末梢部が欠損し、左肘関節が垂れ下がり、合掌していないようにも見える。九州国立博物館でCTスキャン画像を再解析してみると、左手が正中線より2センチ左に寄っており、これは左手を固定していた釘が抜けたためであると判明した。
この修正によって、阿修羅像の「合掌」が1300年前の姿に再生した。
美術散歩　管理人　とら

【参照】
・阿修羅展
・興福寺の阿修羅像

【追記】興福寺国宝特別公開2017　阿修羅～天平乾漆群像展（後期）

特別公開は今春に続き2回目。重文・康慶一門作《四天王像》、国宝・康弁作《龍燈鬼像》・《天燈鬼像》の6体が東博の「運慶展」への出展のため興福寺を離れるが、それ以外の仏像は会場の仮講堂に安置される。

仏たちの中でもっとも存在感を示しているのは、本尊の「阿弥陀如来」（12世紀、重文）。高さ2.26mの金色の光背には飛天が舞い飛んでいる。
その正面には儀式用の銅製打楽器「華原磬」（8世紀・国宝）が鎮座する。獅子の背中に柱が立ち、そこに雌雄4体の龍が巻き付く。龍たちが抱えるようにしている「金鼓」は美しい調べを聞かせたという。

「興福寺曼荼羅図」（12～13世紀、重文　京博蔵）の世界が、今回の阿修羅像などの八部衆と現存6体の十大弟子像（天平6年、国宝）、阿吽二体の金剛力士像（12～13世紀、国宝）、梵天・帝釈天像（12～13世紀、重文）に結実している。画像をクリックし、さらに⊕をクリックすると拡大します。