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1.中国における曜変陶片の発見
曜変天目は生産地の中国においては文献上の記述もなく、現物はおろか、陶片ですら見つかっていない状態であったが、2012年5月に中国浙江省杭州市の杭州南宋官窯博物館・鄧禾頴館長が発表した論文において、2009年末に杭州市内の工事現場から曜変天目の陶片が発見されていたことが報告された。 出土した陶片は、高さ:6.8cm、口径:12.5cm、底径4.2cm、全体の3分の2ほどが残っていた。 ![]() ちなみに、この陶片は発見者から河南省の骨董愛好家に2,500元(約4万円)で、ついで河坊街の骨董店に15,000元(約245,000円)で、さらに杭州の所有者に2,500,000元(約4,000,000円)で譲渡された。 この曜変の陶片を、日本から研究者チームが杭州に出かけて、現地で「成分分析調査」を行おうとした。 その研究者のチームは、出川哲朗(古陶磁学者、大阪市立東洋陶磁美術館館長)、小林仁(中国陶磁史学者、大阪市立東洋陶磁美術館)、中井泉(分析化学、理学博士、東京理科大学教授)、福嶋喜章(ナノ科学研究、工学博士)、藤田清(国宝曜変天目所蔵、大阪藤田美術館館長)、長江惣吉(陶芸家・曜変天目研究者)で構成されており、曜変の謎を解くわが国最高のメンバーだった。 チームは現在所蔵されている杭州の古越会館に出かけて、実物が南宋時代に作られた茶碗の破片であることを確認した。 この際、九代目長江惣吉氏はこの陶片の割れている部分の断面を見て「1,300度以上で焼かれたもので、自分たちの1,200度台よりものより高温である」と結論付けた。中国から日本に伝来している三客の曜変天目茶碗ではこのような陶片断面を見ることは不可能であり、今まで曜変天目の再現に失敗を重ねてきた長江惣吉して初めて云える言葉であった。 肝心の「成分分析調査」は、調査当日になって中国当局の横ヤリが入って中止となった。中国側が「データが日本に持っていかれる」ことを恐れたためらったのだろうか。 2.テレビ東京系列のテレビ番組による鑑定 2016年12月20日に放送された「開運!なんでも鑑定団」(テレビ東京系列)において、出品された天目茶碗が番組出演者により「曜変天目茶碗」と鑑定された。 この番組に関するブログ記事はこちらである。 これは、徳島県在住の男性が、大工だった曾祖父が三好長慶の子孫の屋敷を移築する作業に関わった際にもらい受けた骨董品に含まれていた茶碗として出品したものだった。 番組内で鑑定した骨董商の中島誠之助氏は 「12〜13世紀(南宋時代)に福建省の窯で焼かれた曜変天目茶碗である」と鑑定し、2,500万円の鑑定額が付けられた。 ただしこの鑑定結果は当該番組の「独自の見解に基づいたもの」であり第三者による学術的な確認は提示されていない。事実、陶芸家・九代目長江惣吉氏はこの天目について公式動画を公開し反論しておられる。 3.NHKテレビ番組における二つの「曜変天目再現の物語」 その第一は、2015年11月1日のNHKプレミアムアーカイブス紹介、2003年放送の「幻の名碗 曜変天目に挑む」である。プレミアムアーカイブスの動画はこちらで見られる。これで取り上げられていたのは、①中国福建省南平市「南平星辰天目陶瓷研究所」孫建興さんの「類曜変」から「曜変」への努力(↓) ![]() ![]() ![]() ![]() 九代目長江惣吉氏、その父親の八代目を含め、幾多の陶工たちが同じものを焼こうと挑んできたが、製法を解明した人はいない。(↓左)は静嘉堂の国宝・曜変天目で、(↓右)は九代目長江惣吉氏のこれまでの作品。 ![]() 九代目長江惣吉氏は、杭州から福建省の建窯窯跡に移って、破片を探すが、盗掘が多いため断念せざるをえなかった。 そんな状況の陶芸家・長江氏のもとに、中国で分析が果たせなかった研究チームから良い知らせが届いた。 藤田美術館に伝世されている曜変天目茶碗が化学分析できることになったというニュースである。藤田美術館が所蔵する国宝・曜変天目は、幕末で財を築いた藤田家が、明治維新後、水戸藩からおよそ9億円で買い取ったものである。 長江氏とともに杭州の分析に参加した藤田美術館館長の藤田清氏が 世界初の化学分析を実現するために文化庁への手続きや、館内の調整に動いた。 分析は美術館の館内に計測機器を持ち込んで行われた。今回分析を担当したのは、中井泉東京理科大学教授が率いるチーム。 まずは「光学顕微鏡」で茶碗の表面を観察するが、「星紋」のオーロラのような輝きと不思議な丸い模様は感動的である。 次に「蛍光X線分析装置」で茶碗に含まれる物質の構成を調べる。 ![]() 今回の「蛍光X線分析」では鉛などの重金属が検出されたが、いずれも自然に含まれている範囲の少量で、突出した量ではなかった。 つまり今回の分析では窯変の模様は金属が溶けた跡とする「重金属説」では説明できないことが分かった。 そこで、今まで長江親子が貫いてきた「酸性ガス説」が有力になって来たのである。 今回の分析でひとつだけ、ある酸性物質が検出された。それは塩素である。 塩素は、かつて長江氏の父親が用いたものであるが、現在長江氏が使っていない酸性物質である。 吹きかけた酸性ガスが焼き物の中に留まりにくいため検出が難しいという問題があるものの、長江氏は「酸性ガス法」に自信を深め、焼き方を工夫すればあの模様や光彩を出す可能性があるとの見解になった。 このため、研究チームは、焼く前の茶碗にかける釉薬の成分を調べることとし、長江氏の作品と国宝の成分を比べてみた。 分析で出てきた元素は12種類であるが、珪素は国宝の方が多少多く、マンガンは国宝の方が大分多い。すなわち長江氏の作品と国宝では、特に珪素とマンガンで違いがあった。 長江氏が今も大切にしている父親の作品は金色の曜変であるが、父親はこの茶碗を塩素を吹きかけて作っていた。今回の分析で塩素がわずかに検出されたことを踏まえて、長江氏はかつて父親が使っていた塩素を使うことにした。 このように分析結果を基にした新たな曜変作りが始まった。 釉薬は、粘土や灰など何種類もの材料を混ぜ合わせて作るが、長江氏は今回の結果を受けて、これまでの配合に修正を加え、マンガンと珪素の量を足し、釉薬全体のバランスを整えた。 長江氏は今までは松の灰を基本に考えていたが、今後は二酸化ケイ素が多い稲藁に近い植物の灰を基本とし、割り出した配合をもとに土や灰を調合して釉薬を作成した。 実際には、茶碗を2つ作り、小さな窯へ入れ、一度火を入れたら30時間窯につきっきりで、杭州の曜変から推測した最高温度1,300度で焼いた。20年間の経験と勘に基づいて、窯の温度管理と酸素管理が巧みにコントロールされた。 いよいよ酸性物質の投入。粘着テープに巻かれた新聞紙の中には塩素を含む調剤が入っている。 酸性物質の投入から30分。長江氏は窯の火を消した。 窯が冷めるまでの時間待って窯出し。 出てきたのは真っ黒な茶碗だが、長江氏は「いい感じだ」という。 「これがね、かなりよい感じですね。クリアな感じがしますしね。全体にかぶったような、くもったような感じと違うんですよね。釉薬自体もパリっとしてるしね。光彩自体を出すことはだいぶ確率も上がってはきたんですけど、きれいな透明感のある光彩がちっとも出なかったんですよ。これがようやく長い間の低迷から脱する糸口になりそうな気がするんで喜んでいるんです」 ![]() 長江氏は酸性物質の塩素の窯への投入に一工夫を加えることにした。その工夫とは、酸性物質投入時に窯の湿度を少し上げることである。 しかし焼くときの窯の中の湿度は化学分析しても分からないので、こうした焼くときの細かい情報は経験や勘で突き止めていくしかない。 この日、研究仲間が長江氏の窯を訪れた。曜変の化学分析のリーダー、中国陶磁史の研究家・小林氏である。 窯の前で「いよいよですね」と声をかける小林氏。「あんまりたいしたことはないと思いますけどね」と窯をあけつつ長江氏。小林氏「おおー!」長江氏「ちょっと出てる」 ![]() 長江氏「出てはいますけどね。だけど、これでは曜変の再現といって発表はできませんね。こんなんではね」。小林氏「長江さんが求めているのは(完全な)再現ですもんね」。長江氏「そうですね」 これまでの作品と比べると、くっきりとした光彩と模様を出すことができた。しかし、国宝にはまだ届かないようにも見える。(↓左は 静嘉堂の国宝・曜変天目で、↓右が今回の長江氏の作品) ![]() ひたすら国宝レベルの曜変を目指す長江氏の親子二代、半世紀にわたって続けてきたこだわりに妥協はない。 20年前、曜変に入れ込む父親を許すことができず、瀬戸で家業の染付磁器製作だけを行っていた時期のあった長江氏は、今は父親の気持ちに報いたいという一心で曜変を焼き続けている。 陶芸史上最大の謎、曜変。これまで何人もの陶工たちが果敢に挑んできた。人々を吸い寄せては突き放してきた魔性の輝き。800年の時を経て、その輝きは現代に甦るのだろうか。 美術散歩 管理人 とら
by cardiacsurgery
| 2017-01-14 12:52
| アート一般
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