金沢美術散歩 第2日 室生犀星記念館、武家屋敷

　旅行先では朝早く目が覚める。シャワーを浴びて、6：30から開いている和洋食バイキングの会場へ。　お盆の上に載っているのは、トマトジュース、加賀野菜サラダ、加賀豆腐、金時草と加賀麩の煮物、石川県産大豆納豆。机の上には朝日新聞朝刊が置いてある。

　係りの人に聞いてみると、ご当地のお粥や豆腐には能登産の天然塩をかけて食べるということだった。これが石川県人の食塩消費量が全国のトップテンの中に入っている理由の一つなのかもしれない。　10時にホテルをチェックアウトして、友人2名とともに「室生犀星記念館」に向かった。　私が育った南砺市福光と金沢市の間には「医王山」があり、子供のころから、犀星の「ふるさとは遠きにありて思ふもの」の詩に憧れていた。ちなみに犀星もこの「医王山」が好きだったらしく、同名の小説もある。

　今回この室生犀星記念館を訪れたのは、その生涯を知ることによって、犀星にあの詩を詠ませたものは何だったかを知りたいと思っていたからである。

　室生犀星記念館の入口にはパネルシートでこの詩が貼られている。、『抒情小曲集』巻頭の詩「小景異情」その二の冒頭の詩である。　光で反射して読みにくいので、実際の詩文と並べると（↓）のようであるが、パネルシートの詩文には、最後の3行が省略されている。　以前から、この有名な詩句が、どこで書かれたのかという疑問を持っていたが、このパネルシートを見て、これは遠方にあって故郷を思う詩ではなく、郷里金沢で書かれたのであると確信するに至った。

　上京した犀星が、志を得ず、金沢との間を往復していた苦闘時代に、帰郷した折に作った詩なのである。故郷は孤立無援の青年には懐かしく忘れがたい。それだけに、そこが冷ややかな場合には胸にこたえて悲しいという愛憎の複雑な思いを、感傷と反抗心をこめて歌ったのである。すなわち帰る都（みやこ）は東京なのである。

　室生犀星記念館の1階には犀星の生涯を説明したパネルや資料が並んでいた。それを纏めると、以下のようになる。

明治22年8月1日、小畠弥左衛門吉種の子として金沢に生まれたが、生母の名は不明である。

　生後ほどなく言宗高野山派千日山雨宝院住職・室生真乗と内縁関係にあった赤井ハツにもらわれ、照道と命名された。

　6歳で金沢市立野町尋常小学校に入学、7歳で室生真乗の養嗣子となり、室生姓を名乗った。

　犀星は11歳で金沢市立長町高等小学校に入学したが、13歳で高等小学校を中退して金沢地方裁判所で働きはじめた。

　17歳の時に犀星の名で詩作を発表した犀星は、文学への思いを募らせて20歳で単身上京し、生活苦にあえぐなかで数々の詩をつくった。

　大正5年、泥濘の放浪生活に終止符を打ち、田端文士村に入村した。

　大正7年、29歳となった犀星はで浅川とみ子と結婚したが、その年に発表した『愛の詩集』や『抒情小曲集』などの抒情詩は大正期の詩壇を牽引し、さらに大正8年には小説家としてデビューした。

　その作品は抒情的な作風の「幼年時代」や「性に眼覚める頃」などの初期小説、市井鬼ものと称される「あにいもうと」などの中期小説、「杏つ子」「かげろふの日記遺文」「蜜のあはれ」など次々と新しい境地を拓いていった晩年の小説など多岐にわたり、随筆、童話、俳句にも優れた作品を残している。

　大正10年に長男・豹太郎が誕生したが、翌年夭折。大正12年には、長女・朝子が誕生したが、関東大震災に遭い、家族とともに一時帰郷。昭和2年、親交を結んでいた芥川龍之介が自殺し、その死に大きな衝撃を受け、その翌年、犀星は田端を去った。

　昭和7年に大森区馬込町に新築転居し、これが終の住家となり、昭和37年に肺癌のため死去。翌年、金沢市野田山墓地に埋葬された。

　不遇な出生をのりこえて描かれた犀星文学は、故郷の山河に対する深い思いや、小さな命、弱いものへの慈しみの心があふれ、人生への力強い賛歌ともなっている。

　ちなみに、頂いたパンフレットには、犀星の代表作の表紙が並んでいた。　2階では企画展「犀星と田端文化村」が開かれており、犀星の広い交友関係が分かるようになっていた。　「相関図」には、板谷波山・田辺至・福士幸次郎・サトウハチロー・菊池寛・瀧井孝作・田辺孝次・吉田三郎・下島勲・尾山篤二郎・芥川龍之介・小穴隆一・ワシリー＝セストビートフ、広瀬雄・香取秀真・田嶼碩朗・堀辰雄・小杉放菴・碩通・夛田不二・平木二六・佐多稲子・高柳真三・竹村俊郎・萩原朔太郎・中野重治・窪川鶴次郎・黒田秀雄・小畠敏種・宮木喜久雄の名前が載っている。

　少し時間があったので、タクシーを呼んでもらって「武家屋敷」に回った。

　一度は来てみたいと思っていた場所だったが、北陸新幹線開通の余波を受けて、路地は観光客で鈴なり状態だった。観光客のいない場所を選んで撮った記念撮影は（↓）と（↓↓）。　金沢駅へ戻る途中のタクシー運転手が強く勧めてくれた「笹寿司」（↓、2種・6個入りで、値段は600円位）を新幹線内の弁当とし、「プレミアム笹寿司」（↓↓、3種・6個入りで、値段は1000円位）を家内への土産として、帰京した。　「プレミアム笹寿司」は当日一杯に食べることという注意書きがあったので、当日夜の家内の主食となった。　（↑）は「プレミアム笹寿司」の「鯛」・「鮭」・「穴子」の中の「穴子」である。

　ちなみに、車内で私が食べた「笹寿司」に載っていたのは「鯛」と「鮭」の小片だけだった。　古人曰く「値段は只では付いていない」。

美術散歩　管理人　とら


【註】　第1日の記事はこちら。