若冲と蕪村 2回目 ＠サントリー美術館

　多忙のためこの展覧会の中期は見逃したので、後期が始まってすぐに観に行ってきた。

　今回の記事では、蕪村の俳画について述べることにしたい。

・6　蕪村賛・応挙画《「己が身の」自画賛》：　「己の身の　闇より吼えて　夜半の秋　蕪村」　文化庁保管の「蕪村書状」によれば、蕪村の俳句の門人が応挙にこの画を描いてもらい、蕪村に句賛を求めたものとのこと。

・21　蕪村《静御前図自画賛》：　「雪の日や　しずかといえる　白拍子」　兄・頼朝と対立した義経とともに雪の吉野を旅した静御前。句中の「しずか」は、義経と別れた後、捕えられて頼朝の前で踊らされる「静」を暗示している。画面左に花押が押されているが、印章は捺されていない。蕪村の俳画としては最初期のもの。

・83　蕪村《春の海・紀の海にも」自画賛》：
「春の海　終日のたり　のたりかな　蕪村」
「紀の路にも　おりず夜を行く　（雁ひとつ / 雁の声）下五字はきく人のこころにまかす」　蕪村の俳諧の中でもっとも有名な「春の海」という句と「紀の路」の句が書かれており、後者ではいずれの下の句をとるかを人の好みに任せているようだが、蕪村は雁の姿と声によって、読む人の視覚と聴覚の両者を誘導している。描かれている人物は、この句を読んだ人が「雁の姿と声のいずれをとるか」を考えている姿なのだろう。

・84　蕪村《「学問は」　自画賛》：　「学問は　尻からぬける　ほたるかな　蕪村」　題の「書窗」とは書斎の窓、または書斎で、「懶眠」とは怠惰な眠気。学問と蛍の関係は、「蛍の光、窓の雪」という車胤の逸話からきている。

・87　蕪村《「鳥羽殿の」自画賛》↓左：　「鳥羽殿へ　五六騎急ぐ　野わきかな　夜半翁」。保元平治の戦に取材。・88　蕪村《「こちら向きに」自画賛》↑右：　「こちら向きに　たつ鴫はなし　秋の暮　蕪村」。芭蕉の「こちら向け　我も寂しき　秋の暮」は、西行の「心なき　身にもあわれは　知られけり　鴫立つ沢の　秋の夕暮」を本歌取りした句であるが、蕪村は私淑していた芭蕉のこの句を通して、西行とつながっている。画の笠と杖は西行や芭蕉の旅を暗示している。

・95　蕪村《若竹図》　愛知県美術館：　　「若竹や　はしもとの遊女　ありやなしやと」　「はしもと（橋本）」は、大坂街道の宿場町で、宿屋女を置く旅籠屋があった。「はしもと」は、西行と連歌を唱和した尼の閑居である「江口はしもとなどという遊女のすみか」という説もある。

・97　蕪村《「又兵に」自画賛》　逸翁美術館：「又兵に　逢ふや御室の　花ざかり　蕪村」
　前書は、「みやこの花のちりかかるハ光信が胡粉の剥落したるさまなれ」。酔っぱらった男の足元の瓢には酒が入っている。この男「又兵」とは、近松門左衛門作「傾城反魂香」に登場する岩佐又兵衛に擬した架空の人物「浮世又兵」（吃音の「ども又」、後の土佐光起）のこと。御室の桜は遅咲き。桜が舞い散るさまを土佐光信の絵から胡粉が剥がれ落ちる様に喩え、仁和寺の酔客に光信から免許皆伝を許されて喜ぶ「又兵」の姿を重ねている。

・99　蕪村《紫陽花にほととぎす図》　愛知県美術館：　「岩くらの　狂女恋せよ　ほととぎす　蕪村」　　血を吐くまで鳴き続けるホトトギスと治療のために岩倉にある不動の滝を訪れた恋に狂った女性の叫びを重ねている。

・100　蕪村《「柳ちり」自画賛》　逸翁美術館：　「柳ちり　清水かれ　石ところところ」　前書には、「赤壁前後の賦字々みな絶妙　あるか中に山太高月小水落石出と　いふものことにめでたく孤霍の群鶏を　出るかことし
むかしみちのくに行脚せしに　遊行柳のもとにて忽右の　句をおもひ出て」とある。「遊行柳」とは、蕪村や西行も訪れた那須の名所。

・103　蕪村《奥の細道画巻》1778年　京都国立博物館：　重要文化財。今期は、「須賀川の隠者」-世の人の見付ぬ花や軒の栗-（↓）と「佐藤庄司の嫁の像」-笈も太刀も五月にかざれ帋幟-の絵を見ることができた。　海の見える杜美術館蔵の蕪村《奥の細道画巻》1778年（↓）では、「山中の別れ」と「全昌寺の朝」を見ることができた。

＊山中の別れ:　「行行てたふれ伏とも萩の原　曾良」 、 「今日よりや書付消さん笠の露」＊全昌寺の朝：　「終宵秋風聞やうらの山」、 「庭掃て出ばや寺に散柳」、「月をたれたる汐越の松　西行」　・106　蕪村《野ざらし紀行図屏風》1778年：　蕪村が挿絵を添えた絵巻を、6曲１隻の屏風に貼りつけて仕立て直した作品。重要文化財。

　描かれた絵は全部で11図（↓）

①「馬上の芭蕉」　・野ざらしを心に風のしむ身かな②「富士川捨て子」　・猿を聞人捨子に秋の風いかに③「芋洗う女」　・芋洗ふ女西行ならば歌よまむ④「てふ女の茶屋」　・蘭の香や蝶の翅に薫物す⑤「亡き母遺髪との対面」　・手にとらば消ん涙ぞ熱き秋の霜⑥「吉野砧打ち」　・碪打て我に聞かせよや坊が妻⑦「不破の関跡」　・秋風や藪も畠も不破の関⑧「雪見笠売り」　・市人（いちびと）よ此笠売らう雪の傘
⑨「鳴滝山家」　・樫の木の花にかまはぬ姿かな⑩「任口上人との対面」　・我が衣に伏見の桃の雫せよ⑪「唐崎の松」　　・辛崎の松は花より朧にて

美術散歩　管理人　とら