私が選んだ20点 ＠100のモノが語る世界の歴史 大英博物館展 in 都美

　2012年6月に、「2時間で回る大英博物館～究極の完全ガイド～＠ NHK-BSプレミアム」と題するブログ記事を書いたが、最近になってなぜかこの記事へのアクセスが急増したと思っていた。その理由は今回の展覧会が始まったということのようなので、とりあえず今回の展覧会を覗いてきた。これは昨日のことである。　人類の文明が始まって以来、世界各国で制作された「もの」の中から100点を選んで展示するという壮大なプランの展覧会で、2014年のアブダビ（アラブ首長国連邦）を皮切りに、台湾、日本（都美・九博・神戸市博）を経て、オーストラリアへと世界中を巡回している。

　この展覧会の特徴は下記の2点で、これらによって世界の歴史を新しい視点から見渡すものであった。　

①　文字を持つことのなかった「非文明社会」の文化を知ることができる。
②　歴史から抹殺されている「敗者」の文化を知ることができる。

　「2時間で回る大英博物館～究極の完全ガイド～＠ NHK-BSプレミアム」で選ばれた10点のうち、今回はるばる東京までやって来たのは、《ウルのスタンダード》のみで、《ロゼッタストーン》はレプリカで、レプリカならば国内でも見たことがあるし、本物は現地で見ている。

　以下、今回の展示品の中での「私の選んだ20点」を、章別に挙げていく。

【番外】　プロローグ《古代エジプトの棺》紀元前600年頃　エジプト：　この棺は、シェペンメヒュトという名前の女性のために作られたものだが、CT検査で調べると、中の遺体は男性だったというミステリー。緑色の顔は、冥界の王で植物と復活を司る「オシリス神」を表している。胸元に描かれているのは天空の「女神ヌウト」で、大きく翼を広げて死者を守っている。その下の行列の右端には、手を引かれて神々のもとへ導かれていの赤い着物を着た死者が描かれている。【第1章】　創造の芽生え

Ⅰ．002 《オルドヴァイ溪谷の握り斧》140万－120万年前　タンザニア　オルドヴァイ溪谷：　アフリカで誕生した人類が石を削って使っていた斧。これより古いものとしては。200万年－180万年前のオルドヴァイ溪谷の礫石器も出ていたが、この握り斧ほど精巧なものではなかった。Ⅱ．003《トナカイの角に彫られたマンモス》1万4000年－1万3500年前　フランス　モンタストリュック：　これは槍投げの道具（投槍器）の一部だが、芸術的な装飾が加えられている。【第2章】　都市の誕生

Ⅲ．013《ウルのスタンダード》紀元前2500年頃　イラク：　メソポタミアの都市「ウル」で作られたこの作品には、都市同士の争いの様子が描かれている。下の画像の上段は「平和面」、下段は「戦争面」であるが、これらは枕状の「スタンダード」の両側面に描かれたものである。　（↓上段）の王様は他の人より大きく描かれ、手に盃を持っている、（↓下段）では、かわいそうな人間が馬車に轢かれている。Ⅳ．019《ミノス文明の雄牛跳び像》紀元前1700－前1450年　ギリシャ、クレタ島：　雄牛の上で男性が宙返りしている。これは宗教儀式のようだが、現在のスペインで行われている写真も展示してあって驚いた。【第3章】　古代帝国の出現

Ⅴ．023《アッシリア戦士のレリーフ》紀元前700－前695年　イラク：　前を行く矢筒を背負った戦士は弓を持ち、後の戦士は槍と盾を持っている。アッシリア戦士の勇猛ぶりは歴史上有名である。Ⅵ．028《アウグストゥｽ帝の肖像》1- 40 年　イタリア：　初代皇帝アウグストゥｽの肖像はいくつも残っているが、「年老いてからも、像はいつも若い男性として作られた」というからオカシイ。【第4章】　儀式と信仰

Ⅶ．033《アメリカ先住民のパイプ（かわうそ）》紀元前200－後100年　アメリカ　オハイオ州：　アフリカで誕生した人類は、オセアニア大陸に拡散したのち、陸続きになっていたベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸に達した。人間がたばこを吸うという悪習は、このようにアメリカ大陸で生まれた。Ⅷ．035《ミトラス神像》100－200年　イタリア　ローマ：　ミトラス教（Mithraism）は、古代ローマで隆盛した、太陽神ミトラスを主神とする密儀宗教で、現在では消滅している。このミトラス神は雄牛を刺し、流れ出る血を犬と蛇が吸っている。雄牛の腹の下にはサソリがいる。雄牛を殺すという行為は、光と生命の再生を意味しているという。Ⅸ．037《ササン朝ペルシャの王を表した皿》309－379年　イラン：　ササン朝ペルシャは「ゾロアスター教」を信奉していた。この銀皿は王の狩りの場面を表しているようだ。Ⅹ．039《ガンダーラの仏像》　100－300年　パキスタン　ガンダーラ：　ガンダーラでは、それまでは偶像崇拝として禁じられていた仏陀の偶像を、ヘレニズム文明の影響を受けた仏像として制作した。ⅩⅠ．041《預言者ヨナを表した石棺》260－300年頃　おそらくイタリア：　瓢箪の蔓の下で横臥しているのはこの棺に納められる男性で、ヨナという名前なのだろう。左側の3人の水夫が、近づく嵐に備えて帆を巻き上げている。波立つ荒海から、鯨のような海獣が近づいてくる。右下部では、海獣がヨナを陸地に向かって吐き出している。左上隅の子羊はキリスト教的な像である。画の両側は溝のある壁柱で囲まれている。【第5章　広がる世界】

ⅩⅡ．052《モチェ文化の壺（戦士）》100－700年　ペルー：　跪く戦士の形をして彩色陶器。手に棍棒と盾を持っている。モチェ文化とはインカ文明に先行する「プレ・インカ文化」である。
【弟6章　技術と芸術の革新】

ⅩⅢ．060《聖エスタキウスの聖遺物容器》スイス　1210年頃：　表面は金で覆われ、頭飾りには古代ローマのアンティーク宝石も入っている。箱の中に納められるのは、聖人の衣服や骨など。ⅩⅣ．062《ルイス島のチェス駒》1150－1200年：　このチェス駒は、ノルウェーのトロンヘイムという町で、セイウチの骨やクジラの歯から作られた。ルイス島は、トロンヘイムとダブリンを結ぶ中継基地だった。古代インドに起源を持つチェスの駒は象・馬車・戦車・歩兵の4種類だったが、ヨーロッパに入ってキング・クイーン・ルーク・ビショップ・ナイト・ボーンの6種類となった。ⅩⅤ．064《イフェの頭像》1300～1400年初期　ナイジェリア・イフェ：　高度な技術と優れた芸術性でヨーロッパの人を驚かせた真鍮の像。これによって、アフリカ文化への認識が一変した。ⅩⅥ．068《ヘブライ語が書かれたアストロラーベ》1345－1355年 おそらくスペイン：　スペインでは、キリスト教、ユダヤ教、イスラーム教が共存しており、それらの交流で数学と科学が進歩した。そこで作られた「アストラーペ」は、時刻や天体の動きが分かり、計算もできるというスグレモノだった。【弟7章　大航海時代と新たな出会い】

ⅩⅦ．073《柿右衛門の象》1650－1700年：　ヨーロッパへの輸出用に作られた派手な柿右衛門の磁器。ⅩⅧ．084《ハワイの冑》1700－1790年　アメリカ　ハワイ諸島：　イギリスの探検家・クックは未知の太平洋の航海に出て、3度目の航海で立ち寄ったハワイで、沢山の羽根で飾られた冑を贈られた。ⅩⅨ．087《ビーグル号のクロノメーター》1795－1805年 イギリス：　精密な経度測定用の航海用時計。マホガニーの箱に収納されている。【弟8章　工業化と大量生産が変えた世界】

ⅩⅩ．097《銃器で作られた「母」像》モザンピーク　2011年：　アフリカのモザンピークでは、内戦後700万以上の銃が残された。再び銃が使われることのないようにとの願いを込めて、武器から平和の象徴が製作された。
美術散歩　管理人　とら