このたび中村屋の新宿本店ビルの建て替えに伴い、その3Fに美術館が開設された。これはその開館記念展である。
中村屋の創業者である相馬愛蔵・黒光夫妻が援助した芸術家・文化人のサロンが形成されたことはよく知られている。
今回は、この「中村屋サロン」に集まった荻原守衛・中村彝・會津八一などの芸術家の作品を集めた展示である。
ここでは、展示順・作家別に主な作品の画像をアップしておくこととする。
１．荻原守衛：
・《坑夫》1954年鋳造
・《女》1978年鋳造
２．長尾杢太郎《亀戸風景》： 黒光の嫁入り道具で安曇野に新築した相馬家の洋館に飾られていたが、当時18歳の荻原守衛がこれを見て感銘を受け、画の道に進むことになった。
３．戸張孤雁《虚無》1920年
４．柳 敬助《自画像》1910年
５．中村不折《始制文字の下図》
６．高村光太郎《自画像》1913年
７．斎藤与里《法々華経》1909年
８．中村彝
・《麦藁帽子の自画像》1911年
・《小女》1914年
・《牛乳瓶のある静物》c.1012年
９．鶴田吾郎《盲目のエロシェンコ》1920年
１０．中村悌二郎《若きカフカス人》1919年
１１．保田龍門《裸婦立像》1927年
１２．堀 進二《中村彝氏像》
１３．山本安曇《盤》1932年
１４．會津八一《林下十年夢・湖邊一笑新》1949年
今回の展覧会は、2009年1月に東京国立近代美術館で見た特集展示「
新宿中村屋につどった人々－大正時代の芸術サロン」と類似のものだったので、その
ブログ記事を引用しておく。
4F特集コーナーに、中村彝《エロシェンコ氏の肖像》（1920年、重文）と鶴田吾郎《盲目のエロシェンコ》（1920年、株式会社中村屋蔵）が並んで展示されている。前者はしばしば見るが、後者を見るのは初めてである。まして二人の画家が一緒に描いた2点の作品がともに並ぶ機会は次にいつになるか分からない。このことを知って、急いで近美に出かけた。
許可を得て室内の様子を撮影した写真で分かるように、鶴田吾郎の作品のほうがかなり大きい。正確な大きさが分からないが、大体の感じで2枚の画像を並べてみた。
ロシアの盲目の詩人・音楽家のワシーリイ・エロシェンコは鍼灸師をめざして来日し、中村彝が出た後のアトリエに住んでいたとのことであるが、これは偶然で、実際には鶴田吾郎が目白駅でスカウトして下落合の中村のアトリエに連れてきたもので、エロシェンコは8日間このアトリエに通ったという。
中村の作品ではエロシェンコの顔付きが柔和で、鶴田のほうが厳しく野生的である。詳細に両者を比較すると、椅子の背とモデルの頭の位置がかなり違っており、また中村の作品には鶴田のほうにはないアンダーウェアが描かれている。両者は同時に描かれたとされているが、この差はどうしたことなのだろうか。
パネルには新宿の中村屋の相馬愛蔵・黒光夫妻の周りに集った人々に関する詳しい説明が書かれていた。 夫妻が安曇野にいた頃に知り合った萩原守衛は、1908年にパリから帰国した後、夫妻のそばで制作するとともに、黒光を助けて働いた。戸張孤雁、中原悌二郎、中村彝らが中村屋を訪れるようになったのは守衛を慕って来たのである。この守衛が1910年に急逝するが、その時のことを黒光が「黙移」で「アトリエに孤雁と連れ立って入っていくと、絶作となった《女》がまだ土のままで彫刻台の上に立っていた。それは単に土の作品でなく、私自身だと直感するものがありました。」と述べている。 萩原守衛を偲んで集まった人々の写真がパネルとして出ていたが、それをみると前列左の黒光がカメラのほうを見ずに、ただ一人横を向いて泣いているのが分かる。
上記の《女》はギャラリーを入ったすぐのスペースに展示されており、このコーナーには、中村彝の《自画像》や中村屋の長女をモデルにした《小女》も出ていた。後者は確か「日展100年展」でも見ており、乳房を露わにした別の《少女》は「常設展＠横須賀美術館」で見たことがある。中村彝も黒光に惹かれていたようだが、次第に夫妻の長女・俊子を愛するようになる。結婚を望むが許されなかった中村彝は、中村屋を出て行くことになる。この騒動の最中に中村彝が伊豆大島で描いたセザンヌ風の《大島風景》も展示されていた。
さらに、萩原守衛、戸張孤雁、中原悌二郎のブロンズ、中村彝のアトリエの先住者である柳敬助が富本憲吉を描いた 《白シャツの男》、さらに相馬黒光の話をまとめた「黙移」には黒光と俊子がサリーを着て並んでいる写真が載っており、中村彝の書いた 「芸術の無限感：感想及書簡集」も出ていた。
美術散歩 管理人 とら
