1951年に米国に接収された戦争記録画153点が、「無期限貸与」という形で日本に返還され、東京国立近代美術館が保管しているが、そのすべてが公開されることはなかった。その理由は、① 第二次大戦で被害を受けた近隣諸国に配慮したこと、② 修復すべき作品があったこと、③ 著作権者の許諾が得られない作品があったことの3点だった(参照:
「さまよえる戦争画」再考)。

最近、東京国立近代美術館に行ってみると、③以外のものは全点公開されたという掲示↑が出ていた(公開されたものの総数は明らかにされていない)。
しかし、「所蔵作品展」ないし「MOMATコレクション展」を、何年間にもわたって、展示換え毎に見に行ける人は皆無なのではなかろうか。
だとすると、「全点公開」という美術館側の主張と「全点鑑賞」という鑑賞者側の希望とは、著しく乖離している可能性がある。
そこで、2006‐2013年の8年間に訪れた17回の展覧会のブログ記事を調べてみると、実見しえた「戦争画」の数は38点に過ぎないことが分かった。
これは、①「特別展」での戦争記録画の展示数は一回4~6点、通常の「所蔵作品展」では一回2~3点に限られており、「MOMATコレクション展」と名称が変更されてからも、一回に3~6点しか展示されていないことと、②同じ作品が繰り返し展示されていることという二つの理由による。
このような経験から考えると、戦争記録画の全153点に対面することは至難のわざのようである。この際、著作権者の許諾が得られないもの以外の戦争記録画を一挙公開する展覧会を東京国立近代美術館で開催してもらいたいと思う。
【資料1】 実見した戦争記録画
・藤田嗣治《サイパン島同胞臣節を全うす》 実見5回
・藤田嗣治《アッツ島玉砕》 実見3回
・藤田嗣治《血戦ガダルカナル》 実見3回
・藤田嗣治《シンガポール最後の日(ブキ・テマ高地)》 実見2回
・藤田嗣治《神兵の救出到る》
・藤田嗣治《武漢進撃》
・藤田嗣治《哈爾哈(ハルハ)河畔之戦闘》
・藤田嗣治《十二月八日の真珠湾》
・藤田嗣治《薫空挺隊敵陣に強行着陸奮戦す》
・藤田嗣治《ソロモン海域に於ける米兵の末路》
・小磯良平《娘子関を征く》 実見3回
・岩田専太郎《小休止》 実見2回
・川端龍子《輸送船団海南島出発》 実見2回
・清水登之《工兵隊架橋作業》 実見2回
・鶴田吾郎《神兵パレンパンに降下す》 実見2回
・宮本三郎《山下、パーシバル両司令官会見図》 実見2回
・中村研一《プリンス・オブ・ウェールズの轟沈》
・中村研一《マレー沖海戦》
・中村研一《北九州上空野辺軍曹機の体当りB-29二機を撃墜》
・伊原宇三郎《島田戦車部隊スリムの敵陣突破》
・伊原宇三郎《特攻隊 内地基地を進発す》
・石川寅治《渡洋爆撃》
・茨木杉風《潜水艦の出撃》
・太田喜二郎《陸軍記念日に》
・小川原脩《アッツ島爆撃》
・佐藤敬《クラークフィールド攻撃》
・清水良雄《ルンガ沖夜戦》
・鈴木誠《皇土防衛の軍民防空陣》
・田上隼雄《古賀提督像》
・田村孝之介《佐野部隊長還らざる大野挺身隊と訣別す》
・中山巍《神兵奮戦之図(落下傘部隊パレンバン精油所攻撃)》
・硲伊之助(三彩亭)《臨安攻略》
・橋本八百二《サイパン島大津部隊の奮戦》
・福沢一郎《船舶兵基地出発》
・福田豊四郎《英領ボルネオを衝く》
・三輪晁勢《ツラギ夜襲戦》
・御厨純一《ニューギニア沖東方敵機動部隊急襲》
・矢沢弦月《攻略直後のシンガポール軍港》
【資料2】 戦争記録画を実見した展覧会
17. MOMATコレクション展 2013-11
・藤田嗣治《アッツ島玉砕》 画像なし。再見
・藤田嗣治《サイパン島同胞臣節を全うす》 画像なし。再見
・川端龍子《輸送船団海南島出発》 画像あり。再見
・御厨純一《ニューギニア沖東方敵機動部隊急襲》 画像あり
・鈴木誠《皇土防衛の軍民防空陣》 画像あり
16. MOMATコレクション展 2013-09
・藤田嗣治《シンガポール最後の日(ブキ・テマ高地)》画像あり。再見
・石川寅治《渡洋爆撃》 画像あり
・小川原脩《アッツ島爆撃》 画像あり
15. 美術にぶるっ! 2012-10
・藤田嗣治《アッツ島玉砕》 画像あり。再見
・藤田嗣治《サイパン島同胞臣節を全うす》 画像あり。再見
・小磯良平《娘子関を征く》 画像あり。再見
・宮本三郎《山下、パーシバル両司令官会見図》 画像あり。再見
・鶴田吾郎《神兵パレンパンに降下す》 画像あり。 再見
・福田豊四郎《英領ボルネオを衝く》 画像あり
14.所蔵作品展 2012-07
・藤田嗣治《ソロモン海域に於ける米兵の末路》 画像あり
・橋本八百二《サイパン島大津部隊の奮戦》 画像あり
13.所蔵作品展 2010-06
・藤田嗣治《サイパン島同胞臣節を全うす》 画像あり。再見
・宮本三郎《山下、パーシバル両司令官会見図》 画像あり
12.所蔵作品展 2009-08
・藤田嗣治《血戦ガダルカナル》 画像あり。再見
・清水登之《工兵隊架橋作業》 画像あり。再見
・中村研一《北九州上空野辺軍曹機の体当りB-29二機を撃墜》 画像あり
11.所蔵作品展 2009-01
・鶴田吾郎《神兵パレンバンに降下す》 画像あり
・中村研一《マレー沖海戦》 画像あり
10.所蔵作品展 2008-06
・藤田嗣治《薫(かおる)空挺隊敵陣に強行着陸奮戦す》 画像あり
・岩田専太郎《小休止》 画像あり。再見
・矢沢弦月《攻略直後のシンガポール軍港》 画像あり
9.所蔵作品展 2008-01
・藤田嗣治の《サイパン島同胞臣節を全うす》 画像あり。再見
・三輪晁勢《ツラギ夜襲戦》 画像あり
8.所蔵作品展 2007-11
・藤田嗣治《十二月八日の真珠湾》 画像あり
・清水登之《工兵隊架橋作業》 画像あり
・中山巍《神兵奮戦之図(落下傘部隊パレンバン精油所攻撃)》 画像あり
7.所蔵作品展 2007-09-08
・藤田嗣治《哈爾哈(ハルハ)河畔之戦闘》 画像あり
・中村研一《プリンス・オブ・ウェールズの轟沈》 画像あり
6.所蔵作品展 2007-07
・福沢一郎《船舶兵基地出発》 画像あり
・太田喜二郎《陸軍記念日に》 画像なし
・硲伊之助(三彩亭)《臨安攻略》 画像なし
5.所蔵作品展 2007-03
・藤田嗣治《武漢進撃》 画像あり
・伊原宇三郎《特攻隊 内地基地を進発す》 画像あり
・岩田専太郎《小休止》 画像あり
4.所蔵作品展 2007-02
・茨木杉風《潜水艦の出撃》 画像あり
・田上隼雄《古賀提督像》 画像あり
3.所蔵作品展 2006-12
・川端龍子《輸送船団海南島出発》 画像あり
・伊原宇三郎《島田戦車部隊スリムの敵陣突破》 画像なし
・田村孝之介《佐野部隊長還らざる大野挺身隊と訣別す》 画像なし
2.モダン・パラダイス 2006-08
・藤田嗣治《血戦ガダルカナル》 画像なし。再見
・小磯良平《娘子関を征く》 画像あり
・佐藤敬《クラークフィールド攻撃》 画像なし
・清水良雄《ルンガ沖夜戦》 画像なし
1.藤田嗣治展 2006-04
・藤田嗣治《シンガポール最後の日(ブキ・テマ高地)》 画像なし
・藤田嗣治《アッツ島玉砕》 画像なし
・藤田嗣治《神兵の救出到る》 画像なし
・藤田嗣治《血戦ガダルカナル》 画像なし
・藤田嗣治《サイパン島同胞臣節を全うす》画像なし
【資料3】 永久貸与戦争記録画: 14点の
藤田嗣治作品リスト
【資料4】 永久貸与戦争記録画: 132点の
戦争美術展別一覧
美術散歩 管理人 とら