描かれた風景ー憧れの真景・実景への関心 ＠東京国立博物館

　東洋館で「北京博物館　中国絵画の至宝」の後期を見てから、本館2階の特別室2つを使って開かれているこの企画展示に回った。　これは、松島、熊野、富士山などのわが国の名所絵であるが、江戸時代の日本の画家たちが強く憧れながら、見ることの叶わなかった中国の西湖や瀟湘八景に対応する作品たちも含まれており、「上海博物館　中国絵画の至宝」に呼応する好企画だった。

　日本の風景画は、古くは歌枕の名所として、実際の景観とは異なるイメージで描かれることが多かったが、江戸時代になると、実景に対する関心が高まり、画家自身の旅行体験をもとに風景が描かれるようになった。

　その際の構図や描法は、中国や西洋の影響を受けており、新たな画材や技法も入手可能となってきていた。

　特別1室では下記の第1章・第2章が、特別2室では第3‐7章の作品が陳列されていた。

第1章　中国憧憬‐重ねられたイメージ

◎池大雅《陸奥奇勝図巻》九博蔵：　松島の一帯が濃淡の墨と淡彩で描かれており、全体として幽玄で雄大な景観となっている。・桑山玉洲《和歌浦図巻》個人蔵：　万葉以来の歌枕が、大雅からの影響を受けた明るい色彩と柔らかな筆致で描かれている。

・姜実節《江南山水図巻》清時代・康熙30年(1691)：　渇いた筆致で西湖を描いている。中国・明代の作品。

・池大雅《浅間山真景図》　個人蔵：　右端に浅間山の山頂が描かれ、そこから遠くに富士山や筑波山までみえる風景。・伝祇園南海《山水図巻》：　和歌山から那智の滝へ向かう熊野古道を描いたもの。淡彩が美しい。

◎青木木米《兎道朝暾図》：中央に宇治川、右に平等院鳳凰堂、左に宇治橋を配した鮮やかな淡彩と渇筆で描かれた文人画。
・池大雅《那智濺瀑図》：　淡彩とやわらかなな墨で瀧周辺の湿潤な空気まで感じさせる。

・谷文晁《那智真景図》個人蔵：　「真景図」という表現が用いられた最初の作品。瀧の流れ落ちる勢いが表現されている。

・桑山玉洲《熊野奇勝図巻》個人蔵：　色彩の美しさが感じられる・

◎田能村竹田《船窓小戯帖》個人蔵：　繊細な筆致が見事。

・金井烏洲《月ヶ瀬探梅図巻　巻下》：　見事な淡彩とうねるような画面構成。

・木下逸雲《耶馬溪図巻》：　粗い筆致の水墨画。


第2章　近世の名所絵の形

◎長沢芦雪《宮島八景図》文化庁蔵：　余白を生かし、にじみやぼかしを使った淡彩を加えた水墨表現は見事。
第3章　朝鮮絵画との関連性－東アジア絵画圏での影響関係

・鄭敾他《韓画帖》朝鮮時代・18～19世紀：　濃淡の墨で描いた詩書画2点。いずれも正面性の強い構図である。

・谷文晁《彦山真景図》：　ダイナミックな烏文晁。正面性が強い点は朝鮮絵画との関連が考えられるとのこと。・呉歴款《洛山十勝図冊》朝鮮時代・18世紀　個人蔵：　真景山水画。構図が文晁の《彦山真景図》や《公余探勝図》に似ている。

第4章　実景表現の諸相‐新たな視覚の獲得

・狩野晴川院養信《武州金沢図》：　色彩の美しい名所絵。

・沖一峨《因州侯庭園図》：　鳥取藩の下屋敷から品川方面を望む実景。

◎谷文晁《公余探勝図巻　巻上》：　松平定信の相模伊豆巡検に随行した文晁が描いた風景図が20点も出ていたので、すべての写真を撮った。↓はその一部である。　各図はそれぞれ2枚を継ないでいるが、《石廊崎図》だけは4紙を継いでいる。本図は海防制政策を前提にしていたものだが、藍色の濃淡を用いた空や、淡墨や浅墨の陰影をほどこした山並みの描写、遠近を強調した画面は素晴らしい。（参照）

・谷文晁《相州名勝図帖》：　鎌倉方面に宝物調査に行った時の風景スケッチを絹本にうつしたもの。

・谷文晁《戸山荘図巻稿本》：　尾張徳川家の庭園図。

◎亜欧堂田善《浅間山図屏風》：　青空を背景にして噴煙を上げる淡褐色の浅間山。本作品は谷文晁の「名山図譜」の浅間山の図をもとに制作された油彩の屏風。　これは再見である。

・谷文晁《名山図譜》：　谷文晁展以来の再見。

・安田雷洲他《群芳献瑞帖》個人蔵：　奇怪な表現の風景画。

・司馬江漢《両国橋図》個人蔵：　眼鏡絵。左右を反転して描いている。

第5章　描かれた富士

・中林竹洞《神洲奇観》個人蔵：　これは上手い写実画。・宋紫石《富士山図》：　ちょっと不思議な構図。

・広瀬台山《日金山頂望富嶽図》：　パノラマ画。

・司馬江漢《総州利根河今井渡》個人蔵：　洋風画に感覚の絹本淡彩の風景画。

第6章　出版物の影響‐土地を描く画家・淵上旭江

・淵上旭江《山水奇観 （山陽、南海、北陸）》 / 歌川広重《六十余州名所図会（備後 阿武門観音堂、伊豫 西條、越中 富山船橋、美作 山伏谷）》：　淵上旭江が描いた画稿である《山水奇観》を基にして 歌川広重が浮世絵《六十余州名所図会》を描いた。第7章　旅日記

・司馬江漢《江漢西遊日記》：　スケッチ。

○渡辺崋山《毛武游記》個人蔵：　スケッチ。

　時代による表現の差を勉強するとともに、いろいろな土地の風景をエンジョイできる楽しい企画だった。

美術散歩　管理人　とら