東博の浮世絵コレクションは、今まで季節のテーマを取り上げて展示換えを行ってきているが、このやり方は多少マンネリにになってきていた。
そこで今回からは浮世絵師ごとの展示を行うようにしたとのことである。
まず第一回は
春信(8月20日から9月16日)、第二回は
清長(9月18日から10月14日)、第三回は広重。
春信展はこの連休で終了とのコメントを頂いたので、残暑厳しき中を西美のミケランジェロ展の後でハシゴしてきた。
今回の展示は、下記の34図。見どころ、《見立菊慈童》↓であるが、《
雨夜の宮詣》などは今回出ていない。東博の春信コレクションの全貌を一挙公開する展覧会をぜひ考えてもらいたい。
• 重美 見立菊慈童 鈴木春信筆 A-10569-73 横中判:
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魏の文帝の頃、麗縣山の麓より不思議な水が湧き出しているので、勅命を受けて、勅使が山に分け入って水源を探す。辿り着いた所は、菊の花の咲き乱れる仙境で、そこに住む美しい少年は七百年もの間老いることもなく生き続けていた。少年は法華経の経文を菊の葉に書き付け、菊に宿った露が不老不死の霊水となって流れ出たとのこと。
春信の画では少年は少女になっており、背景に使われた紅花の色が比較的良く残っている。
• 明霞名所渡、初代市村亀蔵の京の二郎と二代目瀬川菊之丞のミたれかミおせん 鈴木春信筆 宝暦11年(1761) A-10569-1235 横大判 紅摺絵:
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春信の役者絵は紅摺絵初期に描かれた約30点のみとのこと。
• 官女玉虫 鈴木春信筆 A-10569-158 大判 紅摺絵: 屋島の戦において、玉虫は舟の舳に立っており、那須与一が打ち落した扇は空中を舞っている。
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• 小野道風 鈴木春信筆 A-10569-1234 細判 紅摺絵 : やっと柳の枝に飛びついた蛙を見て、道風は発奮。
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• 風流やつし七小町・関でら 鈴木春信筆 A-10569-87 細判 紅摺絵: 山の庵に住む百歳を超えた老小町が寺の稚児に連れられて七夕祭に行くというくだりを、山里に住む母子の姿に見立てている。
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• 風流やつし七小町・雨こい 鈴木春信筆 A-10569-88 細判 紅摺絵: 小町が雨乞の和歌を書きつけた短冊を流すと、一天俄かにかき曇り、恵みの雨が降り始めた。

• 見立七小町・関寺小町 鈴木春信筆 A-10569-96 中判 錦絵: 前記の紅摺絵と同一主題だが、多色摺の威力は明らか。

• 見立七小町・雨乞小町 鈴木春信筆 A-10569-97 中判 錦絵: これも前記の紅摺絵と同一主題だが、多色摺の威力は明らか。

• 恋の矢文 鈴木春信筆 A-10569-112 中判 錦絵: 東博の《恋の矢文》(↓右)は屋島の戦いにおける「那須与一」の見立て。この絵には「茄子」=「那須」が実っており、弓矢は蓑笠つけた「案山子」から借用したもの。男の横の入れ物には、商売物の扇地紙が沢山入っているのだろう。
扇を持った《見立官女 玉虫》(↓左)はボストン美術館に所蔵されている《Parody of Lady Tamamusi at the Battle of Yashima》で、東博の《恋の矢文》の対作品である。(
参照)。
題名からすると、この矢に付いている矢文はラブレター。
「鬼山御前」と名前を変えて、熊本八代の五家荘の岩奥という所に隠れ住んでいた官女・玉虫御前は、平家追討に現れた源氏方の「那須小太郎宗治」(那須与一の息子)を引きとめて、夫婦になったという伝説も残っているとのこと。
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• 舟遊二美人と男 鈴木春信筆 A-10569-78 中判 錦絵

• 笛を吹く若衆 鈴木春信筆 A-10569-117 中判 錦絵

• 寂蓮法師 鈴木春信筆 A-10569-130 中判 錦絵: 「さびしさは その色としも なかりけり まき立つ山の 秋の夕暮」 (新古今和歌集)

• 柿本人磨 鈴木春信筆 A-10569-1298 中判 錦絵

• 清原元輔 鈴木春信筆 A-10569-1299 中判 錦絵

• 風流六哥仙・僧正遍照 鈴木春信筆 A-10569-131 中判 錦絵: 雲形には「はちす葉の にごりにそまぬ 心もて なにかは露を 玉とあざむく」(古今和歌集)。石の太鼓橋の上からハスの花を眺めている奥女中らしき女性が2人。
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• 風流うたい八景・弦上の夜雨 鈴木春信筆 A-10569-149 細判 錦絵

• 茄子を取る男女 鈴木春信筆 A-10569-1292 中判 錦絵

• 見立山吹の里 鈴木春信筆 A-10569-1278 中判 錦絵: 「急な雨に あってしまった。蓑を貸してもらえぬか」と頼んだ太田道灌に「七重八重 花は咲けども 山吹の 実の(蓑)一つだに 無きぞかなしき」と答えている娘。
春信は、山吹の季節に合わせた初夏の花、菖蒲の模様をあしらった当世風の着物を着た娘として描いている。縄暖簾を掻き分け、黒雲から延びる斜線で表された雨を避けるように、娘は店の敷居をまたいで立っている。

• 見立反魂香 鈴木春信筆 A-10569-1288 中判 錦絵: 漢の武帝が死んだ李夫人を想いながら香を焚いたところ、煙の中に夫人の姿が見えたという香が「反魂香」と呼ばれている。
春信の絵では、女性が燃やした手紙の煙の中に送り主の男性が出現している。

• 見立邯鄲の夢 鈴木春信筆 A-10569-1291 中判 錦絵: 「邯鄲」とは、中国の戦国時代の趙の都市。 盧生という貧しい若者が、邯鄲で呂扇という道士から不思議な枕を借りて一眠りしたときに、紆余曲折を経て立身出世を極めるという体験をした。これはごく短い間の夢にすぎなかったという伝説。
この絵では、花街の女性が武家の奥方ととして迎えられる夢を見ている。短い夢でも良い夢は見ないよりマシ。

• 鍵屋お仙 鈴木春信筆 A-10569-385 柱絵判 錦絵: 笠森 お仙おせんは、江戸谷中の笠森稲荷門前の水茶屋「鍵屋」で働いていた看板娘。
極端に細い柱絵は、庶民の住む安普請の住まいの節だらけ柱を隠すために使われた。

• 見立小野道風 鈴木春信筆 A-10569-1282 中判 錦絵:
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前記の紅摺絵《小野道風》では(拡大部分図=↓左)、人物は小野道風本人、蛙は葉の伸びたしだれ柳に向かって飛び上がっているが、この錦絵《見立小野道風》では(拡大部分図=↓右)、小野道風に見立てられた人物は女性、柳は芽吹いたばかりで、蛙も見上げているだけ。理想主義の男は困難に挑戦するが、現実主義の女は無理なものは無理と諦めるというパロディー。

• 屋根舟に乗込む美人 鈴木春信筆 A-10569-105 中判 錦絵

• 風俗四季哥仙・卯月 鈴木春信筆 A-10569-135 中判 錦絵: 「人もとへ 咲けや卯月の 花さかり こてふに似たる 宿の垣ねを」 。虚無僧姿の若衆をみつめる女たち、川のせせらぎ、花の垣根、ホトトギスに注目。「こてう」は、「胡蝶」と「来いと言う」を掛けているのだろうか。

• 風俗四季哥仙・神楽月 鈴木春信筆 A-10569-1269 中判 錦絵: 「杉たてる 門はなけれと 里かくら 是や宮井の はしめなるらん」。宮詣りの情景。

• 風流江戸八景・両国橋夕照 鈴木春信筆 A-10569-1256 中判 錦絵:
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• 擣衣玉河 相模 鈴木春信筆 A-10569-1261 中判 錦絵

• 調布のたま川 武蔵 鈴木春信筆 A-10569-1262 中判 錦絵

• 浮世美人花見立・てうしや内てう山、花王 鈴木春信筆 A-10569-137 中判 錦絵:
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• 浮世美人寄花・山しろや内はついと,萩 鈴木春信筆 A-10569-1258 中判 錦絵: 掛け軸に描かれている猿が美しい遊女に恋して、長い手を絵から差出して遊女に文を渡そうとしている。萩模様の打掛を着た「はついと」は、禿の帯を締めながら、これを不思議そうに横目で見ている。

• 笠森お仙と団扇売 鈴木春信筆 A-10569-142 中判 錦絵: 絵の背景には赤い鳥居。笠森お仙は当代一の人気歌舞伎役者瀬川菊之丞の定紋が描かれている団扇を手にしている。

• 若衆に笠を手渡す鍵屋お仙 鈴木春信筆 A-10569-141 中判 錦絵: こちらも笠森お仙。「笠」がダブルに登場している。

• 風流江戸八景・浅草晴嵐 鈴木春信筆 A-10569-1255 中判 錦絵 : 浅草観世音境内の楊枝屋「本柳屋」の店先には、笠森お仙と妍を競った美人「お藤」。「本柳屋」は銀杏の樹の下にあり、お藤は「銀杏娘」と呼ばれていたが、この絵には銀杏のの葉が描きこまれている。
「浅草晴嵐」というタイトルと「雪はらふ あらしにつみも あさくさに 世わたる人も むれつゝぞよる」という雲形の歌のは、「お藤」を目指して嵐のように集まった浅草の男たちを表している。

• 柳屋見世 鈴木春信筆 A-10569-1247 中判 錦絵 : こちらも柳屋お藤。
美術散歩 管理人 とら