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福田美蘭は、安井賞の最年少受賞者、大原美術館の有隣荘特別公開展の初回展示者という華々しい経歴を有している画家である。
しかし、美蘭の作品を見たのはBunkamura で開かれた「奇想の王国 だまし絵展」の《壁面5°の拡がり》が初めてだった(画像はこちら)。額縁の左側を少し厚くしてあって、画面が途中で白い壁面に吸い込まれてしまっているという面白い作品だった。 同じ展覧会にグラフィックデザイナー・福田繁雄《Sample》の正面から観ると天使、側面はSAMPLEという文字というトリッキーな作品が出ていた。父親の福田繁雄は「日本のエッシャー」とも称されており、その遺伝子は娘・美蘭に十分に引き継がれているようだった。 まずは、現在は「ルーブル 地中海400年展」が開かれているロビー階(地下1F)で受付を済ませ、エスカレーターで地下2FのギャラリーCに向かい。左側の部屋で第Ⅰ章「日本への眼差し」を、次いで右側の部屋で第Ⅱ章「現実への眼差し」を見るようになっている。 次いで再びエスカレーターで地下3Fに下り、ギャラリーBで第Ⅲ章「西洋への眼差し」を、ギャラリーAで「今日を生きる眼差し」を見ることになっている。 以下は章別に書いていくこととする。 まずは第Ⅰ章「日本への眼差し」の部屋へ。入口に立派な《胡蝶蘭》があった。後で気づいたのだが、これも作品、すなわち生花ではなく造花なのだった。道理で、花の数が異常に多かった。 部屋に入ると、すぐに目についたのは右手の《銭湯の背景画》。見慣れた富士山と湖の画だが、よく見ると沢山の企業ロゴマークが入っている。探してみると、JTB、WARNER MUSIC、HMV、マツモトキヨシ、Kleenex、PIZZA-LA、すかいらーく、NOVA、NTT、リポビタンD、Asahi, FUJIFILMなどが見つかった。 左手のケースに展示されている三幅対の左幅《水墨山水》には雪の富士山の下に白雪姫の涅槃図が描き込まれ、中幅《旭日静波》の太陽としては赤い♡が、右幅の《遊鯉》には死んで腹を見せている鯉が一匹描かれている(写真)。このように日本の絵画の伝統を意図的に逸脱させた作品は、福田美蘭の日本画の一流の技量に裏打ちされているのだから驚く。 中央のケースの中には《つまみ簪(地球儀)》という面白い作品があった(↓2)。「つまみ」とは羽二重の絹を三角形につまんで髪飾りとして利用されている伝統的な手芸であるが、福田はこの方法で地球儀を造ったのである。とても器用なアーティスト。 《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》(↑7)は、北斎の代表作を左右反転したもの。現代の画像処理操作への皮肉な眼差しである。 作品を見て、それを拡張した作品を想像で新たに創造していくというテクニックを使った作品がいくつか出ていた。《鑑賞石・山水画》では、観賞用の岩石を見て、それを中心にした東洋の山水画のイメージに拡張しており、《湖畔》(写真)では、黒田清輝の有名な《湖畔》のカラーコピーの上部や右部に拡張したイメージを追加している。 大原美術館の有隣荘特別公開展に出品されていた《安井曽太郎と孫》を見ることができた(画像)。安井曽太郎が大原美術館所蔵の《孫》を描いている場面の想像図である。《雪舟『山水図』》には、大原美術館や有隣荘が描き込まれていた。この2点はもちろん大原美術館蔵。 続いて第Ⅱ章「現実への眼差し」へ。 《メトロカード》は地下鉄サリン事件の報道写真をカードに組み込んだもの。救急隊員にホームで応急処置をうける被害者、ホームを洗浄するマスクを着用した自衛隊員、そしてオウム真理教幹部で殺された村井秀夫の肖像写真の3点が出ていたので驚いた。こういった社会性のある問題をアーティストがどのように取り上げ、どのように公表していくかについてはいろいろ考えさせられる点が多い。 《道頓堀》2001年、群馬県立近代美術館蔵は、蝶番でつないだ二枚のパネルの上半部に電飾看板の道頓堀風景を描き、そのアクリル絵具が乾かないうちに下のパネルを上に重ねて絵具を下に転写したもの。月が水面に転写されていないことがチョット気になった。 《ニューヨークの星》2002年、広島現代美術館蔵は、ニューヨークの夜景。ツインタワーの光の部分は下地の板ごと抜かれて、空の星すなわち希望の星となっている。豊かな想像力に感服した。 《ブッシュ大統領に話しかけるキリスト》2002年、新潟県立近代美術館・万代島美術館蔵(画像)は、前年9月11日の同時多発テロに対する報復行為を敢行しようとするブッシュ大統領を諌める光り輝くキリストの姿が描かれている。窓の外には崩れ落ちんとするWTCビル、黒煙、飛行機が描かれ、室内には廃墟の風景画が掛けられている。今回の展覧会で、もっとも記憶に残る印象深い作品だった。 《世界貿易センタービルの展望台》(↑5)は、以前に撮った写真から2008年に描いた作品。 余談だが、2001年9月11日のあの日、私はメキシコのカンクンに滞在しており、アメリカの空港がすべて閉鎖されたため、ロンドン周りで帰国したことが昨日のことのように思い出される。 《日本もクラスター爆弾を持っているらしい》2003年では、上部に御赤飯の包み紙が、下部には米英軍の空爆により炎上するバクダット市内の夜景。包み紙の南天の実がクラスター爆弾と結びついてしまったらしい。ちょっと考えすぎのような気がする作品だった。 《淡路島北淡町のハクモクレン》2004年、兵庫県立美術館蔵(画像)の中央には阪神淡路大震災時の報道写真。瓦礫の中に「この木を残しておいてやって下さい 宗和」と書かれたボール紙がビニールに包まれて枝に掛けられている。署名からみると書いたのは心優しきお茶人・和子さんなのだろう。実際の作品では、この報道写真の上部と左右に見事に花開いたハクモクレンが描かれている。失われた都市の記憶を呼び覚ます目的で描いたという。 《サイパンのバンザイ・クリフで黙礼する天皇、皇后両陛下》は、2005年6月28日に戦没者慰霊のためにサイパン島での報道写真をもとに描かれている。この画を見ていると、藤田嗣治の凄惨な戦争画《サイパン島同胞臣節を全うす》のイメージとが重なってきた。あまりにも重いテーマである。福田美蘭も両陛下の姿を描ききることがためらわれたらしく、その姿を白描に留めている。(実際の写真はこちらで拝見できる) 《噴火後の富士》は、噴火で崩れて二峯山となってしまった富士山。磐梯山の噴火後の変容と似た姿で描かれていた。咲き誇る桜の花と静かな湖水との対照が際立っている。 第Ⅲ章は、「西洋への眼差し」。 《卵を料理する老婆》は、ベラスケスの有名な厨房画を、方向によって異なる画像が見られるレンチキュラー板を使って、右から左に移動するにつれて、描画の開始・途中・完成の3段階を1枚の画の中に組み込んでいる。 《侍女ドーニャ・マリア・アウグスティーナから見た王女マルガリータ、ドウニャ・イザベル・ベラスコ、婦人マリア・バルボラ、矮人ニコラシート・ベルトゥサートと犬》1992年、高松市美術館蔵は、ベラスケスの有名な画を利用したものだが、なかなか面白いアイデアだと思った。第Ⅱ部に出ていた歌舞伎町で配られたという《ポケットティッシュー》にはこの作品が使われていたので、画家のお気に入り作品だったのではないかと想像した。 《黄金の雨に変身したジュピターを迎えるダナエ》の黄金はリプトンのティーバッグに変身しており、《マギの礼拝》の没薬はクリネックスのティッシューに変身していた。画は上手いが、このようなジョークはあまり感心しなかった。 双子のキリストを描いた《聖家族》やモナリザのモデルを描いた《ポーズの途中に休憩するモデル》(↑4)もユニークな発想であり、古典絵画の技量も十分である。 《絵画の洗浄》では、ルーベンスの三美神の一部を洗浄したら、下から「不思議の国のアリス」のキャラクターが出てきたというギャク。 《「最後の晩餐」の修復》は、画面の修復前と修復後の二枚組。修復前の画面の汚れを実際に消しゴムで消すと、修復後の作品が現れるという版画らしいが、よく分からなかった。消しゴムで半分だけ汚れを取った画面を含めた三枚組にすれば良かったのかもしれない。 《Pieta》ではキリストの死体の部分を、一旦切り抜き、その頭部を蝶番で先ほど切抜いてできた穴の上部に固定し、このキリストの死体を支柱として画を立たせてあった。 《冷蔵庫》(↓下段左)は、観客が扉を開ければ庫内に風景画が見られるようになっており、《開ける絵》(↓中段)は観客が開いて観られるようになった一種の屏風画であり、中央にキリスト、右に司教、左に皇帝を描いた《床に置く絵》(↓上段)は、靴のまま載っても良い一種の踏絵である。こういった観客参加型の作品はあまりぞっとしない。 最後の第Ⅳ章「今日を生きる眼差し」には、2010年以降の最新作が集められていた。 一つには、有名作品を時間的に三段階に分離して一つの画面に再構成した作品がいくつか出ていた、《聖ゲオルギウス》、《受胎告知》(↑↑2)、《アダムとイブ》がそれである。 もう一つには、東日本大震災関連の作品である。ストレスによって殻の途中で模様が変ってしまった《夏―震災後のアサリ》(↑↑6)や幼子を抱きあげている《秋―慈母観音》(↑↑1)などが印象的だった。 父の死の《供花》には、ゴッホの「薔薇」が、祖父の死の《涅槃図》には祖父が描いた童画が利用されていた。 最後に、この画家と関連が深い上野をテーマにした作品がまとまって出ていた。 例えば、東博の《紅白芙蓉図》をもじった同名の作品2012年である。東博の李迪の作品は何回も見ているが、これが酔芙蓉を描いたものであることは今回初めて知った。福田の作品では一日のうちに変化していく芙蓉の花の色彩が巧みに表現されていた。背景にはセピア色の上野公園の風景が描かれており、時間の経過も取り込んだ作品だった。 新しい都美の《ロゴマークを描く》という作品は稚拙であり、都美の設計者に対するオマージュ《バルコニーに立つ前川國男》は、キャプションが貼られた地下3Fからは見えず、地下2Fに戻ってきて初めて見ることができた。これらは今回の個展を開いてくれた都美に対するおもねりの感じられる作品で、現在の日本の現代美術作家の置かれた厳しい立場の反映であろうと理解することにした。 《2012年の雪月花》には、広重の「名所江戸百景」を利用して、その年の冬に植樹された「月の松」、その年に見られた金環日蝕、その年に開かれたロンドンオリンピックでの花束が描かれていた。これはアイデア賞。 チラシのメインビジュアルとなっている《アカンサス》(↑↑↑)は、奥に父親が撮った少女時代の自分の写真、中間に東京芸大とその徽章のアカンサス、前面に現在育てているアカンサスの株が描かれていた。時間の経過がレイヤーで表現されていた。 同時開催されている「ルーブル展 地中海物語」は二日間で5時間もかかってジックリと観たのだが、こちらの福田美蘭展は2時間で気楽に見ることができた。 まとめると、機知に富み、しっかりとした技量に裏打ちされた作品が並んでいたといえる。キャプションの作品説明が簡にして要を得た分かりやすいもので、とても良かった。作品リストの余白はメモで一杯になり、その結果、このブログ記事も長くなってしまった。 美術散歩 管理人 とら
by cardiacsurgery
| 2013-08-22 19:37
| 現代アート(国内)
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