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展覧会のサブタイトルは、“「大日本魚類画集」と博物画にみる魚たち”であり、英文タイトルは“Art Portfolio of Fishes by Bakufu Ohno”となっている。 チラシの裏面には、魚の木版画の画像がいくつか載っている。その一つの《イラ》という名前の魚は↓であるが、私自身は見たこともなければ食べたこともない。 その写真は上掲のチラシの版画《イラ》とソックリ賞。魚の体型や色彩は瓜二つである。しかしこの両者は異なっている。違うのは、片方が写真、もう一方が版画というだけではない。大野麥風の版画の「イラ」は泳いでいる。それも子連れである。海草や貝のようなものまで描かれているのである。 ということで、早速、この展覧会を見に行ってきた。そして、この展覧会が予想をはるかに超えた素晴らしいものであることを実感してきた。 展覧会の第1章は「本草学・博物学世界の魚類画」という導入部で、先人の魚類画がいくつも展示されていた。下記はその簡単なメモである。 ・栗元丹州(1756-1834): 奥医師、本草学者、『栗氏千蟲譜』・『栗氏魚譜』この中で面白かったのは、高木春山の《くろあんこう》↓と杉浦千里の《ゴシキエビ》↓↓である。 次の第2章「画家 大野麥風の船出」では、大野麥風が洋画(文展、白馬会、太平洋画会、光風会)から日本画(院展)に変ったこと、旅行好きで南洋諸島・山陰地方・会津地方の画を描いていること、小禽類、小動物、草花などの「愛らしきもの」を描いていることが紹介されていた。ここでは《秋晴(もず)》↓のような凡庸な作品が多かったが、《蕃女水浴》というゴーギャン風の日本画はなかなか味があると思った。 江戸時代に華を咲かせた浮世絵版画は、維新後次第に近代的な印刷技術に押されていき、大正期には山本鼎らの自画自彫自刻の創作版画の影響によって、版元・絵師・彫師・摺師の共同作業によるこの伝統的文化が失われていく中で、渡邊正三郎を版元とする「新版画」が一時的な光芒を放ったが、これも関東大震災以後その光を失った。ちなみに、2009年に江戸博で見た新版画展「よみがえる浮世絵」(ブログ記事)の図録を見ると、川瀬巴水の《増上寺の雪》では、主版用版木の他に8枚の色板を使用した「四十二度摺り」を行っていたと記されている。 その後、この伝統的な版元・絵師・彫師・摺師の共同作業が復活したのは、アメリカから一時帰国していた小圃千浦が、1929年、高見澤木版社を版元とし、8人の絵師、32人の彫師、40人の彫師を動員して、一画に対して「百五十度以上二百度摺り」というクレージーな試みに挑戦し、「世界風景創作版画 第一輯 加州三十景」を約一年半で仕上げたのが最後であると思っていた。 ちなみに、小圃千浦の版画のことは、下嶋哲郎「サムライとカリフォルニア 異境の日本画家小圃千浦」(2001年11月、小学館)の「違う、この色ではない」の節(p186-194 )に詳しい。 自分自身、有名なオバタ・ブルーの《山上の湖》はサン・フランシスコ近代美術館で見ており(記事はこちら)、小圃千浦の版画は礫川浮世絵美術館で開かれた土井コレクション展で見る機会があり(記事はこちら)、またその素描は「尊厳の芸術展」で拝見した(記事はこちら)。 このような世離れしたとも思われる二百度摺り伝統木版画はそれが最後だと思っていたのだが、今回の展覧会で、関西で1937年から1944年という戦時に、別な「二百度摺り」木版画が72点も制作されていたことを知って感動した。 もちろん絵師たる大野麥風の入れ込み方が相当なものだったことは、今回出展されていた校合摺り(摺り見本)に対する微に入り、細にわたる書込み指示をみれば明らかである。 会場に、「大日本魚類画集(Art Portfolio of Fishes by Bakufu Ohno)」の英文チラシが出ていた。第一輯(12枚組)の刊行が済み、第二輯刊行の途中の時期のPRだったが、価格が気になったのでメモしてきた。 第一輯(12枚組)=35円、第二輯(12枚組予定)=33円という値段だった。昭和12年の大卒初任給は70円ぐらいだったから、この第一輯と第二輯を合わせてちょうど大卒初任給程度、現在なら20万円というところだろうか。ちなみに、1枚バラ売り=4円(継続購入者は3円)だった。 以下は、今回出ていた版画の魚名であるが、馴染みの名前が多い中で、まったく聞いたことのない魚もたくさん含まれている。これに対しては、この『大日本魚類画集』に解説文を書いた魚類学者・田中茂穂と釣りバカ・上田尚両氏の文章が会場に張り出してあったのはとても良かった。 今回展示されていた版画の魚名は下記の通りである。 ・第一輯: ①鯛、②鮎、③伊勢海老、④ベラ、⑤マハゼ、⑥飛魚↑↑、⑦メバル、⑧鮒、⑨カワハギ、⑩虹鱒、⑪鰈、⑫金魚第3章の中に、「版画制作のバリエーション」というセクションがあり、ここには魚類の他に、花鳥や風景を題材とした版画も出ていた。ネットを検索してみると、大野麥風はこういった版画も結構多数制作していたようである。 こうして大野麥風の前半生は迷える画家だったが、後半生には魚の画家として完全に一家をなすに至っていた。図録の平瀬玲太・姫路市立美術館学芸員の論説「大野麥風」は「こんな類稀な画集に創作者としめぐり合えた大野麥風はなんという幸せ者であろうか」という文で〆られている。 このような稀有なる画集に鑑賞者としてめぐり合えた私も幸せ者なのであろう。 この東京で初の展覧会は9月23日までで、巡回はしない。難しいことを考える展覧会ではない。ゆっくり楽しんでも1時間半あれば十分である。とにかくお勧めの展覧会です。 美術散歩 管理人 とら Questionの正解は【メバル】です。
by cardiacsurgery
| 2013-07-27 13:47
| 浮世絵
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