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Tracy Chevalier の長編恋愛小説「真珠の首飾り」は大ベストセラーとなり、映画化もされたのでご存知の方も多いと思う。彼の小説「貴婦人と一角獣」も、有名美術作品をテーマにしたものであるが、柳の下に泥鰌はいるかもしれない。なにせ読書家とはとてもいえない私が本書を読んだからである。
私は、有名なタピスリー《貴婦人と一角獣》を国立新美術館で二度拝見し、その美しさに感動している。そして謎の多いこの作品に対して白昼夢的なストーリーを会場で考え、これをブログ Art & Bell by Tora にアップしている。 ということで、今回は、タピスリー《貴婦人と一角獣》の謎についてのシュヴァリエ説の要点をメモしておこととする。 この小説は、1490‐1492年のパリの貴族・ル・ヴィスト家とブリュッセルのタピスリー製作所に登場する人物たちが、それぞれ第一人称で語るという形式で書かれている。 タピスリーの「図案」を描いたのは、当時、細密画で有名になっていた画家であるということは定説だが、ここではその画家がとんでもない「女たらし」として登場している。画家の小説中の名前はニコラ・デジノサン。 この小説では、問題のタピスリーに家紋が沢山描きこまれているということから、その発注者はその家紋の貴族の当主・ジャン・ル・ヴィストとしている。 また、そのテーマを「貴婦人と一角獣」としたのは、夫人のジュヌヴィエーヌ・ド・ナンテールとしているが、その証拠は明らかにされていない。 画家・ニコラは、夫人・ジュヌヴィエーヌに対して、次のように提案している。 貴婦人が一角獣をてなずける図はいかがでしょうか。タピスリーはそれぞれ森のなかで貴婦人が音楽、馳走、花々で一角獣を誘う場面を表し、最後に一角獣が淑女の膝に頭を委ねます。 この提案に対し、夫人が言葉では反対しなかったが、実際には悲しげな目で自分を見つめていることに気づいた画家・ニコラは、次のようなコンセプトの絵にすることに決めたのである。 森のなかの誘惑ばかりでなく、この絵になにかしらこの夫人と縁のあるものを採りいれ、ひとりの女の生涯のすべてを表すタピスリーにしよう。 またニコラは、このタピスリーに「五感」の概念を滑り込ませることを考えついた。 ニコラが作成した「図案」では、娘のクロード・ル・ヴィストは、その《味覚》に美麗な女性として登場していた。 しかし、母親のジュヌヴィエーヌは、別の図に、小箱から首飾りを取り出している地味な女性として描きいれられていただけだった。 ジャン・ル・ヴィストに対して、ニコラは「この順でご覧ください」と「図案」の説明を始めた。 ・まず貴婦人が一角獣を手なずけるために首飾りを身に着けます(我が唯一の望み)。 画家・ニコラはブルージュの織元・ジョルジュ・ド・ラ・シャペルの機屋に赴き、地元の絵師とともに自分の描いた「図案」からタピスリー用の「下絵」を制作することになった。そこでニコラは機屋の娘で眼の見えないアリノエール・ド・シャペルと親しくなり、庭で愛を交わした。 ニコラは一旦パリに戻ったが、暫くして、再びブルージュに現れ、《触覚》と《視覚》の下絵に手直しを加えた。 彼は《触覚》の貴婦人をアリノエールの母に似せて描き、《視覚》の貴婦人を目の見えないアリノエールに似せて描き直したのである。描かれたアリノエールの目も微笑みも歪んでいた。 ニコラは、完成したタピスリー《私のただひとつの望みに》を前にして、ジュヌヴィエーヌ・ド・ナンテールに向かって次のように話した。 あなたのためにこの貴婦人は描きました。誘惑ばかりでなく、ひとの魂も主題にしたのです。貴婦人が首飾りをつけようとするこのタピスリーから始めて、一角獣を誘惑することもできます。また感覚のひとつひとつに別れを告げる情景を逆にたどり、最後に首飾りを外し、しまおうとするこの貴婦人で終わることもできる。欲にとらわれた人生を捨てるということですね。ある世界に別れを告げて、別の世界に旅立とうとしているということですね。首飾りをこのように持っていると、これから身につけようとしているのか、外したところなのか見分けがつきません。どちらとも、とれる。それが、あなたを思ってこのタピスリーに織りこんだ秘密です。 これに対し、ジュヌヴィエーヌ・ド・ナンテールは首を横に振り、次のように答えている。 このひとはまだ誘惑に身を委ねるのか魂の救いを求めるのか、どちらとも決めかねているように見えませんか。私はどちらをとるか、決めました。このタピスリーはいずれ娘の持ち物になるのですが、娘は誘惑に魅かれるはずです。 ここで、この6枚のタピスリーの順序を考えてみると、以下のようになる。 ・ジュヌヴィエーヌ・ド・ナンテールの考える順序は、《触覚》→《視覚》→《嗅覚》→《味覚》→《聴覚》→《我が唯一の望み》 ・ジュヌヴィエーヌ・ド・ナンテールの娘の考える順序は、《触覚》←《視覚》←《嗅覚》←《味覚》←《聴覚》←《我が唯一の望み》 ・今回の国立新美術館の展示の順序は、《触覚》→《味覚》→《嗅覚》→《聴覚》→《視覚》→《我が唯一の望み》 ・クリュニー中世美術館の展示の順序は↓、《我が唯一の望み》←《味覚》←《聴覚》←《視覚》←《嗅覚》←《触覚》 また、この小説では4枚の貴婦人のモデルは特定されているが、残り2枚の貴婦人のモデルについては推定すらなされていない。 このように、《貴婦人と一角獣》の謎の全貌解明は、日暮れてなお道遠しの感がある。 登場人物がその後どのような運命を辿ったかについては、「エピローグ」に要領よくまとめられていた。 特に、ドンファンの画家・ニコラに対する罰が面白かったが、ネタバレになるのでここで本記事は終了とする。 なかなか面白い恋愛小説だったので、長編だったが一気に読んでしまった。 美術散歩 管理人 とら
by cardiacsurgery
| 2013-06-13 23:31
| 西洋中世美術
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