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今回の回顧展は、アジアでは最初のものとのことで、私自身も待ちかねていた展覧会である。 以下、展示順にその概略を紹介する。 第1章 故郷: ・《花嫁と花婿》↓左上 : ロペスが、マドリードの屋根裏部屋で描いた初期の代表作。対象を複数の視点から捉えるキュビスム的手法が、左の静物の表現に現れており、酒、ギター、スイカは、陽気なスペインの結婚式の宴を彷彿とさせる。片手をあげた花嫁のポーズは、結婚の神聖さの象徴。花嫁の服のひだには、当時ロペスが傾倒していた古代ギリシア彫刻の影響が読み取れるとのこと。 第2章 家族: ・《夕食》 ↓左下: アンティームな家族の夕食のひととき。食卓に並んだ食器や食べ物の写実性は見事。隣に出ていたこの画のための素描とくらべると、この油彩画の右側の女性の顔が歪んでいるこが分かる。ロペスは完全主義のところがあったらしく、この油彩画の女性の顔は描きなおしの途中で中断され、全体が未完成のものとなっている。 第3章 植物: ・《マルメロの木》↑中央: ビクトル・エリセ監督が1992年に制作したドキュメンタリー映画「マルメロの陽光」の中で描かれれている作品である。秋の天候不順のために結局は未完に終わった作品であるが、ロペスの瑞々しい感性が映し出された代表作とされている。 この映画は、ロペスの生活を通して、人間の根本的な「生」にまつわる問題を静かに問いかけてくる名作とのことで、DVDにもなっているとのことである。 ・《スミレ》・《アビラのバラⅤ》・《バラ》↓: 比較的最近描かれた油彩の小品。家内のお土産として↓の絵葉書を買ってきた。 ロペスは自分が住む都市・マドリードに魅了され、1960年代初め頃から都市そのものを描いている。同じ状況で描くことにこだわった結果、毎年同じような季節や時間を選んで、間欠的に制作しているため、信じられないほどの長年月をかけて1枚の画を完成させている。 もちろん、その間に対象となる都市自体が変化していくのであるから、描かれた風景が生き物のような存在感と時間性を獲得している。 その意味では、ロペスは通常の立体的にも見える三次元のリアリズム絵画を描いたというよりも、時間という次元を含めた四次元のリアリズム絵画家であるといえるのではなかろうか。 ・《グラン・ビア》↑↑↑右(チラシ表): マドリードの目抜き通りであるグラン・ビアを低い視点から見上げるように描いた作品である。ロペスは早朝の光をとらえるために、毎年夏になると毎朝、現地へと向かい、同じ場所にイーゼルを立てつづけた。画面のデジタル時計の数字が6:30となっているが、1974‐81年の8年間、この時計を眺め、画筆を走らせていたロペスの執念には驚かされる。 その結果仕上がった作品は、画面奥の消失点から通りに沿ってこちらに迫力を持って迫り来るような素晴らしい活写となっており、まさに「ロペス芸術の金字塔」であるといえる。 ・《トーレス・ブランカスからのマドリード》 ↑↑右上: ロペスは、丘の上から鳥瞰的に都市をとらえ、空と街が二分割されたパノラマ的な画をいくつか描いているが、これはその中でもっとも完成されたものである。 ここでも曲がった道路によって、観るものの眼を遠景から手前に誘導しているともいえるが、この場合には広い空が描かれているためか、私自身の眼は手前から道路を通って空の方に導かれていった。 第5章 静物 および 第6章 室内: ロペスは身近な《花を生けたコップと壁》や《カボチャ》といった静物、《食器棚》、《トイレと窓》、《新しい冷蔵庫》など室内の事物を描いている。 その中にはシュールな状景、二視点合成絵画のような近代的な要素を組み込んだ作品もあったが、その基本は忠実な写実である。 第7章 人体: ロペスは若い時から、人体をモチーフとした彫刻作品を制作してきた。若い頃からマドリードの美術館で慣れ親しんだ古代ギリシア・ローマの彫刻への憧憬を抱いていたロペスの彫刻作品は、絵画同様リアリズムを基礎としたものばかりである。 作品としては、木彫の裸体像《男と女》 1968‐94年 国立ソフィア王妃芸術センター蔵が有名だが、これには完成までに26年の歳月をかけている。 近年(1996‐2013)は、孫たちの頭をモチーフとした数多くの《子どもたちの頭》を制作し、一方モニュメンタルな巨大なパブリックアートも手がけている。 「とら」のつぶやき バロックの17世紀以来、スペインのリアリズム絵画は有名であり、1992年1月に国立西洋美術館で開かれた「スペインリアリズムの美 静物画の世界」でも見ている。その図録を見ると、ファン・サンチェス・コターン、ベラスケス、スルバラン、アントオニオ・デ・ベレーダ、ファン・デ・アレリアーノ、トーマス・イエペス、ルイス・メレンデス、ゴヤなど17‐18世紀の錚々たる画家の作品が並んでいる。 ところが、1992年10月年に、Bunkamuraで開かれた「スペイン近代絵画展」の図録を見ると、ゴヤとピカソに挟まれた世代のフォルトゥニニ、バスケス・ディアス、ピナーソ、ソローリャ、バローハ、ソラーナといったほとんど知られていない画家の作品ばかりである。 アントニオ・ロペスは1936年生まれで、バルセロナ地方をベースとしてパリやアメリカで活躍したピカソやダリなど20世紀美術を切り拓いた画家たちと時代が重なるのであるが、ロペスはマドリッドを中心に仕事をしていたため、このような新しい画家たちの影響を受けることが比較的少なく、そのアカデミズム絵画を継承したマドリッド・リアリズムを独自に発展させてきたのではあるまいか。 自分自身、バルセロナに滞在していた時に、飛行機を使って日帰りでマドリードを訪れ、プラドとティッセンの両美術館を見てきたことがあるが(参照)、その経験からしてもこの両都市は遠い。 近年、リアリズム絵画の復権が叫ばれ、わが国にもそれを専門とするホキ美術館もできている。野田弘志もロペスと同年の生まれである。 磯江毅は残念ながら早世してマドリード・リアリズムを日本に移植するには至らなかったが、ロペスの今回の展覧会が日本におけるリアリズム絵画の復権に一役を買うのではあるまいか。 美術散歩 管理人 とら
by cardiacsurgery
| 2013-04-28 23:03
| 現代アート(国外)
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