飛騨の円空 ＠東京国立博物館 本館・特別5室

　美濃生まれの円空(1632-95)は、北海道や東北など各地の霊山を巡り、生涯で12万体の仏像を彫ったという。現存しているのは5300体で、愛知の3000体が最多で、次いで岐阜に1600体が残っている。

　円空は訪れた土地の山林の木を素材にして仏像を造 ったが、表面には何も塗らず、木を割った時の切断面、節や鑿の跡がそのまま見える像が多数ある。

　木の生命力を感じさせ、素朴で優しい円空の仏は江戸時代以来村人に親しまれ、今も多くの人の心を惹きつけている。

　この展覧会では、岐阜・千光寺所蔵の円空仏61体を中心に岐阜県高山市所在の100体を展示している。　

　中には、穂高岳、乗鞍岳、双六岳、白山などの山の名前を書いた像もあった。 円空が登ったのであろうか。

　以下は、お気に入りの仏像についてのメモである。

・岐阜・千光寺 《賓頭盧尊者坐像》↓：　入室してすぐの場所に展示してあった尊像。大勢に触られてピカピカしていたが、下から照明を当ててこれを強調するようになっていた。・千光寺《両面宿儺坐像》↓：　この円空仏には、光背が彫られていることも、両面宿儺（りょうめんすくな）が仏像なみに尊ばれたことの証しだろう。正面を向いた顔の左肩にもう一つの顔があり、顔一つにつきそれぞれの両手を持っている。　日本書紀では、「仁徳天皇六十五年（377年）、飛騨国に一人有り。宿儺（スクナ）と曰ふ。其れ為人、体を一にして両の面有り。面各相背けり。頂合ひて項無し。各手足有り。其れ膝有りて膕踵無し。力多にして軽く捷し。左右に剣を佩きて、四の手に並に弓矢を用ふ。是を以て、皇命に随はず。人民を掠略みて楽とす。是に、和珥臣の祖・難波根子 武振熊（タケフルクマ）を遣して誅さしむ」となっており、スクナは怪物まがいの凶賊とされている。

　しかし、美濃や飛騨では、根強い両面宿儺への信仰がある。高山市郊外の千光寺では両面宿儺を「御開山様」と伝え、スクナを刻んだ円空仏も伝わっている。これが今回展示されているのである。

　また、善久寺も宿儺を開基とし近くにはタケフルクマに攻められたスクナが立て籠もった末に、首を括って自害したという洞窟がある。その他、美濃・飛騨では多くの古寺が両面宿儺を開基として「両面さま」「両面僧都」などと尊称している。

　すなわち当時の美濃（三野）、飛騨（斐陀）は大和朝廷に従わない異族の国であり、両面宿儺はその首長であったと考えられる。

　宿儺（スクナ）は、このように蝦夷（えみし）の軍事指導者・「阿弖流為（アテルイ）」に相当する人物だったのである。ちなみに、アテルイは789年（延暦8年）に日高見国・胆沢に侵攻した桓武天皇の朝廷軍を一旦は撃退したが、坂上田村麻呂に敗れて降伏し、処刑されている。（参考：　NHKで放映中の「アテルイ伝」の概要はこちら）

・千光寺《金剛力士（仁王）立像　吽形》↓：　特大の像。立ち木から彫りだしたもの。・千光寺《歓喜天立像》：　7年に一回開扉する秘仏。象頭人身での双身像で、お互いに抱き合っている。ヒンドゥー教のガネーシャ（Ganesa）に起源を持つ。

・千光寺《三十三観音立像》↓：　現存しているのは31体だが、大変な労力である。病気平癒のために貸し出したものが返却されなかったこともあるという。・千光寺《不動明王および二童子立像》：　この三体を一本の丸太から制作している。童子は制多迦童子（せいたかどうじ、不動明王の右）と矜羯羅童子（こんがらどうじ、不動明王の左）。両者の性格の差がはっきりと見てとれる。制多迦はやんちゃ小僧、矜羯羅はまじめ小僧。・千光寺《宇賀神像》↓：　人頭蛇身でとぐろを巻く形で表されている。・千光寺《宇迦楼羅（烏天狗）立像》↓：　天狗は、仏法を守護する八部衆の一、迦楼羅天が変化したもの。カルラはインド神話の巨鳥ガルーダで、金色の翼を持ち頭に如意宝珠を頂き、つねに火焔を吐き、龍を常食としているとされる。 ・岐阜・東山白山神社《如意輪観音菩薩坐像》↓：　右小指の末節をちょっと曲げて、微笑んでいるとことろが可愛い。・岐阜・錦山神社《稲荷三尊坐像（獣頭形） 》↓：　面白い像ですね。全部が狐でしょうか。
・岐阜・清峰寺《龍頭観音菩薩立像》および《聖観音菩薩立像》：　いずれも大きな仏像。辻惟雄著「日本美術の歴史」p303に両者の画像が載っているから代表的な「円空仏」といえるのだろう。ただしその教科書では、前者は《善女竜王像》、後者は《善財童子像》となっている。　最後に、千光寺蔵の大森旭亭筆 《円空像》の画像（部分）をアップする。実物では、絵の上に「一心」という文字が木端で書かれていた。　大小さまざまな「円空仏」を十分にエンジョイできた。

【追記１】　雪の残る東博風景。↓↓では、水面に薄氷が張り、水鳥が難儀していた。【追記２】　博物館で初もうで‐巳・蛇・ヘビ　＠本館特別１室・２室。1月2日に来た時には、うかつにもこの部屋を見るのを失念していたので、リカバリー撮影。

・舞楽「還城楽」：　ヘビを見つけ、飛び上がって喜び、舞い踊るという西域あるいは唐由来の舞楽。海野勝珉の《還城楽図額》↓と千崖の《還城楽図》↓↓・能「道成寺」：　《日高川草紙（模本）》の日高川を蛇体となって渡る清姫↓と道成寺の鐘を取巻いて中に隠れている安珍を焼き殺す蛇体の清姫↓↓というのが、私の知っている安珍清姫伝説のストーリーだが、キャプションは↓↓↓のようで微妙に違っている。
　能「道成寺」のあらすじは、以下のような安珍清姫伝説の後日譚である。

1．紀伊の道成寺では、再興した釣り鐘の供養が行われることになった。住職は、訳あって女性が来ても絶対に入れてはならぬ、とお触れを出すが、一人の白拍子の女が供養の舞を舞わせてほしいと寺男に頼み込んで、供養の場に入り込んだ。

2．女は舞いながら、隙をみて釣り鐘の中に飛び込み、落ちてきた釣り鐘の中に入ってしまった。

3．ことの次第を聞いた住職は、道成寺にまつわる恐ろしい物語を語り始めた。それは、昔、真砂の荘司の娘が、山伏に裏切られたと思い込み、毒蛇となって、道成寺の鐘に隠れた男を、恨みの炎で鐘もろとも焼き殺してしまったというもの。

4. 僧達の祈祷によって持ち上がった鐘の中からは蛇体に変身した女が現れた。蛇は男に捨てられた怒りに火を吹いて暴れるが、僧侶の必死の祈りに堪えず川に飛び込んで消えていった。

・十二支図：　隋～唐時代の《飛天十二支八花鏡》↓。巳は中央の正方形の下右隅に見られる。
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