明治神宮の名宝 ＠明治神宮文化館・宝物展示室

　新春初詣で賑わった明治神宮も1月11日ともなると、この程度↓の人出。　元旦に近所の八幡さまで初詣では済ませているが、ここでももう一度健康と家内安全を願ってお祈りした。クリスマスカードを書き、除夜の鐘を聞いた後、新年は神社という日本人独特のフレキシブルな宗教観は、悪いものではない。

　数日前に外苑の聖徳記念絵画館で「明治天皇・皇后事跡壁画」80面を見ている。記憶が消えないうちにと、内苑の文化館で開催中の「明治神宮の名宝展」に出ているこの壁画の下図6点を見ることにした。ちなみに、今まで見た下図は、《大政奉還》と《振天府》だけであるが、他にも沢山あるようだ（参考）。

　金色の額装の下絵は、壁画に比べて小さいが（20号）、格調の高さは同じである。両者の構図の差に注目して、観察してきたが、会場の下図のそばに壁画のパネルが出ていなかったので、記憶の中の壁画との比較しかできないのはチョット残念。

１．川崎小虎《践祚》下図#4：　小御所における皇位継承の儀式を描いたこの絵は壁画と同一構図。

２．前田青邨《大嘗祭》下図＃22：　この絵では大嘗祭の儀式のため、天皇が廻立殿から悠紀殿へ移るところが描かれている。青邨が急逝した吉川霊華に代わって描いたものである。重要なことは、この下図は壁画とまったく異なる構図となっている。私が見たところ、絵としての出来映えは下図のほうが壁画よりはるかに優れている。
　下図においては、特徴的な悠紀殿の屋根を強い俯瞰図として強調しているが、廊下を進んでくる人物は強い俯瞰図の下図では、人数も4人しか描き込めず、天皇の姿も分かりにくい。
　詳細は不詳であるが、おそらくこの点が問題になり、青邨はやむなく描きかえたのであろう。その結果、壁画では悠紀殿の屋根の俯瞰図（上半）と廊下を進む人物の側面図（下半）を別々に描き、この両者を組み合わせたものとなっている。

　このような壁画に変えざるをえなかった前田青邨の気持は、この見事な下図から十分に伝わってくる。

　会場は撮影禁止だったので、記憶のためにこの下図の構図を簡単にスケッチしてきた。

３．堂本印象《侍講進講》下図＃30↓：　これは壁画と同一構図。この絵では、天皇が大きな机の上で黄色の表紙の書物を開いており、元田永孚が脇机の上に同じ本を開いている。今回の展覧会には、明治天皇御料の「幼学綱要」ならびに類似の大きさの机が展示されていたが、仔細に比較してみたところ、この下図に描かれている書物とは表紙の色が異なっており、机の形も少し違っていた。

４．木村武山《徳川邸行幸》下図#31↓：　下図と壁画は、大体の構図は同じだが、細かい点では多少の相違がある。壁画では、窓から外を見ている人物が、完全に桜の花に囲まれた見事な構図であったが、この下図では窓から外を見ている人物の居る建物が桜の上方に描かれている他、壁画にはない緑の枝も描きこまれているため、絵全体の桜色にとってはマイナス効果があるように思った。

5．矢沢弦月《女子師範学校行啓》下図＃34：　これは壁画と同じ構図だと思った。

6．山下新太郎《歌御会始》下図＃53↓：　これも壁画と同一構図。　
　その他の展示品は↑のチラシのように、衣装、工芸品、書画、書籍など。以下に気付いた点を書き残しておく。

・明治天皇の書は力強く、昭憲皇太后の書はたおやかで、見事だった。現在でいえば変体仮名となってしまった伝統的な仮名文字を使いこなしておられるのは流石であり、現在の仮名文字に統一してしまったのは、間違いであるような気がしてきた。

・後藤貞行作の《馬の置物》は料馬「金華山号」を大切にされた明治天皇御料である。同一作家の馬の置物がしばらく前のTV番組に登場していたことを思い出した。

・明治天皇錦絵が2点出ていた。楊州周延の《宮中月並御歌会》と月岡芳年の《春興御歌会》である。

・書物としては、昭憲皇太后御料の《二十一代集》と《栄華物語》、絵画としては、川端玉章のおめでたい双幅《鶴亀の図》と横山大観の《明治神宮図》を見ることができた。

・そのほか、見事な衣装や蒔絵も拝見した。

　宝物殿の方には、「明治天皇紀附図」81点が出ているとのことだったが、週末だけの開館ということで出直すこととした。なお、宝物殿と文化館のチケット（施設維持協力金500円）は両施設共通で1ヶ月間有効。
美術散歩　管理人　とら