
この展覧会は、
西美のデューラー展の姉妹展。
プロローグに続いて、
第1章:デューラー、
第2章:デューラー以後、
第3章:近代ールドンへの道 に大別されている。
しかし中心はもちろんメルボルン国立ヴィクトリア美術館(NGV)から来た「ヨハネ黙示録」(APOCALYPSE)である。初版は、1498年にドイツ語版及びラテン語版で出版されているが、その試し刷り版がいくつも出品されているのが今回の特長である。1511年には新たな扉絵を付け加えたラテン語版が再版されたが、同時に《大受難伝》と《マリアの生涯》初版を含む「書籍版 大版画集」も出版された。
以下、通番タイトル番号順に、デューラーの画像を載せ、拙い説明を付け加える次第である。
0. 扉絵ー聖ヨハネのもとに現れた聖母: 福音書記者聖ヨハネは、自分の幻視体験を書きとめている。傍には持物の鷲。
(この扉絵は1498年の初版ードイツ語版とラテン語版ーにはなく、1511年のラテン語版再版の折につけられたものであるが、今回出展された扉絵はその試刷版で字の入っていない貴重品)
1. ヨハネの殉教: 福音書記者聖ヨハネは、油釜で茹でられたが、かえって若返って出てきたという伝説がある。この絵は、聖ヨハネは頭から油をかけられ、釜の火が点けられた瞬間。1匹の犬が心配そうにこちらを見ている。
(これは1498年以前の試刷版で、貴重なもの)
2. ヨハネと七つの燭台: キリストの「黙示」とは、神が将来起ることを僕たちに示すために、その予言をキリストに与え、キリストが天使をつかわして聖ヨハネに伝えたものである。実際には、聖ヨハネが、神がキリストに与えた予言の内容を幻視したのであるが、その内容をヨハネ書に記して、アジアの七つの教会に送るように天使から命ぜられたというストーリーになっている。画の中央に描かれた全能の神は、金の帯、白髪、烈日のような顔、焔のような目、七つの星を持つ右手、両刃の剣が出てくる口を持っている。神が開いて左手に持つ本には、秘められた物語が記されているのであろう。七つの金の燭台は七つの教会の象徴。聖ヨハネは燭台で仕切られた聖域に入り込み、神の足元に膝まずいている。
(黙示録1章より、町田国際版画美術館所蔵の1511年版)
3. 神の玉座を囲む24人の長老:
神が坐る碧玉や赤瑪瑙で飾られた玉座の周りには、緑玉のような虹。神が手に持っている本を七つの角と七つの目を持つ子羊が覗き込んでいる。この本は、実際は裏表に文字が書かれた巻物で、七つの印で封ぜられた。この本を、キリストたる子羊が受け取って、黙示録のストーリーが進行していくことになる。玉座を取り囲む二十四人の長老は白衣で、金冠を戴いている。玉座の上には、七つの燈火があるが、これは神の七つの霊。玉座の前には、獅子・牛・人・鷲がいるが、いずれにも六つの翼があり、その翼のまわりや内側に目を持っている。聖ヨハネもこの天の聖域に昇っているように描かれている。
(黙示録4章、5章より、1498年以前の試刷版)
4. 四人の騎者: 子羊が、七つの封印のうちの第一の封印を解くと、白馬に乗り弓を持った騎者、第二の封印を解くと、赤馬に乗り剣を持った騎者、第三の封印を解くと黒色の馬に乗り秤を持った第三の騎者、第四の封印を解くと、三叉熊手を持った「死」の騎者を乗せた青白い駄馬が現れた。これらの馬は空中をギャロップで疾走していた。騎者たちは、人を殺すことを許されており、犠牲者が描きこまれている。(黙示録6章より、1498年以前の試刷板)
5. 第五および第六の封印を切る: 続いて、第五の封印が解かれると、天使によって祭壇の前を取り囲む殉教者に白衣の贈衣が行われており(
参照論文)、祭壇の下には殉教者たちの魂やヘロデに殺された幼児が見えている。彼らは「主よ、いつまで審くことをせず、われわれの血の復讐をされないのですか」と訊いた。子羊が、第六の封印を解いた時、大地震が起こり、太陽は黒く、月は血のような色になった。そして天の星まで落ちてきた。
(黙示録6章より、1498年ドイツ語版)
6.風を止める四人の天使: 四人と天使が大地の四隅に立って四方の風を引き止めている。別な天使が現れて、「我らが神の僕の額に印するまで邪魔をするな」という。その間に、また別な天使が僕たちの額に十字の刻印を押している。(黙示録7章より、1511年以降の木版)
7. ラッパを吹く七人の天使: 最後の七番目の封印が解かれた後には、半時の間は静かだった。七人の天使にそれぞれラッパを与えられた。別の天使が、祭壇の前に金の香炉を持ってきて、香をたいた。この天使が香炉に祭壇の火を入れて地に投げると、雷、稲妻、地震が起こった。ここで四人の天使がラッパを吹いた。第一の天使のラッパでは、天から血の混ざった雹と火から降り注いで、地は火の海となった。第二の天使のラッパでは、海は血となり、第三の天使のラッパでは、空からは隕石が降り、水は苦くなってしまった。第四の天使のラッパでは、太陽・月・星の三分の一が欠けてしまった。中空の一羽の鷲は、「他に三人の天使がラッパを吹くので、さらに災いが起こるだろう」と叫んだ。(黙示録8章、9章より、1498年以前の試刷版)
8. ユーフラテス河畔の四人の天使: 第五の天使がラッパを吹いた際には、「底なき坑」の鍵のはいった隕石が落ちてきた。その鍵で坑を開くと、煙とともにイナゴが出てきて、神の印のない人々に害をあたえるのだが、デューラーはこのことはこの版画に描いていない。したがって、第六の天使のラッパが吹かれた後の物語が、この絵の主題である。ラッパが鳴ると、神の前の金の香壇の四隅から、「ユーフラテス河辺に繋がれている四人の天使を解放せよ」との声が聞こえた。この四人の天使は人間の三分の一を殺すのが使命であった。沢山の騎兵が現れたが、彼らは火焔色・硫黄色の胸当てをつけ、口から火と煙と硫黄とを吹き出す獅子のような頭をもった馬に乗っていた。
(黙示録9章より、1511年 ラテン語板)
9. 書物を食べるヨハネ: 頭上に虹、太陽のような顔、火の柱のような足を持った天使が現れた。その手に開いた巻物を持ち、右足を海上に、左足を地上におき、右手を天に向かって上げ、「第七の天使のラッパが鳴ると、神の奥義が成就される」と述べた。天使は「この巻物を食べてしまいなさい」といった。これを食べてみると甘かったが、お腹が苦しくなったという。この画にはもう一人の天使が描かれており、右側の大きな樹に向かってなにか話している。これは、この樹の根元に坐っている聖ヨハネに向かって「このことは封じて書き記すな」という天からの声を伝えていることに対応するものなのだろう。
(黙示録10章より、1498年ラテン語板)
10. 太陽の女と七つの頭の竜: 太陽を身につけ、月の上に載り、十二の星の冠を戴いた女性が見えてきた。この女性はまさに出産せんとしていた。一方、大きな赤い龍も見えてきた。この龍は、七つの頭と十の角を持っており、頭には七つの冠を載せていた。その尻尾はきわめて長かった。この龍が、女性が子供を産むや食べてしまおうと待ち構えていた。生れた子供は男子で、将来諸国の人々を治める運命を持っているのであるが、この子供は天の神の許に運ばれた。女性は荒野に逃げて、神の庇護を受けたという。
(黙示録12章より、1511年板)
11. 聖ミカエル、竜を倒す: 天で戦争が起こり、大天使ミカエルたちは龍に対して勝利をおさめた。この龍は悪魔(サタン)であり、地に落とされた。ちなみにこの龍は、前述の「七つの頭と十の角を持った龍」とは別物である。画面の下部には、広大な風景がパノラマ状に広がっており、高い視点から描かれていることが分かる。
(黙示録12章より、1511年板)
12. 海から上がる獣と子羊の角を持った獣: 海から十角七頭の怪獣が現れた。角には十個の冠が付いていた。獣たちは、この龍を尊敬し、その味方になって、聖徒と闘った。この他に、地から小羊のような二本の角を持つ怪獣が出現してきて、人間を惑わせ、その偶像を作らせ、これを拝まぬものを殺した。画では、鎌を持つ神や天使たちも困った顔で描かれている。
(黙示録13章より、1498年以前の試刷板)
13. 子羊の前の選ばれし者たち: シオン山上に子羊が立っている。例の4種類の生物ならびに長老たちがこれを取り囲んでいる。この子羊には七つの角と七つの目がある。子羊は神より封印された巻物を渡されたキリストの象徴である。子羊の胸からほとばしる血を聖杯が受けている。この血が、艱難をくくりぬけてきた人たちの衣を洗って白くしたのである。棕櫚の葉を持った白衣の清き人々は子羊を礼拝し、歌声をあげている。
(1511年版、黙示録7章および14章より)
14. バビロンの淫婦: 都バビロンを象徴する大淫婦が、七頭十角の緋色の怪獣の上に坐っている。彼女は、地上の王様や住民たちと淫行・飲酒を重ねている。この女は、紫と緋色の衣装をつけ、宝石で身を飾っており、金の杯を手にしている。画の左下に描かれている聖ヨハネも怪訝そうにこの女を見ている。描かれている困った顔の二人の天使は聖ヨハネのほうを向いているので、聖ヨハネに説明している姿なのだろう。左上から、白馬に乗った騎士が降りてくる。その後には白馬に乗った大勢の軍勢が従っている。そして戦が起り、負けた地上の王や獣たちは火の池に投げ込まれたり、殺されたりした
(1498年以前の試刷版、黙示録17章および19章より)
15. 深遠の鍵を持つ天使と新しいエルサレム: 天使の一人が「底なき所」の鍵と大きな鎖を持って、天から下りてきた。この天使は、龍すなわち悪魔(サタン)を捕らえて、千年の間、「底なき所」に閉じ込めた。これが画の右下に描かれている。千年後に、サタンは開放されたが、諸国の人々を味方につけて、聖徒たちとその都を包囲した。このため、天から火が下ってきて悪人たちを焼きつくし、彼らを惑わせた悪魔を火の池に投げ込んだ。本来ならば、ここに「最後の審判」の場面が入るはずだが、このシリーズではなぜか省かれている(
こちらは「小受難伝」の《最後の審判》)。画の右上には、一人の天使が下りてきて、聖ヨハネに新しい美しき聖都エルサレムを指し示している。そこは高い城壁で囲まれ、十二の門には十二の天使が立っている。穢れた者たちはここに入ることはできず、小羊の「生命の書」に記された者だけがこの都に入ることができるのである。
(1511年刊、書籍「大版画集」のうち黙示録20章および21章より)

以下は附記になるが、プロローグの《最後の審判を告げる天使》↓は、町田美蔵の作者不明のドイツ木版本で、1465年ごろの作品。しかし黙示録図像は、7世紀ごろから存在していたというから、これではまことに不十分。参考出品として出ていた東京芸大蔵の「バンベルグ黙示録」などもっと古いものはファクシミリ版だった。

デューラー以降では、セバスティアン・マイアーの木版挿絵連作《黙示録註解》がユーモラスで面白かった。左右対象で右ページには最近の宗教の堕落を皮肉るものが多かった。

最後の章のルドンは、独自の雰囲気。白と黒のバランスが良い。
美術散歩 管理人 とら