常設展ー秦テルヲの《自叙画譜》を見た @東京国立近代美術館

4F一般展示：　菊池契月《名士弔葬》↓、小林古径《極楽井》、土田麦僊《湯女》、徳岡神泉《蓮》 、河野通勢《好子像》が良かった。契月の絵からはしみじみとした哀悼の情が伝わってくる。名士については特に説明がなかった。4F特集展示「南薫造」：　イギリス留学の成果の《スコットランド老人》、 水彩のようにやわらかで明るい《少女》、ほら貝を吹いているようだと酷評された《六月の日》↓はいずれも印象的。3F一般展示：　小林古径《柳と桜》、お気に入りの近藤浩一路《水田》↓、林司馬《牡丹》、太田聴雨《星をみる女性》。3Fショウケース展示：　見慣れた小茂田青樹の《虫魚画巻》の隣に、秦テルヲ（Hada Teruo）の《自叙画譜》が出ていた。このデカダンの異端画家が描いた重い女性画は、高崎市タワー美術館に前期・後期通った「三都の女」展でいくつも見ているが（《女郎（花骨牌）》、《血の池》、《吉原の女》、《渕に佇めば》）、ここに出ていたのは晩年になって製作された回想的な画帖あるいは水墨画による日記風の小品の一つである。まず、その1枚目の自叙↓が面白い。　拡大して読んでみると次のようである。

吾れ九歳にして父を失ひ　二弟一妹あり　貧しきため母と
倶に労働し　明治三十七年京都美術工芸学校図案科を学ぶ　　基督教に培はれつゝ静物風景を写す
明治四十年頃より宗教的社会意識に眼覚め　労働者
貧民窟　乞食を絵く　後　基督教に疑を抱き煩悶
半歳　小児に親しみ　酒と女に耽溺し　辛ふじて狂死を
脱す　大阪　神戸　東京を漂白い　倫落の女に陰
惨なる世相を観し　生と性に喘ぐ都会の罪悪画
家を以って慠る
病を得　死に直面して以来　暗き死の憂悶を表現
せんとす
大正九年　父となり　思想軟化　否定を肯定し　東京を
去る　南山城瓶原村に住し　初て太陽を視　母性愛
を通じて仏画研究に入る　道遠く　興尽くさす　法を山に聴しも　まだ我執に捉はる
画業年年　回顧すれは　人間妄執の血痕也

　　昭和十二年秋　秦テルヲ　識

　画帖の2枚目は「野菜と写生」、3枚目は「吉野之森」、4枚目は工場？、5枚目は「梅雨晴之貧民窟」、6枚目は「乞食の母子」、7枚目は「柿之実取」である。　この画帖については、秦恒平氏の講演「秦テルヲの魔界浄土」で触れられている。

3F戦争画：　宮本三郎《山下、パーシバル両司令官会見図》、藤田嗣治《サイパン島同胞臣節を全うす》とい戦争画の両巨頭が左右に並んで出てきた。これについては別記事とする。

美術散歩　管理人　とら