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1月23日(土)、NHKのBS20周年ベストセレクションとして2003年8月にハイビジョンスペシャルとして放映された「さまよえる戦争画―従軍画家と遺族たちの証言」が再放映され、これに対するコメントもその後に放送された。
戦争画には以前から興味を持っているので見ることにした。とくに2003年と2010年の7年間に戦争画に対する見方がどのように変わったかという点に注意して聴いた。 まず東京国立近代美術館(近美)にある153点の戦争画(わたしの作成した132点の展覧会別リストはこちら)のうち、2003年当時は6割が未公開であるということが紹介された。これは戦争被害を受けた近隣諸国に配慮しているからということだった。 この番組の企画は元戦争画家で戦後倶知安に引きこもっていた小川原脩が2002年8月に死亡する前に、「戦争画は全面公開すべき」という趣旨の手紙をNHKに送ったことからスタートしたようである。小川原はインタビューの中でも「戦争画の実在の責任は僕にある」とはっきり述べていた。終戦から半世紀以上経た今、戦争画を描いた画家たちはほとんど故人となっているので、この小川原の見解は貴重である。 終戦直後には、戦争画を描いた画家の責任を激しく追及した宮田重雄に対して反論したけれども結局は日本を離れざるをえなかった藤田嗣治(代表作の画像①、画像②、画像③、画像④、画像⑤)、自分の責任を強く否定しながら自分が戦争画を描いたという証拠をすべて消し去ろうとした伊原宇三郎(代表作の画像①、画像②)、戦犯として進駐軍に捕まることにおびえていた宮本三郎(代表作の画像①、画像②)、戦争画を画集に載せず展覧会にも出さずに忘却しようとした小磯良平(代表作の 画像①、画像②)など、元戦争画家の意見や対応はさまざまであった。清水登之(代表作の画像①、画像②)は、長男育夫が船の沈没で戦死したことで大きなショックを受け、毎日育夫の肖像ばかり描くとともに育夫の墓の前で泣いていたという。 これらのことは周知の事実であるが、この企画ではこれらの戦争画家の遺族の意見が取材されていた。実は今に残る153点の戦争画は、修復の終わった1977年に公開されることになっていたとのことである。画家と遺族の承諾のあった絵を一括公開する企画が立てられたが、政府と一部遺族の反対により公開前日になって突然中止が決定されたのである。 伊原宇三郎の次男であり画家である伊原乙彰氏は、「戦争画の全面公開は年月を経て戦争画が芸術作品として観られる時期まで待つべき。50-100年封印しておいていい」と述べている。 一方、清水登之の娘・中野冨美子さんは、「隠しておくべきものではない。後世に伝えなくてはいけない」と語っている。また宮本三郎の孫・宮本陽一郎氏(筑波大)は「戦争画を隠してしまうことには賛成できない」という意見である。実際に小磯の次女・嘉納邦子さんは小磯良平の戦争画の出展を了承したこともあるという。 2003年のこの番組は問題のありかを非常に分かりやすく伝えていた。それでは2010年現状はどうなのだろうか。近美の話では、戦争記録画は2003年の時点では60点しか公開されていなかったが、その後少しずつ公開され、現在は153点のうち140点の展示が終了しており、未展示のものは大きすぎて展示できないというようなものとのことである。 プロデューサーによると今回のアンケート調査では、公開賛成が8-9割、反対が1-2割であったという。 ところが、コメンテーターの意見では「一括公開には問題があり、現在のように3-4点ずつ展示していくのがいい」とのことだった。反対の理由は相変わらず近隣諸国への配慮で、近美で一括展示すると政府が指示したことになり、近隣諸国から軍国主義復活ととられる可能性があるとのことである。近美の責任者の意見もまったく同じであり、「一括展示はできない」と断言された。 しかし考えてみると、これは近美だけで決定できるものなのだろうか。「くさいものに蓋」といったこういった態度は過去の戦争責任を隠蔽するものとして近隣諸国の信頼に傷をつけるものではなかろうか。 増子保志氏がpdf論文「GHQと153点の戦争記録画-戦争と美術」の結論として、「問題は、戦争記録画を如何なる文脈で考察するかであり、美術と社会、政治などの関係を含め、様々な方向から考察しなければならない。それには、まず絵画を公開することが急務である。隠すことからは何も始まらない」と述べておられるのは卓見であると思う。 一括展示が無理ならば、全作品の画像公開からスタートするのも一つの考えであると思う。独立行政法人国立美術館の検索システムで、キーワードに「戦争記録画」と入力すると戦争画の作家別リストが出てくるが、画像がリンクされているのはごく一部である。これを充実させていくというのが現実的な方法かもしれない。 美術散歩 管理人 とら
by cardiacsurgery
| 2010-01-27 15:44
| 戦争画
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