芳年ー「風俗三十二相」と「月百姿」（後期） ＠太田記念美術館

　月岡芳年の「月百姿」は、この数年追っかけている。この展覧会の「前期」で99点を見たことになり、完全踏破まであと1点になっていた。自作の「月百姿 一覧表」も完成してリーチ状態である。　その最後の1点《猿楽月》が今日からはじまる「後期」で見られることになった。とるものもとりあえず仕事場を早退して原宿に向った。幸いまだ空いている。いきなり最後の1点に突進したいところだが、やせ我慢して1階から順番に見ていくこととした。畳敷きコーナーの肉筆画に月岡芳年が2点出ていた。《雪中常磐御前》と《深夜の訪問図》。色彩を抑えた上品な作品である。小林清親の肉筆画《舩上山図》は隠岐を脱出した後醍醐天皇がおぶわれた姿。次は「風俗三十二相」の後半。さらりと流して2階へ。ここから「月百姿」の後半が始まる。

　見慣れた画がどんどん出てくるがお目当ては壁に掛っていない。最初のガラスケースにもない。焦りながら最後のガラスケースに向うと、そこにお待ちかねの《猿楽月》↓が鎮座していた。　自分で作った「月百姿」一覧表では、この画の説明文は↓のようになっている。

　毎年春に京都からの使節を供応するために、江戸城では能が舞われた。この際には、金持ちの町人も招待されたが、夜明け前の開門と同時に、彼らは席をとるために、もらった傘を持って、なだれ込んだ。この版画では、武士がこの騒ぎを冷ややかに見ている。

「月百姿」を追いかけて3年近く、ようやく会えた画である。ジックリと味わった。この画の中の町人はみんな番傘を持っている↓。　そこへ女子学生と思われる観客が一人やってきた。この女性はミューズかもしれない。遠慮しながらチョット話しかけてみた。もちろん100点踏破のことはおくびにも出さない。

TORA：　あの町人たちは傘を持ってますよね。
MUSE：　あれは何かと思ってました。
TORA：　江戸時代には天気予報はないですからね。
MUSE：　？
TORA：　能を観る武士は屋根のある屋敷の中から見ますが、商人は青天井のところに坐るのですからね。
MUSE：　傘は家から持ってくるのですか？
TORA：　入口で全員に渡していたようですよ。
MUSE：　ここにそんな説明は書いてありませんね。
TORA：　ちょっと不親切ですね。
MUSE：　ありがとうございました。

　これはこの美術館で開かれた「生誕170年記念　楊洲周延展」に出品された《温故東の花　第三篇　旧幕府御大礼之節町人御能拝見之図》↓を見れば明らかである。　武士↓は室内に行儀良く座っているのに対し、野外の町人たち↓↓は裃を着けてはいるが、番傘を持って大騒ぎしている。急に雨が降ってきたのだろうか。　こうやって私の「月百姿」騒ぎは終わった。正直いって完全踏破したからといってそれほどの感激はないが、最後にMUSEに祝福していただいた？ので、これで良しとしたい。

美術散歩　管理人　とら

註：　念のため、た「月百姿　一覧表」をブログにも再掲しておく。記載は、番号・略名・コメントの順。