松岡映丘とその一門 ＠山種美術館

　この美術館は館蔵品を巧く組み合わせて展覧会にしてくる。今回の展覧会の副題には「山口蓬春・山本丘人・橋本明治・高山辰雄」という門弟ばかりがあげられているが、師匠や友人など松岡と縁があった画家の作品も並べられている。


１．師匠たちの作品：　橋本雅邦・川端玉章・小堀鞆音・寺崎広業

●川端玉章《海の幸図》：　洋画風の趣のある親しみやすい漁村の風景。単眼鏡で見ると、一尾一尾の魚が丁寧に描かれているのが分かる。●小堀鞆音《那須宗隆射扇図》：　小堀は松岡が助教授だった頃の美校の教授で、歴史画を得意としている。平家物語の有名な場面。那須与一の鎧などの描写は見事である。２．金鈴社の友人たちの作品：　吉川霊華・結城素明・平福百穂・鏑木清方

●鏑木清方《伽羅》：　伽羅枕で髪に香の薫りを移す美人画。清方は、１９１６年に松岡映丘、吉川霊華、結城素明、平福百穂とともに「金鈴社」を結成している。

３．松岡映丘の作品：　５点
●《春光春衣》：　金鈴社の第１回展への出品作。あでやかな新興大和絵である。●《山科の宿ー「おとずれ」》：　映丘は、今昔物語の「高藤内大臣語」より「雨宿り」と「おとずれ」の２場面を描いており、１９１８年第１２回文展の特選となっている。

　主人公は後に内大臣となる藤原高藤(839-900)。１５－６歳の頃、鷹狩りに出て、雷をともなう風雨にあい、一夜の宿りを求めたのが、群の大領官道弥益（だいりょうのじのいやます）の家。１３－１４歳であった娘と一夜の契りを交わした高藤は形見に短刀を渡した。

　６年後の２月、梅の季節にこの家を再訪した高藤は、美しく成長した娘と５歳ぐらいの女の子、そして形見の短刀を見出して驚く。今回展示されているのはその場面である。

　高藤は、母子を連れて帰り、妻とした。この娘は、宇多天皇の女御となって、醍醐天皇の母となり、続いて生れた二人の息子はそれぞれ大将と大臣になった。美校校長であった正木直彦の詞書を読むとさらに詳しいことが書かれている。

●《千草の丘》：　水谷八重子の若き日の姿。素敵である。
●《伊勢物語　第23段　筒井筒》：　弟子の吉村忠夫との合作である。
●《斎宮の女御》：　女御は白描とされている。

４．弟子たちの作品：　服部有恒・山口蓬春・山本丘人・橋本明治・川本末雄・杉山寧・浦田正夫・高山辰雄・野島青茲

　お気に入りは、●服部有恒の存在感のある《淀殿》、●山口蓬春の見事な《新宮殿杉戸楓４分の１下絵》、●山本丘人の《養生の火山》と《入る日（異郷落日）》↓、●橋本明治の縁線・青緑色・顔の陰影の目立つ《月庭》や《舞》↓↓、●杉山寧の蕾の上手な《朝顔》↓↓↓、●高山辰雄の深い宗教性が表された《坐す人》、●野島青茲がサリーをまとった美しいインド大使夫人グーハー女史を描いた《麗衣》などである。　民俗学者の柳田國男など「松岡五兄弟」という遺伝子や優れた師に恵まれた松岡映丘の最大の業績は、その門下から個性豊かな画家が育ったということであろう。優れた弟子を持つことは教師にとって最高の幸せである。

美術散歩　管理人　とら