展覧会の英文名は"Old Masters from Hermitage Museum"で、「隠れ家」というエルミタージュ美術館に「大」という形容詞が付いているのは違和感を感じるが、この展覧会の特別協賛が「大」和ハウス工業であることと関係付けるのは穿ち過ぎというものだろう。
ブログに書いたように、十分な予習をしていったので、85点の出展作品を1時間ほどで見おわり、帰宅して昼食を摂った。
春休みや大型連休も過ぎて、この展覧会(会期:3月18日―6月18日)も終盤となっているためか、場内は空いていた。
暖かい良い日だった。見終わってから、外の写真を撮ると、見事な快晴である。
展覧会の構成は、以下のようである。
プロローグ
1.イタリア:ルネサンスからバロックへ
2.オランダ:市民絵画の黄金時代
3.フランドル:バロック的豊穣の時代
4.スペイン:神と聖人の世紀
5.フランス:古典主義的バロックからロココへ
6.ドイツ・イギリス:美術大国の狭間で
以前に見た作品も少なくなく、お気に入り作品も多いが、ここでは私の「エルミタージュ10選」を制作年代順に挙げることとする。
#1 クラーナハ《林檎の木の下の聖母子》1530年頃
聖母の切れ長の目、ややとがった顎、長く美しいブロンドの髪などは、画家の他の聖母にも見られる特徴である。こちらを見ている幼いキリストはリンゴとパン切れをつかんでいるが、パンはキリストが「最後の晩餐」で自らの身体と見た「聖体」であり、リンゴとともにキリストによる救済のシンボルである。
#2 ティッィアーノ《羽飾りのある帽子をかぶった若い女性の肖像》1538年
モデルの顔立ちは有名な《ウルビーノのヴィーナス》(フィレンツェ、ウフィツィ美術館)のそれに近く、かつてはティツィアーノの恋人を描いたのではともいわれた作品。白いダチョウの羽飾りのついた帽はボーイッシュな印象で、彼女はここで男性用の帽子を借りて男装を楽しんでいるとの説もある。
#3 ハルス《手袋を持つ男の肖像》1640年頃
17世紀のオランダ絵画は「黄金時代」と呼ぶにふさわしく、肖像画、静物画など絵画ジャンルの専門化が進んだ。オランダでレンブラントに引けを取らない人気を博したのが、フランス・ハルスである。ここでは富裕な男性市民の誇りと自信に満ちた表情を見事にとらえている。
#4 カルロ・ドルチ《聖チェチリア》1640年代後半
聖チェチリアは、古代ローマの貴族の娘で、キリスト教信仰に身を捧げて殉教死した。音楽の守護聖人であり、しばしばオルガンの側にいる姿で描かれる。エルミタージュのこの作品は、ドレスデンの作品を幾分変更したバリエーションである。
#5 ルイ・ル・ナン《祖母訪問》1645∸48年
祖母訪問という題名は、この画の主題と一致していない。実際には、子供の楽師と歌い手がわずかな金を稼ぐために農家を訪ね回るというフランス農村のありふれた状景が描かれている。ルイ・ル・ナンは、アントワーヌ、ルイ、マテューの「ル・ナン兄弟」の次兄。
#6 シャンパーニュ《預言者モーゼ》1648∸63年
モーゼに導かれたイスラエルの人たちは、エジプトの地を出てから3日目にシナイの荒野に入り、シナイ山の前に宿営した。神はこの山からモーゼとイスラエルの民に語りかけ、十戒を授けた。本作品のモーゼは十戒を記した石板を手にしている。石板の向かって左側には神と人間の関係を規定した3つの戒めを、右側には人間の礼儀作法に関する7つの戒めを記している。
#7 スルバラン《聖母マリアの少女時代》1660年頃
スルバランは宗教画家として活躍したスペインの画家であり、徹底したリアリズムとカラヴァッジョ風の劇的な明暗表現による峻厳な聖人や修道僧の絵でよく知られる。それだけにこの作品に描かれる愛らしくも敬虔な幼いマリア像は、この画家としては異例ともいうべきものである。襟と袖口の優雅な模様や手芸用の細い糸が見事に描かれている。
#8 ムリーリョ《受胎告知》1660年頃
大勢の天使や光を放つ鳩が飛ぶ雲の下で、大天使ガブリエルはマリアに話しかけ、マリアはそれを理解している。大天使が持つ百合の花はすでに祈祷用の小卓の上にある。
#9 デ・ホーホ《女主人とバケツを持つ女中》1661-63年頃
フェルメールに並び室内画、風俗画で有名なデ・ホーホによる戸外での日常生活のひとコマを描いた作品。心のどかな午後のひととき、画面中央に座る女主人と、今夜の食卓に乗せる魚を見せる女中が描かれている。巧みな遠近表現がなされている点もデ・ホーホらしい。
#10 レンブラント《運命を悟るハマン》1660年代前半
ハマンはペルシャ王クセルクセスの右腕だったが、ユダヤ人嫌いで、王妃エステルがユダヤ人だったことから王の不興をかい、極刑を科される。前面にいるのが自分の運命を悟り、観念したハマン、後方には彼を見送るかのようなクセルクセスと別の部下が描かれている。
#次点 シャルダン《食前の祈り》1744年》
食事を前に手を合わせる妹と、すでに祈りを済ませた姉、それを優しく見つめる母親という一般的な市民家庭の日常のひとコマを描いた作品。整理整頓された清潔な室内も彼女が良き母、妻であることを物語る。ルーヴル美術館にほぼこれと同じ絵があるが、床に置いた卵料理のフライパンはルーヴルの絵にはない。他にも同名の作品があるが、本例では向かって右下隅に年記と署名が入っている。
美術散歩 管理人 とら