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このコレクションは常設展示場を持たないことから「壁のない美術館」と呼ばれており、「扱いやすい寸法で、手軽に経済的に安全に輸送できる」作品約9000点で構成されている。 東京ステーションギャラリーの入口近くの倉庫にも、輸送用ボックス(↓左)が山積みになっており、図録にはこれに使うシール(↓右)が挟まれていた。 「新しいものへの興味を失った時に人は老いる」という言葉がある。そうならないように、この内覧会に出かけてきた。 本展のフライヤーの冒頭に、企画者の時代認識が明らかにされている。 曰く「制度に支配された時代や、物質が溢れ返る時代を経て、今われわれは「私」(private)の時代を生きています。それは単なる個の時代ではなく、その個が表向きには閉ざされた空間の中でそれぞれに成熟し、現代の技術がそれらの世界を隣り合う細胞のように結び付け、自ずとルールを生成しては、その価値観を全人類と共有している、そんな世界です。もはや公も私もなく、ここにしかない場所であると同時に、どこにでも繋がっている世界ー「ユートピア」(utopia)に生きているといってもいいでしょう。」続いて、企画者の現代美術認識が記されている。 曰く「このような時代のなかで、美術においても、些細な日用品を応用した作品や、ふとした視点の転換で、すぐそばにありながら知り得なかった世界へと誘ってくれる作品が1990年代から多く制作されるようになりました。」この展覧会では、企画者のこういった時代や現代美術に対する認識に基づいて選ばれた、1990年代以降に活躍している英国のアーティスト約30名による絵画、写真、映像、立体など約120点が紹介されている。 下にフライヤー裏面の画像を引用する。 1. 物語/Tale/Fable/昔々あるところに1. 物語/Tale/Fable/昔々あるところに 1-1 マーカス・コーツ Marcus Coates: 《エビガラススズメ蛾、エビガラススズメ蛾の幼虫、シェービング・フォームによる自画像》(↑上段左)は、作者自身が泡や溶いた小麦粉に包まれて、繭に包まれた成虫になる前の蛾になってしまっている。動物の視点で人間世界を眺めたいという変身願望なのだろう。このように変身し変態を経験した作者が紡ぐ物語は「知りたくもあり、知りたくもなし」といったところ。 1-2 マイク・ネルソン Mike Nelson: 2001年と2007年のターナー賞候補であり、2011年ヴェネチア・ビエンナーレ英国代表。《ブラック・アート・バーベキュー、サン・アントニオ、1961年8月》1998年(↑上段中)は、あるアーティストのアトリエを再現したインスタレーション。題名は、机の周りに掛けられたドローイングの作品名をつなぎ合わせたもの。机の上には、デューラーの銅版画《書斎のヒエロニムス》がある。この部屋を覗き見た者がこのアーティストの正体を推理して、ひとつの小説の主人公とするには、シャーロック・ホームズばりの知識と豊かな想像力が必要のようだ。 1-3 コーネリア・パーカー Cornelia Parker: 1997年ターナー賞候補。《ミレニアム・ドームに落下する隕石》 は、熱した実際の隕石を、ロンドンの地図の異なる名所に落として、焦げ穴ができた地図を作品として提示している。観ているものは思わずその焦げ穴の中を覗き込み、運悪くそこに居合わせた人々の人生に思いをはせることになる。 1-4 グレイソン・ペリー Grayson Perry: 2003年ターナー賞受賞。《ペニアン人の村》2001年(↑上段右)は美しいセラミックの壺。そこには男根崇拝村落の物語が描かれていて、観ているものは、そこに描かれている無数のイメージから空想の物語世界に引きずり込まれる。 1-5 エリザベス・プライス Elizabeth Price: 2012年ターナー賞受賞。《1979年、ウールワースのクワイア》20012年(↑中段左)は、ビデオ・インスタレーションで、多くの歴史的資料が組み込まれた三つの物語のオムニバス。ヘッドフォーンで不思議な音声を受けながら、椅子に坐って、ジックリと①教会建築、②ポップ・ミュージックとコーラス、③マンチェスターの百貨店火災の映像を楽しんだ。ヘッドフォーンがなければ、この面白さはとても理解できないだろう。事実、途中で席を立つ人たちはヘッドフォーンを付けておられなかった。 1-6 サイモン・スターリング Simon Starling: 2003年ヴェネチア・ビエンナーレのスコットランド代表で2005年ターナー賞受賞。 《シャクナゲを救う/7本のシャクナゲをスコットランドのエルマリック・ヒルから救い出し、1763年にクラース・アルステーマによってもたらされる以前に植えられていたスペインのロス・アルコルノカレス公園に移植する》1999年は、外来種のシャクナゲを故郷に帰して助ける旅の途中の写真。この作品を見ながら、アフリカ大陸から奴隷船でアメリカ大陸に強制的に移された有色人種のことを考えたが、これは多分考え過ぎなのだろう。 2. 意味/Sense/Nonsense/ 喜劇と悲劇の幕間に 2-1 ジェイク・アンド・ディノス・チャップマン Jake and Dinos Chapman: 2003年にターナー賞候補。《私の大きな塗り絵の本》2004年には、チャップマン兄弟の21枚のエッチング。一見すると児童画だが、よく見るとそれぞれに邪悪なものが描きこまれている。例えば、花を持ったカワイイ少女のすぐ後ろでは家が爆発しており、ぬいぐるみの頭部や腹部にはジッパーが付いていて、内臓を見ることができるようになっている。それぞれの図には細かく数字が描かれているが、これは観者視線誘導技術なのだろうか。いずれにせよ、悪夢に出てきそうなグロい画ばかりなので、軽く流した。 2-2 アダム・チョズコ Adam Chodzko: 《ナイト・シフト(夜勤)》2004年は、展覧会の開場前の早朝に、鹿・蛇・犬・鼠・蝦蟇・蠍などの動物を放ち、彼らが動き回った経路が描きこまれたナンセンスな案内図と気の毒な動物たちの写真が作品となっている。この案内図に描かれた動物の動きは単純すぎるので、おそらくは仮想の案内図なのだろう。「騙した作者が悪いのか、騙された観者が馬鹿なのか・・・」という歌謡曲があったかな。 2-3 ジム・ランビー Jim Lambie 2003年ヴェネチア・ビエンナーレのスコットランド代表で、2005年ターナー賞候補。音楽活動も行っている。レコードプレイヤーのターンテーブルに無数のヘアバンドやベルトをぶら下げたインスタレーション《レット・イット・ブリ-ド》と《マイクロ・ドット》が左右に並べられていた。電源がつながっているから、このターンテーブルは回ると思いたいところだが・・・でも、騙されないように注意!。いずれにせよ音楽とアートを繋ぐ作品だから、ナンセンスな作品だがそれなりの意味がないわけではない。 2-4 デイヴィッド・シュリグリー David Shrigley: 2013年ターナー賞候補。《彼は野獣を見た》1998年は、子供の落書きのような単純な表現と滑稽な状況の組み合わせて、アートに対する先入観や価値観を茶化している。 2-5 ウッド & ハリソン Wood & Harrison: 《テーブルと椅子》2001年(↑中段右)はビデオ。この画像の後の映像の中身はネタバレになるのでここには書けない。ヒントとしては、コメディ・タッチのシーンが出てくるということと登場人物はアーティスト二人だけということぐらいかな。 3.風景/Landacape/Mindscape/見たこともない景色の中で 3-1 アンナ・バリボール Anna Barriball: 《グリーン+ブルー=シアン》2001年は、スタンド部分が青と緑の二つのランプが発する光を、ランプの形と影を描いた画の上に重ねて、あたかも光線によってできた形と色のように錯覚させている。 3-2 ピーター・ドイグ Peter Doig: 1994年ターナー賞候補。《無題(グリーン)》1998年は、ホラー映画から着想を得た風景。セザンヌ風のタッチの緑の草原の中を、同じ緑色の上着を着た男が赤い屋根が目立つ灰色の洋館に向かっている。あの館の中で惨劇が起こるのだろうか。 3-3 ロジャー・ハイオンズ Roger Hiorns: 2009年ターナー賞候補。《規律》2002年では、硫酸銅液でサファイアのような美しい青色に発色させた結晶を作成する技法で、超現実的なアザミの花束を制作している。 3-4 ポール・ノーブル Paul Noble 2012年ターナー賞候補。《カール邸》1997年は、15年以上にわたり描き続けている架空の大都市「ノブソン・ニュータウン」を描いた巨大な鉛筆画のシリーズからの作品。住民の名前「CARL」の形になった家である。作品の左上には小さく「Welcome to Nobson's personaralised holiday villas ようこそイブソンの個人別荘へ」と書かれている。 3-5 ジョージ・ショウ George Shaw: 2001年ターナー賞候補。《灰色の日曜日:午後3時》2004-5年(↑下段左)は、公営住宅の前庭に聳え立つ落葉樹のある風景。まったく人気はなく、回想の風景のようである。 3-6 トビー・ジーグラー Toby Ziegler: シリーズ《巨大な遺跡のようなもの》では、円・筒・コップ・卵といった構成要素の基本図形として、小三角形を使用し、全体としてトーテム・ポールのような形状のデジタル画像に仕上げている。 4.自己/Myself/Yourself/わたしの在り所 4-1 ジェレミー・デラー Jeremy Deller: 2004年ターナー賞受賞。2013年ヴェネチア・ビエンナーレ英国代表。《アシッド・プラス》1997年では、炭鉱閉鎖によって存続の危機にたつ田舎のブラスバンドと都会の若者の間で社会現象となっていたアシッドハウス音楽との融合を描く映像作品。当然ながら、ヘッドフォーンは必須。流暢に説明する女性アナの声はアメリカンアクセントなのに、最後に'indeed'というブリティッシュ英語が出て、お里が知れた。また、この作品を見ながら、サッチャー時代の炭鉱閉鎖と鉱夫たちのブラスバンドをテーマにした映画「ブラス!」(Brassed Off)のことを思いだしていた。 4-2 トレイシー・エミン Tracey Emin: 1999年ターナー賞候補。2007年ヴェネチア・ビエンナーレ英国代表。ロンドン・ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ初の女性教授の一人。《なにか変》2002年は、布と刺繍でできた自画像だが、アップリケされた多数のコインが股間に寄せ集められている。これは秘密を漏らしたことでコインがこうして産まれてくることを暗示しているとのこと。レンブラントの《ダナエ》では、金の流れは逆方向であり、この自画像を見て「世も末だ」と嘆くのは私だけではないだろう。 4-3 ギャリー・ヒューム Gary Hume: 1996年ターナー賞候補、同年サンパウロ・ビエンナーレ出品。1999年ヴェネチア・ビエンナーレ英国代表。《シスター・トゥループ》から《無題》2009年(↑下段右)は、アメリカのチアリーダーの姿をグラフィカルに表現したスクリーン・プリント。こういった奇麗な作品はマイタイプ。 4-4 サラ・ルーカス Sarah Lucas 1962年生まれ、1990年代から活躍。煙草を吸いながら下着を脱いで便座に坐る《人間トイレ、再び》1998年や股間を広げた大胆なポーズの《神聖なもの》1991年は、「セルフ・ポートレート 1990-1998」からのものだが、女性が自分を撮影する写真としてはひどく挑戦的なもの。これらは社会的な性差別に対する抗議のようだ。 4-5 ハルーン・ミルザ Haroon Mirza: 1977年生まれの若手。《タカ・タック》2008年は、パキスタン滞在中に制作された映像作品。これはタカ・タックという羊肉を素材とした大衆的な伝統料理を街頭で作る料理人を主題としたもので、作品から材料を刻むリズミカルな音(タカ・タック)が聞こえてくる。パキスタン系英国人である作者が、イスラム文化における音楽の忌避とコーランの朗誦の音楽性との矛盾を問いかけているのだそうだ。 5.引用/Quotation/Appropriation/’ちょっと拝借’の流儀 5-1 マーティン・ボイス Martin Boyce: 2009年ヴェネチア・ビエンナーレ・スコットランド代表、2011年ターナー賞受賞。《モビール(あなたと一緒にいることは新しい過去のよう)》2002年では、1995年にモダニスト・デザイナーのアルネ・ヤコブセンがデザインした有名な「椅子シリーズ7」のパーツを分解して天上に吊るしている。今は亡きモダニズムへのオマージュであり、挑戦でもある。 5-2 マーティン・クリード Martin Creed: 2001年ターナー賞受賞。《立方体 作品No.78》1993年では、絆創膏テープを一定の長さで切り出し、これを重ね合わせて小さな正立方体にしている。実用的な既製品の形式的なものへの変容ということなのだろう。 5-3 ライアン・ガンダー Ryan Gander: 《四代目エジャートン男爵の16枚の羽毛がついた極楽鳥》2010年(↑↑フライヤー表)は、マナーハウスと呼ばれる領主の邸宅で開催された展覧会のために制作された作品。マナーハウスには、猟で狩った鹿の頭や外国の動物の剥製がよく置かれているが、この作品では、実在した屋敷の主が新発見したという作り話が流された南国の鳥とその真贋に関する新聞記事を並置することによって、嘘と真実の境界を曖昧にしている。 5-4 エド・ホール Ed Hall: 《ブリティッシュ・カウンシル・コレクション・バナー(コンテンポラリー・アート・バージョン)》(↑中段右)には、デミアン・ハースト、アニッシュ・カプーア、サラ・ルーカスらのイメージが描かれている。もう一つのモダン・アート・バージョンにはヘンリー・ムーアやバーバラ・ヘップワースなどの作家が含まれている。 5-5 ローラ・ランカスター Laura Lancaster: 捨てられそうになっているスライド・ポラロイド・写真などに写っている古いイメージを再生して、《無題》の油彩画を制作している。これらは「記憶と忘却」をテーマとしているのだとのことである。 5-6 ケリス・ウィン・エヴァンス Cerith Wyn Evans: 2003年ヴェネチア・ビエンナーレ・ウェルズ館代表。《ソー・トゥー・スピーク(つまり)》1998年は、ネオン管の光を用いたミニマルな立体作品。 不慣れな21世紀英国美術の長大なメモにお付き合いいただいた方に深謝します。 美術散歩 管理人 とら
by cardiacsurgery
| 2014-01-21 00:29
| 現代アート(国外)
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